向こうの話 町へ行く

「さあ、たべましょうか」


 ケンナさんの言葉を待っていたかのように俺とノア、そして二人の弟が手を合わせる。


「「「「いただきまーす!」」」」


 全員が声を揃えて祈って食事を始める。…小屋の方で放置されているセッカさんを除いて。


 正直、もう毎朝ノアに言われて放置されているから、そろそろ慣れてもいいのでは?と思う時もあるが、むしろ前よりも悪化しているようにも見える。毎日最愛の娘に言われ続けるとキツイのだろうか?

とは言っても俺が何を言っても聞く耳を持たないから特には言わないけど。


「さてこの後の納品についてだけど、いつも通りイツカとノアで行ってくれるかい?」


 朝食をケンナさんがいつもの通りにこの後の仕事内容を振ってきた。とは言っても俺達に割り振られる仕事はいつも一緒で町へ品物を私に行く仕事が降られるのだけどな、だがこの仕事も俺達にしか出来ないのも確かだ。ノアの弟たちは幼すぎるし、セッカさんは行動できない。ケンナさんは弟二人の面倒と牧場の世話を同時にこなさないといけない。それと、セッカさんへの説教も…忙しさで言ったらケンナさんの方が大変だ。それでもそつなくこなしているケンナさんの姿を見ると尊敬してしまう。


「さぁ、ノア、イツカさっさと食べて行ってきてちょうだい」


 ケンナさんにせかされたので、急いでパンを詰め込んで水を飲んで押し流す。そして立ち上がってケンナさんの方を見る。


「ごちそうさまでした、美味しかったです。ノア、先に台車を用意しておくな」


「あ、うん、お願い」


「「いってらっしゃーい!」」


「おう!」


 ノアの弟に見送られて外に出る。そして納屋から台車を引っ張り出して、町に持っていく荷物を詰める。いつもだとヤギのミルクから加工したバターにチーズそれと牛乳を売りに行く。鮮度に関しては町にいる魔法使いかいから物を冷やす道具を定期的に買っているので問題ない。


 俺が初めてお世話になった時は余り売り手がいなくて今よりも貧しかったが、俺が勇者業を終えてから知り合いに口利きをしたので少しは余裕が出てきている。俺が来たときなんて部屋に隙間風が入りまくって寒かったからな。それに比べたら、今は十分に裕福と言ってもいいだろう。


「おまたせ」


 積み荷を一通り積み終えた所に、ノアがロバを二頭連れてきた。そして手馴れた様子で道具を取り出してロバを台車に取り付けていく。この作業も慣れたものだ。最初はもたもたして時間がかかっていたが、流石にほぼ毎日やっていれば体を動かす系の作業ならすぐに覚えられる。


「よし、じゃあ行こうか」


 荷台に乗り込んでノアが手綱を握る。行きはノアが手綱を握って、


「ああ」


 俺はノアと背中合わせになるようにして座る。積み荷が台車から落ちないように見張る必要があるからだ。


 その代わりにノアが行きを担当して、俺が帰りを担当することになっている。


「よし、じゃあ、しゅっぱーつ」


 ノアが綱を操作してロバが歩き出す。舗装されていない道を進みながら町へ続く道に出ると、ケンナさんとノアの弟たちが家から出てきて見送りをしてくれる。俺もケンナさん達が見えなくなるまで手を振ってこたえる。


ガタゴトと揺られているとだんだんと眠くなってくるが、眠るわけにはいかないからノアに話しかける。


「今日は荷下ろししたら、どこか寄る所ある?」


 いつもケンナさんが町に行くついでにいくつか買ってくるものを頼んでくると気がある。あと、おこずかいを渡してくれて町を一緒に回ることが合ったりするからノアに聞くようにしている。


「うん、お母さんに食材とか買ってきてって言われているから、市場の方に寄ろうと思っているよ。そっちは?」


「うーん…特にないからそっちを手伝うよ。手分けするから何買うか教えてくれる?」


「わかった。えっとね…」


 そうして、ノアが挙げた買い物リストの中から食べ物関係ではない物を担当していくことにする。旅をする中でいろんなことを学んでいったが、覚えたことは戦術や戦い方、サバイバル知識ばかりで鮮度のいいもの、美味しい食材の選び方とかはまだ知らない。向こうの世界でも知ることは無かったから、食材選びはノア達に任せることにしている。


特に魔法で遠いところから持ってきた魚は、手間もかかって高くなる。高い金を出して買った魚が微妙だったというオチは嫌だからな。


「そんなところかな」


「わかった。いつも通り、道具関連は俺に任せてくれ。食べ物関係はノアに任せる」


「よろしくね。お互い買い物が終わったら、いつも通り町の門の所で集合でね」


「了解した」


 それぞれ買いに行くものを決めると、お互い話すことが無くなって無言になってしまう。何か話したいところだが、お互いに同じ屋根の下にいて同じ作業をしているから、話に出せる話題が『天気がいいね』くらいにしか出てこない。旅の話も、俺が勇者だとバレないように隠しながら話せる話題は一通り話してしまったから、これ以上はストックが無い。


「…そういえば」


 そうやって何を話そうか悩んでいると、ノアが思い出したように話し始めた。


「君が来てからもうすぐ一年経つんだね」


 そう言われて気が付く


「そう言えば、もうそんなに経つのか…」


 完全に忘れていた。自分がこの世界に来てからどれくらいの月日が経ったのかを。


 俺がこの世界に来て旅をしていたのが1年、王都で勇者として活動を始めてから2年、ノア達の家に住み始めて1年が経っている。つまり、俺がこの世界に来てから4年も経っているということだ。

長いようで短く感じるなと俺は荷台に揺られながら思いにふける。


 転移したばかりの頃を

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る