罠を解除する

「ここ、もう少し照らしてくれる?」


「分かりました」


 私はラアさんの指をさした先が見えるように、ランタンを掲げて照らします。


「うん、ありがとう」


 ラアさんはお礼を言ってから作業を再開しました。


 現在私達はラアさんが罠を見つけたので、その罠の解除をしている最中です。私はラアさんのお手伝いを、シアさんとハルさんは周囲警戒をしています。まぁお手伝いと言っても道具の使い方なんて分からないので、ラアさんが見やすいようにランタンを持つくらいなんですけどね。


「これって、どんな罠何ですか?」


 邪魔にならないように黙っていた方がいいのは分かっているので、なるべくラアさんが作業の手が止まっている時を狙って話しかけます。


「そこの糸に引っ掛かると弓矢が出る仕組みね」


 ハルさんは作業の手を止めて通路を指差しました。一見すると何もないように見えますけどよく見ると細い糸のような物が見えました。


「で、矢が出る場所がそこね」


 ハルさんは糸を指さした後に自分の顔の前にある壁を指さします。そこも良く見ると穴のような物があった様ですけど、今は小石が詰まっています。多分小石が無ければ糸が触ったのに反応して穴から矢が飛び出たんでしょう。


「その穴、小石が詰まっていますけど?」


「それは私がやったの、調べている最中にミスして矢が出てくるなんてことが起きないようにね」


 なるほど、確かにミスをしてもリカバリーが出来るようにするのは良いことですね。隊長もそうやって動こうとしていると、ユッカさんも言っていました。


「でも、その糸を切ればいいんじゃないですか?」


 でも、その糸で罠が発動するなら切ってしまえば一回は反応してしまいますけど、それ以降は罠が発動することがないので安全になるのではないでしょうか?


「それが一番楽なんだけど、もしかしたらこの糸を切ると別の罠が発動してしまう事があるから、それを調べていたの」


「そんな罠もあるんですか?」


「ええ、解除したと思って進んだら別の罠が発動したりね」


 まるで知っているように話すラアさんを見て何となく予想が出来ます。


「発動してしまったことがあるんですか?」


「…数回だけね」


 苦い思い出のようでラアさんは少しの沈黙の後に言いました。


「なるほど、因みにどんな罠に巻き込まれたんですか?」


「え?・・・えーっと、全部違う種類の罠だったから、全部は覚えていないけど、一番ひどかったのは水攻めね。起動したら天井が崩れて水が流れてきたの」


「え」


 以外と殺意が高い罠ですね。いえ、攻められるのを想定しているので、そのくらいは当然なのでしょうか?でも、本当にすごいのは、それを受けてラアさん達生ではないでしょうか?


「でもそれは問題じゃなかったの、一番の問題はその水が腐っていてね。ここから出る頃には三人とも悪臭まみれで、とても町中を歩ける状態じゃなかったわ」


「それは・・・嫌ですね」


 そんな状態で歩いたら確実に白い目で見られるのは確定ですね。事実ラアさんもしばらくハルさん達以外の知り合いは、ラアさんの体から匂いが消えるまで近づいてこなかったようです。


「おかげで服は確実に駄目になったから捨てたし10日ほど匂いが体から離れなかったの、匂い消しも駄目でちょっと探索が嫌になっていたわ。まぁ、結局匂いが消えたらまた探索に行ったんだけどね」


「私がそんな目にあったら、行きたくなくなりますね」


 多分ラアさんの話から想像するに、この下水道の匂いよりも酷のは簡単に予想できます。マスクをしているこの状態でも結構きついのに、それ以上の酷さは想像したくないですね。少なくとも、私はそういう目に遭いたくないですね。


「と、そんなの事があったら他の罠が発動しないか調べてたってわけ、結局この罠には何もなかったけどね」


 そう言ってラアさんは懐からナイフを取り出して糸を切りました。糸はひらひらと落ちていきました。一応身構えてみますが何も起こりません。


「ね?」


 ラアさんは自慢げに胸を張りました。


「本当ですね。ではハルさん達を呼びましょう」


 私はシアさんの方を見ます。シアさんは私達がとった道を魔法を使って照らしていました。


「魔法って便利ですね。最初からああやって魔法で照らすことは無理なんですか?」


「無理ね。シアは頭脳担当だから確実に異常を見つける為にああやって魔法をル買っているけど、あの魔法の維持にも魔力を使っているから、あまり長時間使っているといざという時に魔法が出せなくなってしまうから、常時使用は出来ないわね」


「なるほど、でも私達が通った道を照らす意味はあるんですか?」


 向こうを照らすよりもハルさんが見ているまだ進んでいない道を見たほうがいいと私は思います


「あるわよ。ほらここに来るまでに、いくつか脇道があったでしょう?あそこから魔獣が出てきて背後を取られる可能性を潰すために後ろを見ているのよ」


「なるほど」


「まぁ、普通の魔獣なら私の耳で拾えるから普通は大丈夫なんだけど、作業とかに集中していると気が付かなかったりするから私が作業している間は二人に見張っていてもらうの」


 シアさんはそう言って先のとがっている耳をピクピクと動かしました。


「そう言えばラアさんって、エルフなんでしたっけ?」


下水道に入ってから気になって聞いたんですけど、ラアさんのご両親は所謂エルフで現在は薬剤師としてこの町に住んでいるそうです。


「そうよ!・・・って言っても、大人になるまで成長スピードは皆と同じだし、生まれた時からずっとこの町で育っているから、余り意識したことないんだけどね」


 私も隊長達から私達には寿命が無いと言われていますけど、あまり実感が湧かないのでラアさんの気持ちは少しわかる気がします。


「さてと、二人とも終わったわよ」


 ハルさんは立ち上がってのびをした後に、離れて警戒している二人を呼ぶために少し大きな声を出しました。二人に声は届いたようで、シアさんは魔法を消してから走ってきました。


「どうだった?」


 ハルさんが私達の所に着くとどんな罠だったのか聞いてきました。


「普通の罠ね。特にこれと言った仕掛けもないから、多分この通路はハズレかもしれないわ」


「?どうしてハズレだと分かったんですか?」


「基地と明らかに重要な物の通路に罠を設置するなら、簡単にたどり着けないように複雑にする傾向があるんだ」


「まぁ、それすらもブラフの可能性があるから、一概には言えないので今回はこのまま進むぞ」


「了解しました」


「シア準備は?」


「…大丈夫、出来ている」


 シアさんの方を見ると、警戒のために仕舞っていた羊皮紙を引っ張り出していました。


「よし、それじゃあ、先に進むぞ!」 

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