邂逅する
部隊の皆さんとの楽しいバーベキューから数日経って転移当日の作戦開始10分前、今までと同じように転移課の部屋にて待機しています。今回使う装備は前回とそんなに変わっていません。他の皆さんも似たような感じで前回と装備が大きく変わっている人はいません。
「…フー」
顔を上に向けて一度大きく深呼吸をした後に顔を前に戻して隊長は話し出します。
「さて諸君、今回も外来種の駆除を行う。現在対象はエドモリア火山に向かって移動しているようだ」
「それは…逃げるため、ですかね~」
セラさんが頬に手を当てて自分の予想を口にします。
「いや、調べたところによると、この火山に出来ている人口の洞窟の奥に詳しくは分からないが、とにかくその洞窟が目的なんだと思う」
「お宝ですかね?…もしその洞窟が目的なら、その洞窟の中に転移してゲリラのように待ち伏せをするほうがいいと思うのですが?」
バロックさんがそう提案しますが隊長は首を振りました。
「いや、その先ほど人工に出来た洞窟と言ったがその中には殺傷能力の高い罠を確認することが出来た。それにどうやら洞窟内には結界が張られていて転移も物理的な侵入も出来ないそうだ。頑張って洞窟の入口への転移が限界らしい」
「とにかく移動しているのなら楽っスね。軍隊を相手しなくていいし、罠を仕掛ける余裕もないっスから」
「ああ、だが詳しくは調べられていないが少なくとも数名の仲間と合流しているようだから油断は禁物だ。油断して死ぬなんて私は許さないからな」
そう言って朗らかに笑っていますが目が全く笑っていません。死ぬつもりは全くありませんが、死ぬ怖さはドラゴンのブレスが当たりそうになった時に経験しているので出来るなら二度と味わいたくありません。
「さて、そろそろ時間だ。各自組み合わせは事前に教えたとおりだ。もし分かれて行動する場合があったら、そのペアで行動するように」
「わかりました」
今回私はナギさんと一緒です。隊長はセラさんと、ユッカさんはバロックさんと組むことになっています。
「では、これより外来種の駆除を開始する!全員生きて帰ってくること」
隊長が合図を出して転移が始まります。次第に体が浮かぶ感覚がして辺りが輝き始めて段々増してくる輝きに私は目を思わず瞑りました。
ガタゴトと揺られる馬車の中で俺は目を閉じて考える。
ここ二週間彼女の言っていた様な奴らは来ていない。このまま現れないのが一番いいが、そうもいかないだろう。話を聞く限り目的が俺だから、俺が時間稼ぎをすればいいのだが…
俺は目を開けてチラリと反対の方を見る。反対側には勇者時代に何度か仕事した奴らがいる。実力は何度も仕事をしているからよくわかっているが、だからこそ不安なのだ。こいつらが無事に持って帰ってこれるか心配だ。どちらにせよノズルさんから聞いた話では火山の近くにはバリアのような物が張られていて侵入が出来ないようになっているらしい。そのことが分かった当初多くの学者が調べに来たが、原因も原理も解明することが出来なくて世界七不思議みたいな扱いになって観光名所になっているそうだ。
正直未だに半信半疑だがあそこで待っているよりは動いていた方が不安もまぎれるから、こっちのほうがいい。
「どうした?大丈夫か?」
目を開けて声の方を見ると何度か仕事をした男が声をかけてきた。名前はシャードと言って大柄な体をしていて、その体に似合う大剣を持っている。昔はどこかの騎士団の団員だったそうで、現在は引退して奥さんと二人で農場経営をしているそうだが、ノズルさん話を聞いて手伝いに来てくれた。他の連中もすでに引退している奴らがほとんどだ。彼らの実力は申し分ないが復帰というのが少し不安だ。
「ああ、大丈夫だ」
「本当か?まぁ、心配なのはわかるが、あまり気負うなよ」
「分かっている…それよりもそっちは大丈夫なのか?奥さんに適当言って出かけたらしいが怒られないか?」
「絶対怒られるな。今は丁度刈り入れ時で人手が欲しい時に一か月も家を空けると言ったから、相当絞られたよ」
「…なんか、すまんな」
こいつはこの中で唯一の既婚者だ。今の奥さんがまだ恋人だった頃に領主に取られそうになったから自信を顧みずに殴り込みをかけようとした時にたまたま俺と出くわして一緒に潰した間柄だ。
「なぁに気にするな。その代わり全部終わったら一杯付き合えよ。良い店知ってんだ」
そう言って肩を組んでくる。昔からそうだ、少し酒癖が悪いしその癖飲み始めると加減を知らないから必ず潰れる。おかげで良くこいつを担いで家まで送ったものだ。
「ああ、いつも通りシンデレラを頼むことにしよう」
「お前いつもそれだよな。うまいのか?」
うまいと言うか、ノンアルコールだから頼んでいるだけで、余り違いが分からない。
「まぁ、そんなところかな?今度飲んでみれば?」
「そうだな…」
そう話していると馬車のスピードが次第に落ちてきて、遂に止まる。
「着きました」
御者からの、その声に全員がほぼ同時に動き出す。
「本当にあるのかな?」
一人が不安げな声を上げながら馬車から降りていく。
「だって手掛かりはあの御伽噺だけだよ?僕だったら、ないと思うな」
「そうかもしれない、でもあそこにバリアがあるから何かあるのは事実だよ。それを確かめられたら僕たち表彰ものだよ!」
無いと困る。例え雲をつかむような話であっても、他に助ける方法が無いから来たんだ。そう思いながら火山を見上げる。バリアの範囲は火口付近に絞られているが道がデコボコしているから、そこまでは徒歩で歩くことになる。
緊張をほぐすために軽く話をしながら進んで、火口がすぐ近くに来た時だ。
「…待って」
魔法使いの一人が歩みを止めた。何があったのか聞こうとしたが、その必要はなかった。
目の前の空間が歪んで歪みの中心から女性が六人現れた。現れた六人はすぐに武器を持って構えた。あるものは腰の剣を抜いて、ある人は銃を構えている。何で銃を持っているのか聞きたいが、俺の事情を話して説得しようと一歩前に出て口を開く。
「セラ、撃て」
しかし、俺の言葉よりも先に向こうが口を開いた。それと同時に女性の一人が俺に狙いを定めてきて、銃が火を噴いた。
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