逃走
魔獣、この世界に転移する前にナギさんから概要だけ教えてくれました。
この世界以外の他の世界にも魔獣と呼ばれる存在はいるようですけど、この世界の魔獣の定義は『先天的、後天的問わずに魔法を使うことのできる人以外の生き物』だそうです。生まれつきの才能で魔法を使えることのできる個体が先天的、人間や他の要因によって魔法を使えるようになった個体が後天的な生き物だそうで、どちらの個体も他の個体に比べて頭が良くて魔法を使える才能がないと魔法を使えないみたいです。
魔獣になりやすい生き物はカラスやイルカ等が多いそうですが、たとえ虫であっても、魔法を使えるのなら魔獣と呼ばれます。
何故今この説明をしているのかと言うと、現在私達はネズミの魔獣の大群に追われているからです。
「ああああああ!」
特に私達が何か踏みつけてしまったわけでも、罠に引っ掛かってしまったわけでもなく急に向かってきました。
最初にネズミを見つけた時は数匹程が向かって来ている足音をラアさんが聞いたので、私達は撃退しようと魔法を撃ったり、足につけていたナイフを取り出して投げたりして進もうとしたのですけど、シアさんが確認の為に放った明かりをつける魔法で前方を照らすと、明りが照らしている範囲、そして明りの届かない暗闇からもこちらを見る無数の目の光が私達を見ていました。
逃げる以外に選択はありませんでした。ハルさんの指示と共にほぼ全員が、回れ右をして全力で逃走を開始しました。走っていると時折後ろから爆破音や隣で流れている水から稲光が見えるので、魔法を使っていることが分かります。
私達に何かを感じたのかは分かりませんが、とにかく私達に向かって全力で追いかけてきています。逃げる決断は早く出たので、まだ距離が離れているので追い付かれていませんが、いずれは追い付かれてしまいます。
「いつまで追ってくるんだ!あいつらは!」
「…分からないけど、このままだと追い付かれる」
ハルさんはシアさんを、樽を担ぐみたいに抱えながら全力で走っています。そしてシアさんは後ろを向いた状態で杖から魔法を放って防御と迎撃を行っているので私達に魔法が当たるようなことはありませんが、それでも偶に後ろからピカッと光ったり、爆発音が聞こえるとビクってしてしまいます。
「知らないけど、とにかく出口を目指して走るわよ」
ラアさんは私の隣を走りながら腰のポーチから一つの小瓶を取り出しました。中身は暗くて良く見えませんが何か液体のような物が瓶の中で揺れているのは見えました
「あの?ラアさ・・・」
その瓶の中身は何なのか聞く前にラアさんは瓶のふたを開けました。ポンとコルクのふたが開いて、中からとても口で説明することが出来ないほどの悪臭がマスク越しでもわかるほど強烈に漂ってきました。
「うえ!?・・・ラ、ラアさん?」
私はその瓶が何なのか聞こうとしました
「それ!」
しかしラアさんは私が聞くよりも先に、小瓶を振って中身を後ろに向かってまき散らしました。まき散らされた液体はネズミの群れの少し前に落ちていきました。少しすると液体を撒いた辺りをネズミが通過しました。すると液体の上を通ったネズミたちが突然苦しみだして動かなくなりました。
「今の内に距離を離すわよ」
そう言ってラアさんの走る速度が上げて前を走り始めました。
「はい」
私も遅れないようにスピードを上げて追いかけます。
「いや、俺の事も考えろよ!」
「…ごめん、今からでも僕を降ろしてくれてもいいよ」
ハルさんに担がれているシアさんが魔法を放ちながら申し訳なさそうな顔をしています
「いや、お前が魔法で足止めしたりしてくれてるから何とかなっているから降ろさねーよ?!…分かったよ!やってやるよぉ!!」
ハルさんは覚悟を決めたようで、雄叫びを上げながら追い付いてきました。ハルさんに担がれているシアさんは、少し迷惑そうに片方の手で耳を塞ぎました。
「…今の所追いかけてきてはいないみたい」
私達が走ってきた方から戻ってきたシアさんが偵察から帰ってきました。
「そうか・・・ありがとう。もう少し偵察してくれ」
「…分かった」
シアさんは頷いて私達が見えるぎりぎりの距離でネズミが来ないか見回り始めました。あのネズミの群れから撒くためにラアさんが逃げている最中に他の小瓶を開けて中身を先ほどのように、道にまき散らした後に、私達は下水道の脇道に身を隠しました。
先ほどまで、私とラアさんとハルさんはネズミから逃げる為に全力で走ったために、息が上がっています。特にハルさんはシアさん担いで全力疾走していたので完全にダウンしているようで、しばらく動けそうにありません。唯一動けるシアさんが私達の代わりに偵察をしてくれています。
シアさんに感謝をしながら水筒を取り出して水を飲みます。
深呼吸をして呼吸を整えます。
「そういえば、ラアさんに聞きたいことがあるんですけど・・・」
少し前の事でラアさんに聞きたいことを思い出しました
「・・・なに?」
「さきほど、ネズミが苦しがっていたあの液体って何ですか?」
先ほどは匂いからして毒か何かの類なのかと思いましたが、よく考えればこんな寒気が難しい下水道であんなに強い匂いを発する程の強い毒をばら撒かないと思ったのであの液体が何なのか少し気になりました。
「ああ、あれ?さっき話した私達が罠にかかった時に流れてきた臭い水よ」
「え?あれがそうなんですか?というか何でそんな物を持っているんですか?」
「こういう暗いところにいる生き物は目が頼りにならないから、自然と嗅覚や触覚が敏感になっているから、臭い物とかは重宝するのよ。いつもなら自作したのを作っていたんだけど、あの時に結構な量が取れたから使っているの」
そう言ってラアさんがポーチから幾つかの液体の入った瓶を取り出しました。先ほどは暗くて良く見えませんでしたが、明りがある今の状態ならよく見ることが出来ます。中身は完全に腐っているようで、水は濁っていて向こう側を見ることが出来ませが、唯一分かるのは、この液体から悪臭が出るということには納得できそうです。
「そ、そうなんですか。しかも自作をしているんですか?」
「ええ、作っている間は苦行だけど」
ラアさんって結構逞しいですね。でも、冒険者としてはこの逞しさが必要なんですかね?
「ああ・・・」
大の字になって寝転がっていたハルさんが、頭を抑えながらむくりと体を起こしました。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、少し気分が良くなった。誰かすまないがシアを呼んできてくれ少しこれからの方針を話す」
「分かりました。私が呼んできます」
私は立ち上がってシアさんを呼びに歩き出します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます