アイビー冒険者になろうと思う
「それで、ナギさんはこの後どうするんですか?」
話に集中していたせいで冷めてしまったスープをパンにつけながらナギさんに聞きます
「そうですね・・・とりあえず更新は終わったので何か依頼を一つくらい受けようかなと思っていますが・・・」
そう言ってナギさんはチラリと後ろを覗きました。
「?」
何だろうと、ナギさんの後ろに視線を移すと掲示板に向かう途中の柱に男性が一人で、もたれかかっていました。そしてこっちに熱い視線を送っています。恰好は普段着の上に少し鎧を着こんで、背にはナギさんの物より大きな盾を背負っています。
「・・・あの人は?」
視線を戻してそう聞くと、ナギさんは顔を手で覆って隠しました
「あまり見過ぎないでください。自分の話をしていると気が付いたら近づいてくるので」
「あ、はい」
ナギさんは顔に手を覆ったまま話始めます
「彼はジャックと言って、ここのギルドのトップ10で女たらしです」
思いっきり言い切りましたねナギさん。
「女たらしですか?」
「彼は自身の顔に自信を持っていて、女性であるならば誰でも声を掛けます」
「一回彼にアプローチをかけられたときに断ったのですが、その時に『面白れぇ女』と思ったようで、ここに来るたびに最低一回は口説いてくるようになってしまったんです」
「ああ・・・」
私は同じような出来事に巻き込まれたことが無いのでその気持ちは分かりませんが、同情します。私は出会いたくないです。出会っても食事を食べるだけ食べて逃げようと思います。
「彼は本人が女性だと言うなら本当に誰でも口説くんです。外見と性別に左右されずに全ての女性に口説くその姿勢は、面食いなだけの男と比べれば素晴らしいと思います。でも私はいらないんです。友達ぐらいで十分なんです。悪意無しの誘いを何度も断るのって結構辛いんですよ」
ナギさんはその姿勢のまま再び机に突っ伏しました。
「・・・そうなんですか・・・」
何か私が手伝えそうなこと・・・そうです!
「ナギさん彼はトップ10ですよね?なら5番目とかの人に頼めばいいんじゃないですか?」
偉そうな人を黙らせるにはもっと偉い人を連れてくればいい。この前ユッカさんに教えてもらった事を実践する時が来ました。ナンバー10がの誘いを断りたいなら、その上の人に黙らせればいいんです!
「・・・その5番目は私です」
「え?」
「私はこのギルドの五番目に強いってことになっています」
・・・正直何となく予想はしていました。私達転生者や転移者を倒す仕事上私以外の皆さんの戦闘技術に関してはトップレベルだと思っていますから、ナギさんはきっとそこそこ偉いんだろうなと、だからこそ私は別の事に驚きました。
「ナギさんナンバー1じゃないんですか?!」
ナギさんの実力ならここのトップに慣れる気がします。・・・いえ、もしかしたら、ここの世界の人達はとんでもなく強いのかもしれません、それなら納得できます。
「いえ、別に狙おうと思えば狙えますけど、ナンバー5になっている時点で、もう十分に面倒くさいことになっているのでナンバー1になる気はないんですよ。」
「そう言うものなんですか?」
私は作られたばかりなので何かトップになったことが無いのでよくわかりませんが、皆さんにテキパキと指示を出している隊長は恰好いいと思っています。
「そう言うものなんですよ。一回なった時はもう大変で本業の方にも影響が出始めちゃったので、次入った時は上を目指さなくなりました」
「次?」
「ええ、流石にこの姿の女性が何十年も同じ姿のまま過ごしていたら、ここの皆さんに不審がられるので、最低十年最大で二十年ほどこの町で過ごしたら一回離れることにしているんです。そうやって三十年ほど離れたら、この町に戻って別人として新しくギルドに登録しているんです。大体の人は他人の空似と思いますが、偶に似ていると言ってくる人とかいるんですけど、その人には娘とか親戚と言って誤魔化しています」
確かに今の姿のまま、ずっとこの町にいたら不自然に目立ってしまいますね。私達は姿を変える魔法とかは使えないのでボロを出すくらいなら完全に他人として接した方が楽だと言うのは分かります。
「なるほど」
「それで、話を戻しますが、ナンバー5の私が断っても構わずに口説いてきてるんです。ギルドは個人同士の争いには干渉しないので、どうしようもないんです」
「ナンバー1に頼むことも出来ないんですか?」
「現在のナンバー1は指名依頼によって出て行っているので、この町にいません。と言うかこの世界の暦で五年ほど前に私はギルドに入ったんですけど、一回も会ったことないんですよね」
「そうなんですね」
「・・・で、他に止められる人が、ほとんどいないんですよ。どうしましょうか」
「それは・・・」
正直私に聞かれても分からないとしか言えないんですよね。他の皆さんなら、答えを出せるんでしょうけど今の私には先ほどの奴以外には解決策が思いつきません。
「・・・すみません。思いつきません」
それを聞いたナギさんは諦めたように笑いました
「そうですよね・・・分かりました」
しかしその目はまだ完全に諦めていないようです
「ところで、セラさん冒険者になりませんか?」
「え?」
・・・ナギさん、突然何言っているのでしょうか?
「えっと、話の意図が良くわからないんですけど・・・」
「私が向こうの誘いを断る理由を作りたいんです。アイビーさんを冒険者にする為に案内するという理由を作れば、向こうは簡単に諦めてくれますから」
そうですね、
「・・・分かりました。でも冒険者って具体的に何をするんですか?」
冒険者になるのは決めましたけど、それでも知りたいことはあります。
「基本的には依頼板から受けれる依頼を受けて、それをこなすそれだけですね。長い間依頼を受けることが無かった場合は登録が抹消されてしまいます。これは登録だけして特典の割引のみを利用しようとするのを防ぐためですね。大体6か月ぐらいですね」
確かに登録だけして依頼をこなさない人が増えれば冒険者ギルドとしての意味が無くなってしまいますからね。当然と言えば当然ですね。
「それと一つ覚えて欲しいことがありまして」
「なんですか?」
「このギルドにはランク制があって下から『石』『黒曜』『鉄』『銀』『金』と別れていて、新人は例外なく『石』になります。因みに私のランクは『銀』です」
どうやってランクが上がるのかは分かりませんが、上から二番目と言うことは相当の時間と労力がかかっているのは想像できます。しかもそれを何度も投げ捨てて、一からやり直しているのもすごいと思います。
「上から二番目ですか・・・すごいですね。それと私は石からのスタートということですか?」
「はい、これにもきちんと意味があって、子供や素人が危険な任務を受けて命を落とさないようにするために、ランクによって受けれる依頼が制限されているんですよ」
先ほど眺めていた掲示板を見た時に上の方に危険そうな依頼が多かったのは、子供の手が届かないようにするのと、ランクの低い人が受けれる依頼が取りやすいようにしているんですね。
「なるほど、因みに石の場合はどんな依頼が多いんですか?」
私が見た時は上の方ばかり見ていたので、下は少ししか見ていないので覚えていないんですよね。
「えっと・・・店の手伝いやドブ掃除、落とし物探しなどですね。流石に子供にも受けられるように危険度の低い依頼だけがありますね」
その言葉を聞くたびに私の中で創造していた冒険者のイメージが音を立てながら崩れていきました
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