ボス戦
「そろそろネズミが来た場所に到着するわね」
先頭を歩いているラアさんが振り返ります。今回はマップを描く必要が無いので少しだけ早く着きました。
「ネズミは来ているか?」
全員立ち止まって、シアさんを後方にして私とハルさんとラアさんの三人が前に出ます。
「微かにかけてくる足音が聞こえるわね」
耳をピクピクさせてラアさんが答えます
「…じゃあ準備する。僕の後ろに下がって」
シアさんは屈んで、先ほど見せた瓶を取り出しました。後ろから様子を伺っているとシアさんは瓶に紐を括り付けて地面ギリギリまで瓶をぶら下げるようにしました。
そして、三つの瓶の中身を入れるとシアさんは素早く立ち上がりました。
「…僕より前に出ないで危ないから」
もう片方の手で杖を持って瓶に向けて何言か唱えた後に、シアさんは振り向いてもう一度言ったので、後ろに下がります。
「来るわよ!」
ラアさんがそう言った直後にランタンの光に反射して無数の目の光が暗闇の奥から見えてきました。
「『ブリーズ』」
シアさんが呪文を唱えると私の後ろから弱い風が吹いてきました。それに合わせるようにシアさんがゆっくりと歩き出したので、私達も何が起きてもいいように武器を構えて歩き出します。風が吹いて少しするとけたたましい悲鳴が辺りに響きました。私が見える範囲のネズミは残らず苦しみ始めています。しかし後ろの方のネズミはまだ無事なようで逃げる個体や魔法で抵抗するような個体がいます。
「…あの後ろにいる奴ら魔法を使うかもしれないから倒して、あと倒すのは火の魔法を使おうとしている奴を優先して」
「わかったわ」
ラアさんがクロスボウを構えてから発射して奥にいるネズミの内の一匹に命中させました。私も続くようにナイフを投げてなるべく遠くのネズミに当てます。本当はすぐ投げたいところですけど、先ほど逃げる前に投げたナイフの回収が出来ていないので残りの本数が心もとないんですよね。ですので、なるべく節約する為に魔法などで姿がキチンと見えて狙うことが出来るネズミに向かって投げるようにします。
ラアさんもクロスボウの再装填に少し時間がかかるようで無駄位置しないように、しっかりと狙って放っています。
ネズミ達も何とかしようと数匹を盾にして魔法を放とうとしたりしていますが、ラアさんのクロスボウの威力だと数匹程度なら貫通してしまうので意味がありません。ただ少しずつ魔法を放とうとしている個体が増えてきて処理が追い付かなくなっています。その内の一体が火の魔法を放とうとしているのが見えました。ナイフを投げようと太もものシースに手を掛けましたが何もありません。見るとナイフは全て投げていました。
ラアさんの方を見ましたが、ラアさんも一発撃ったばかりのようで再装填の作業中でした。
間に合わない
そう思った私の横を何かが勢いよく通り過ぎました。それは一直線に魔法を放とうとしているネズミに直撃しました。直撃したネズミはその衝撃で仰け反り、魔法は空中に霧散しました。後ろを見るとハルさんがいつの間に拾ったのか小石を持っていました。
「俺だけ手持ち無沙汰なのは、少し気まずいからな」
そう言ってハルさんは綺麗な投球フォームを描いて勢いよく小石を投げました。放たれた小石は真っ直ぐ飛んでいき魔法を放とうとしていた別のネズミに当たりました。私も小石を拾おうと屈もうとしましたが、シアさんの言葉を思い出して辞めてハルさんに近づきます。
「ハルさん、私も投げるナイフが無くなってしまったので小石を分けてくれませんか?」
「おお、いいぞ。ただそんな数は無いからしっかり狙えよ」
ハルさんは私の手を掴んで小石を大体半分に分けて渡してくれました。
受け取った石を握って大きく振りかぶってネズミに向かって投げ始めます
「これで!」
しばらくして、ラアさんがこの場で残った最後の個体を射抜いて戦闘が終わりました。ほとんどがシアさんの毒ガスによって死んだようです。
「もういないのか?」
「…この場はもういない、奥にはまだいると思う」
「そうか、じゃあ少し休憩してから進むか」
「…休憩には賛成だけど一応座らないでね、危ないから」
腰を下ろそうとしたハルさんにシアさんが忠告します。
「あ、そうだった…座れないのか…」
中腰まで降ろしていた腰を上げてハルさんは残念そうにしています。
「本当なら魔法で危険が無いぐらいまで霧散させることも出来るけど、そうするとまたネズミ来たときにガスの濃度が足りなくて効かなくなるかもしれないから、できるならこのままにしたい」
「あ、休憩するんだったら、私の矢を回収したいわ」
「私もナイフの回収をしたいです」
ラアさんの矢と私のナイフは消耗品なので回収しないと無くなってしまうので回収したいです。
「そうだな、シア少し進もう」
「…わかった、なら少し進むけど、僕の前に出ないでね」
もう一度念を押したシアさんに私は頷いて返しました。
先に進んでいくとネズミの死骸に近づくので必然的に血の匂いがします。シアさん魔法でそれほど匂いませんが、それでも血の匂いにはなれません。
少し歩くと奥の数匹に私の投げたナイフが刺さっていました。
「シアさん、今屈んでも大丈夫ですか?」
シアさんは少し考えた後に答えました。
「…息を止めて短時間なら問題ないと思う。長時間座るのは論外だよ」
そう言われたので、私は頷いて息を少し吸い込んでから屈んでナイフに手を伸ばしました。ナイフはネズミの首元を貫いていて即死だったのでしょう。申し訳なく思いながらネズミを手に取って喉元に刺さっているナイフを引き抜きます。
「ごめんね」
そうつぶやいて立ち上がります。一呼吸おいて再び屈んで他のネズミからナイフを引き抜きます。埋葬でもしてあげた方がいいかと思いましたが、ここは地面が石でできている下水道なので掘れませんし、前を見れば数えきれない程ネズミがいるのにそれを埋める時間もありません。少し心苦しいですが、このまま置いて行きしょう。その後投げたナイフ十二本をすべて回収し終わったので、皆さんを追いかけました。
「終わりました」
「こっちも終わったわ」
私が報告するのとほぼ同時にラアさんも回収が終わった様で近づいてきました。
「了解した。じゃあ先に進もう」
ハルさんの言葉にシアさんが頷いて前に進みだしました。
その後も散発的にネズミが襲来してきましたが、苦戦するようなことは無く順調に進んでいきました。
「今どのあたりだ?」
シアさんの代わりにマッピングを行っているラアさんに、ハルさんが聞きました。現在下水道に入って結構時間が経過しているので、そろそろ戻った方がいいのではと思っていました。
「町の中心に近づいてきているわね。物語とかだとそろそろ何かあってもいいかもね」
マップを捲りながらラアさんがそう言うと
「…何かあったよ」
そう言ってシアさんが指を差しました。
「え?」
シアさんが指さす方向に明りを向けると、確かにシアさんの言う通り錆びれた金属製の扉がありました。
「お宝の宝物庫か?」
「そうだと、いいですね」
本当にお宝があるのならいいのですけど、先も変わらずに通路があったら少しがっかりしてしまいます。
「…なら、アレが宝物庫を守る番人だね」
「え?」
再び宝物庫の方を見るといつの間にいたのか、先ほどのネズミがいました。少し違うのはネズミが一匹であること、そしてそのネズミが私達の身長よりも高く大きい事です。
「え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます