突破か迂回か
「おまたせしました」
シアさんを呼んで戻ると、ハルさんとシアさんが地面に何か書き込んでいました。
「ありがとう、でシア、ネズミは来ていたか?」
「…今の所来ていない、不気味なほどに」
私も先ほどシアさんを呼んだ時に、私も少し先を見ました。あれほど一心不乱に追いかけてきていたネズミが来る気配がしません。あのネズミのスピードなら追い付いている頃ですけどラアさんの攪乱がうまくいっているのでしょうか?
「そうか、それで、これからの事だが選択肢は三つだ。ここで依頼を終えて帰るか、回り道をして迂回するか、突破するかだ」
そう言ってハルさんは地面に書いていた物を指差しました。見ると先ほど言っていたこと『迂回』と『突破』と書かれています。
「私は迂回した方がいいと思うわ」
ラアさんは適当な小石を拾って迂回の項目に置きました。なるほど、こうやって言った事を聞き返す手間を省くのと同時に自分の意見をわかりやすくしているんですね。
「まぁ、それが一番だな」
確かにあの量を突破することは難しいです。少なくとも無傷で突破は難しそうです
「…僕はあの先に進んでみたい」
「なぜだ?」
「…ハルに担がれていたから見えたんだけど、あのネズミ達はある場所を過ぎたら、一斉に動きを止めて戻って行ったんだ」
「本当か?」
ハルさんがシアさんに確認するように聞き返します。
「…本当、多分だけどあの先にあるものを守っている可能性がある。そうでない場合あのネズミが全て戻って行ったことが不自然」
シアさんは頷いて自分の考えを述べました
「そんなこともあり得るんですか?」
ドラゴンが金銀財宝を守っている話はフレアさんの世界での図書館で読んだことがあります。でもネズミはどの本でも害獣のイメージが強くて、とても何かを守護するイメージはありません。
「…ありえる。魔獣を使役していたのは何も魔王側だけじゃない、こっちも使役していた。そしてこっち側の魔獣に誰かが何かを守るように指示をしていた場合、世代交代しても最初の指示を守り続けるように調教される場合がある。それに、この町のお宝は特別なものがあるかもしれない」
「特別なお宝…ですか?」
「…そう、かつてこの町が壊滅寸前まで追い詰められた時に、何処からともなく来た男が見たこともないような武器を作って勝利したと言われている。そしてその武器はこの下水道のどこかに隠している…と」
見たこともないような武器…。それが何なのか知りませんが確かにそんなすごい武器が実際にあるなら面白いかもしれませんね。
「で、もし行くとして、あのネズミを突破しないといけないわけだが、どうやって突破する?」
良くいかないは、ともかくとしてハルさんが突破方法を聞ききました。確かに行くとしてもあの群れを突破する方法が無いと意味がありません。
「僕に考えがある」
シアさんは羊皮紙を入れているポーチから一つ別のポーチから二つ小瓶を慎重に取り出しました。
「これは、なんですか?」
「…今説明する」
シアさんはコトリと瓶を地面に置いて説明を始めました。
「…これは毒ガス発生させる物質。これでネズミを一網打尽にする」
「毒ガス?そんな物どこで手に入れたんだ?」
ハルさんも知らなかったようで驚いた様子でシアさんに聞きます。
「これは、父さんの手伝いをした時に、何かに役立つからって言ってくれた」
…私は親がいないので分かりませんが、お手伝いの駄賃に毒ガスを発生させる物を渡す親ってどうなんですかね?大丈夫ですか?
「ああ、シアの親父さんなら納得だな」
「そうね」
分からないのは私だけみたいで、他の二人は納得したように苦笑しながら頷きました。
「で、その毒ガスで殺すとして、俺達も巻き込まれるのは嫌なんだが対策はあるのか?」
ハルさんの言っていることは、もっともです。私もまだ食べてない物も知らないことも沢山あるので、それを知るまではまだ死にたくありません。
「…その点に関しては問題ない。これは父さんが、とある村で起きていた子供殺しの祟りを調べた時に見つけたガスを再現するものだから対策は出来る」
「へぇ…面白そうな話ね。どんな話だったの?」
ラアさんが少し興味を持ったらしくて食いついてきました。オカルト系が好きなのでしょうか?
「…その村では子供が入ると高確率で死ぬとされる洞窟があったんだ。…話が長くなっちゃうから割愛するけど、子供殺しの洞窟の正体がこの毒ガスで、大人よりも背の低い子供だけが毒ガスを吸ってしまっていたことが分かったんだ」
つまり私達の高さまで上がってこないということでしょうか?
「難しい話はよく分からんが、俺達は大丈夫なのか?」
正直私もあまり理解できていません。催涙ガスグレネードみたいなものでしょうか?あれもあまり上まで登らないので、似たような感じでしょうか?
「…大丈夫さっきも言ったように、このガスは背の低い人にだけ吸ってしまうガスだから屈んだりしない限りは大丈夫、それに念を入れてガスを発生させたら魔法で風を起こしてネズミの方に流す」
本当に魔法って便利ですね。と本日何回目か分かりませんが思いました。
「少し…いや、結構危険な気がするが大丈夫か?」
「…向こうが魔法で押し返してくる可能性があるので一概には言えない。でもガスに気が付いてから魔法を放とうとしても遅いし、もし押し返されると感じたら教えるから逃げればいい、ネズミは毒ガスがあるから簡単には動けない、と思う」
「俺はこの話乗りたいと思う」
「シアの言う作戦は結構成功率が高いから信用できる。それに、あのネズミが守っているかもしれない物も気になるからな」
「私は反対流石に、命の危険のある作戦は実行したくないわ。それにネズミの先には何もないかもしれないからそう考えると、やりたくないわ」
「アイビーは?」
「私は…」
気持ちはラアさんよりです。でも、少しやってみたい気持ちが大きくなってきています。
なので私の答えは『突破』です
「やってみたいと思います。」
「よし、3対1で決行するぞ」
「仕方ないわね。その代わりやるとしたら失敗は許さないわよ」
ハルさんとラアさんは先に立ち上がって歩いていきました。
「…大丈夫僕はミスしない」
小瓶を拾いながらシアさんはそうつぶやきました。そう言えば・・・
「シアさん今普通に会話してくれましたね」
「…したよ」
それが?とでも言うようにシアさんが首をかしげました。
「正直驚きました。私シアさんに嫌われていると思っているので、普通に話せるとは思いませんでした」
「…確かに僕は君が苦手だけど、それでも説明不足や、苦手だからと言って貶めたりはしない。そんなことしたらあの二人にも迷惑がかかるし、積極的に人を殺したいわけでもないから」
シアさんは小瓶の内二つをポーチに仕舞って最後の一つを手に持って立ち上がり、さっさと歩いて行ってしまいました。私も遅れないように立ち上がって追いかけます。
このまま仲良くなれたらと思いますが、まだそう簡単にはいかないようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます