忘れていた人
「そうですか・・・」
でも進んで生物を殺したいわけでは無いので、石でも良い気がしてきました。そうポジティブに考えることにしました。
「先ほども言いましたが、ランクが上がれば他の仕事も出来ますしアイビーさんならすぐにランクが上がりますよ」
ナギさんが励ますように肩を叩きます。
「本当ですか?」
「はい、先ほどのランクの話ですけど、あれは幼い子が高ランクの依頼を受けてしまわないようにするための措置で、子供じゃないアイビーさんなら何個か依頼を受ければ鉄に上がりますよ」
「そうなんですか?私、生を受けてから60日くらいしか経っていないので、幼いと言えば幼いんですけど・・・」
周りに聞こえないように少し声を潜めて聞きます。結構長く生きているのではと思っていましたが、皆さんと会ってからまだ60日しかですよね。
「外見と精神年齢は18歳ぐらいなので問題ありません。それにそうしないと、カルセさんと偶に行く飲み会でブドウジュースしか飲めなくなってしまいます」
確かにカルセさんの見た目は8~9歳の身長しかありませんし、童顔なので黙っていれば子供にしか見えませんので、お酒飲めませんね。話せば大人だと分かるんですけどね。
「確かに、カルセさん外見だけなら子供に見えますし成長しないので、ずっとお酒飲めなくなってしまいますね」
「そうでしょう、カルセさんは休日にアルコールを摂取しないと生きていけないそうなので」
そう言って席を立ってナギさんと一緒に受付に向かいます。
ふと周りを見るとほとんどの人がこちらを見ています。先ほどから何かみられている気がしていましたが、そういえばナギさんはこのギルドのナンバー5なんですよね。向こうから見ればギルドの有名人が見知らぬ人がお昼ご飯を奢っているように見えるんですよね。それで因縁付けられることが無いように祈りながら歩いていると、ふとあることに気が付きます。
この建物の中に私がいつも使っている銃火器を持っている人がいません。見える範囲で遠距離攻撃武器を持っている人はいますけど杖や弓矢ばかりで銃を持っている人がいません。もしかして、この世界で銃は存在しない、もしくは存在しているが愛用するほどお手軽な物でもないということではないでしょうか。もしそうだとすると、私が一番慣れている武器が使えないんですけどどうしましょう。代わりの遠距離武器は弓か魔法ですけど、銃と弓は勝手が違うので得意ではありません。魔法は使えないので論外なので別の武器を購入しないといけませんね。でも最初の方は雑用が多いそうなので別に買わなくてもいい気がします。必要になったら買うことにしましょう
そう心の中で思っていると
「おや?ナギじゃないですか、奇遇ですね」
私達の進路を塞ぐように男性が歩いてきました
・・・冒険者について聞いていてそのことばかり考えていたので、この人の事について完全に忘れていました。そう言えば私が冒険者になることになった原因みたいな人ですね。完全に忘れていましたけど
「ええ、奇遇ですね。ジャックさん、では」
ナギさんはジャックさんの横を通り過ぎようと歩き出しますが
「いやいやそう言わずに、せっかくの出会いだ。少しお茶でもしないかい?」
そう言って再びナギさんの前に立ちふさがります
「いや、結構だ。それに私も用があってな。私の友人にギルドの案内と登録をしようとしているから貴方と一緒にいる時間はありません」
ナギさんが私の肩を掴んで自分の方に引き寄せました。
「ふーん、そうなんだ」
顎に手を当てて私の方を向きました。
「な、何か?」
ナギさんからどんな人なのかは聞いているので、警戒しながらそう聞きます。するとジャックさんはニコリと笑いかけてきました。
「俺、ジャックっていうんだ。君の名前は?」
警戒は続けますけど、自己紹介をされたのなら返さないといけませんね。
「アイビーです」
「アイビーちゃんね。了解、これから同業者になるみたいだから、よろしくね」
そう言って手を差し出しました
「え?あ、はい、よろしくお願いします」
同じ様に手を差し出して握手をします。ジャックさんは笑顔で握手を終えて何かを言おうと口を動かしましたが、それを言う前にナギさんが割って入りました。
「もう、いいでしょう?私もあまり時間が無いので急いでいるんです。それじゃ」
「そんなつれない事・・・あぁ、そういうこと?」
先ほどまでのにこやかな笑みからジャックさんの笑顔が微笑ましい物を見るかのような笑顔に変わりました。
「何か?」
「いやいや、大丈夫ですよ。それよりも、ほら先をどうぞ」
そう言って道を譲ってくれました。
「・・・なんか、気持ち悪いですけど、感謝はします。ありがとうございます」
ナギさんが肩に手をまわしたまま、向こうの返事を聞かずに歩き出します。
振り返ってジャックさんの様子を見ると、すぐ別の方向を見て一人でいる別の女性に声を掛けに行きました。別にナギさんに好意があるわけでもないんですね。
「おかしい」
そうナギさんの声が聞こえたので、顔を戻してナギさんの方を見ます。
「ナギさん?」
ナギさんの顔を見ると何か深く考え込んでいるようです。
「いつもなら、もっとしつこいはずです。歩いて突破をしたとしてもそれに付いて来て口説き続けるようなあいつがあっさり身を引いた?以上です。アイビーさん、もしかしたらあいつは何か企んでいるかもしれないので、これから気をつけてください」
ナギさんはぎゅっと私の肩に力を込めて呟きます。
「はい、気を付けます。あと、歩きにくいので、そろそろ手を離していただけると助かるのですけど・・・」
今はジャックさんから離れる為に早歩きになっているのですが、肩を組みながら歩いているので、足が絡まって転びそうになってしまいます。あとさっきのぎゅっとした時に肩が悲鳴を上げてて痛いのでやめて欲しいです。
「あ、すみません」
ナギさんはパッと手を離して、肩を開放してくれました。
「いえ、大丈夫です」
「それなら良かったです。さて難所は無事かどうかわかりませんけど、突破は出来たので後は受付に行くだけです」
一応ギルドの仲間のはずなのに障害物扱いされていることに、若干同情しながら歩き続けます。
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