逃げて追いかけて
転移者が何か言う前にセラに撃つように指示をする。どうせ、殺すのだから聞く必要もない。向こうは一瞬動きが止まったが、その後は咄嗟に左に避けていった。
少し遅れて転移者の同行者たちが、ようやく気が付いて戦闘態勢に入った。
「貴様たちは何者だ!」
大剣を構えたいかにも騎士っぽい男が聞いてきたが無視をして転移者の方を見る。転移者は私の方を見て警戒しながら後ろの仲間と何か話している。見た所マントにとんがり帽子と魔法使いっぽい格好しているな。先に潰した方がよさそうだ。他はざっと見た感じだと、弓持ちが二人に槍持ちが一人大剣と魔法使いも一人ずついる。
「隊長~どうしますか~?」
セラが照準を定めたまま私に聞いて来る。今のセラの装備は全弾実弾でゴム弾はない。後ろに人がいると転移者が躱した時に当たってしまう恐れがある。しかもセラの使っている重機関銃だと当たれば重症確定のような物だからなおさら撃てない。
「セラはいつでも撃てるように待機、ナギとアイビー、ユッカとバロックのペアは合図をしたらそっちのうるさい奴らの無力化を頼む」
「おい!聞いているのか!」
私が全く返事していないことに腹を立てた大剣使いがひと際大きい声で怒鳴った。挑発するように耳を塞ぎながら
「もう一度言う貴様は何者だ」
その問いを聞くと言うことは転移者から私達の事は聞いていないということだ。全て正直に話してしまっても構わないかな。
「そこの男の命を取りに来た。それだけだ」
「そうか、なら敵なんだな」
そう男が言った直後に全員が警戒態勢から臨戦態勢に変わった。
ここで、何故だ!と聞かれなくてよかった。一回だけ聞かれた時に素直に答えたら、それで争いが収まるならと転移者が裏切られて殺された時が一回だけあった。死ぬときは少なくとも自分の死に涙を流してくれる人がいて欲しいと私が思っているだけに少し可哀想だと今でも思う。
それに、無駄に話さなくて楽だ。
「その通りだ。だから、さっさとかかってこい」
相手から向かってくるように、あえて挑発をする。相手はそれ以上何も言わずに雄叫びを上げながら突進してくる。
「行動開始」
私の合図と同時に全員が動き出す。アイビーがゴム弾を使って手足に狙いを定めて撃ち始めるが鎧には弾かれてしまった。しかし、衝撃はあった様で少し動きが鈍ったように見える。
今の内にと大剣使いの横を通って転移者の方に向かって駆けだそうとするが
「させるかぁぁぁ!!」
男は自身が持っていた大剣を力任せに横に振ってきた。私は咄嗟に刀で受け止めようとするが大剣の重さと男の筋肉が乗ったかち上げに近い一撃は私の体を簡単に浮かした。筋力等の全体的な身体能力は加護持ちに対抗する為に高めに作られている私達だが、体重などのプロフィールは見た目の年齢と見た目に沿った重さになっているため下からの攻撃だと吹っ飛ばされる可能性が高い。上からなら何とか出来るからそっちにしてほしかった。
「らぁぁぁい!」
声を上げながら男は大剣を振りぬいて私を空中に飛ばした。今回飛行装置は持ってきていないので頑張って空中で手足をばたつかせて姿勢を正す。
とりあえず着地をしないと、そう思っていると男の後ろにいた二組の男女が弓を構えて撃ってきたが難なく刀を振るって撃ち落して着地をする。そしてそのタイミングを狙って転移者の後ろにいた魔法使いが炎を放ってきた。
私狙われ過ぎじゃないか?このままでは転移者に集中できないから何とかしたい。
地面を蹴って身をひるがえして炎を躱して再び着地する。
アイビー達はどうしているのかと思い見回すとアイビーとナギは槍使いとさっき弓を撃ってきた男の方を相手をしてユッカは弓使いの女性の方、バロックは大剣使いと戦っている。もう少し早く戦ってほしかった。
「隊長、大丈夫でしたか~?」
私の所にセラが走ってきて合流する。
「ああ、やはり転移者はタイマンの方が戦いやすいな。こうも邪魔が入ると集中できない」
それに余り苦しまずに殺してあげたいから、数の暴力はあまり好きじゃない。
「そのことなんですけど~転移者が見当たらないんですけど~」
「え?」
そう言えばさっき見渡した時に転移者の姿が見えなかった。後ろにいた魔法使いもいつの間にか姿を消している。
逃げた?
その思考に反するかのように後ろの火山の方から風船が割れる時に鳴る破裂音のような音が響いた。
「…向こうか」
「ですね~」
どうやら、こいつらの目的は私達の足止めで、転移者と魔法使いっぽい奴の二人を行かせるための時間稼ぎ要因か
「…よし、セラは私と転移者を追う。ナギ達は転移者以外の相手の足止めと無力化を頼む」
そう指示をして返事を聞かずに音がした方にセラと一緒に駆け出していく。
「行かせるとでも!」
大剣使いが阻止しようと接近してくるが、バロックの妨害によって迎えていない。他の奴らも抜け出そうとしている私達に攻撃をしようとするが、アイビー達の攻撃に邪魔されてうまく動けないようなので気にせずに追いかける。
それよりも、私としては破裂音が気になる。バリアの類を破るとなると破裂音というよりもガラスが砕けるような音がするものだが、どういうことだろう。
今の所転移者の目的が不明だ。多分火山の秘宝を目指しているのだろうが、それが何なのかの特定は記録課の資料を読む限りだと多すぎて分からなかった。ノルニルフラワーからドヴェルグスレイヴとか良くわからないものまで洞窟にある秘宝の数と何の目的のために来たのか分からなかったから、特定はできなかった。
とりあえず目的の場所が分かっているだけで十分だからそれ以上追及はしなかった。
バリアについては十中八九転移者の仕業だろう。問題は転移者が中に入った場合、内部の構造で迷ってしまう可能性があるのだ。私達も突撃して道ずれになりたくないので、出来れば痕跡を残して欲しいと願いながら私は走る速度を早くしていく。
「予定通りだねぇ」
そう言って男は嬉しそうにニヤニヤする。
「そうね、でも何で私達ギリースーツを着て隠れているのかしら?」
そう言って女性は隣で双眼鏡を除いている男に声をかける。今私達は近くの雑木林からギリースーツを着て双眼鏡を覗いて様子を見ている。
「宙に浮いていると向こうに見つかるかもしれないでしょうに、向こうに見つかったら絶対失敗邪魔されるから目的達成直前まで隠密で行かないと」
「それは聞いたけど、なんでさっさと転移して回収しないの?」
聞くところによると、あそこは私達の組織と少しだけかかわりがあって内部の構造も知っているそうだ。その時にはバリアなんてものはなかったが、目的の物を回収しようとしたら謎のバリアがあったからこうして誘導してバリアを壊してもらったということだ。で、バリアを壊れたのなら転移して持ってくればいいのにずっとデバイスの画面を見て動かない。
「いやねぇ、大分外見が変わっているから内部の構造も変化してる可能性があるからこうして確認しているんですよ。ほら」
そう言って男は持っていたデバイスを女に見せる。デバイスの画面には洞窟の中を移動している映像が移されていた。
「転移者の装備にカメラ仕込んだの?」
「イエス!この装備を元々買ったのは私でね。そこに仕込んだだけさ。ついでに発信機もあるから勇者が目的の物を見つけた瞬間その場所に転移してゲットって事さ」
男は悪そうに眼鏡を光らせながら縁をクイっと持ち上げた。
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