案内と歴史の話

一旦出口に向かったザックさんは、その後に向きを変えてカウンターで何か話し始めています。その様子を見ながらナギさんが苦笑しながら私の方に歩いてきました。


「まぁ、もうわかっているでしょうけど、悪い奴ではないので仲良くやってください」


「はい、分かっています」


 それは、先ほどの会話でわかりました。少し不器用な人なんですね。


「それでどうして依頼板を見ていたんです?登録していなければ依頼を受けることが出来ないですよ」


「何なのか少し気になったので、見てみようと思いまして」


 本当に何となくに気になっただけなので、深い意味はありません


「そうですか、とりあえず食事にしましょうか。あの奥のテーブルの場所が食堂になっていまして冒険者がいれば割引で提供してくれますよ」


「そうなんですか!?じゃあ早速行きましょう!」


 ナギさんの返事を聞かずに歩き出します。




食堂のお兄さんからフカフカのパンとサラダ、それにスープと水が乗ったトレーを受け取って席に着きます。ナギさんも同じようなものをトレーに乗せて向かいの席に座りました。


「見た目はすごく美味しそうですね」


「見た目ではなく本当に美味しいですよ」




「それにしても、こんな美味しい料理が気軽に食べられるってすごいですね」


 ここでこの味なら他のお店の料理も美味しいのではないでしょうか?


「そうですが、一つ修正するところがあります」


 ナギさんはパンをちぎってスープに浸し、口に運んで飲み込んでから続けます。


「こんな料理をあの値段で食べられるのはここだけです」


「え?」


「ここは少し訳があってこの値段を提供できるので、他の店でこの味と同じものを食べるなら、もっと高いですよ」


 訳・・・そう言えばナギさんがここに入る前に行っていたような気がします。


「二つほど理由があるんでしたっけ?何なんですか?」


「ええ、聞くのはいいですけど、少し長い話になるので食べながら聞いてください」


 そう言ってナギさんはスープの器を持ち上げ、そのまま口につけて飲み干し袖で口元を拭いました。


「では話します。まず二つの理由の内の一つはお金稼ぎです。最初の頃の仕事は雑用ばかりで報酬も安宿一泊分程度のお金しかもらえませんが、ランクが上がるごとに護衛依頼や魔獣の討伐などの仕事が来るのでそれを無事にこなすことが出来ればそれなりの報酬が来ます。冒険者になれる年齢は生まれてから7年以降からなれることが出来るのでそれに冒険者になればこの食事にありつくことが出来ますから、この町には少なくとも餓死で死ぬ子供はほとんどいません」


 そう言ってナギさんは私の少し後ろを見ます。振り返ると転生者や転移者と同じ年齢らしき男の子が、自分より少し小さな女の子に自分の料理を多めに分けていました。顔立ちが似ているので兄妹でしょうか?少し微笑ましく思います。私のも分けてあげようと思い席を立とうとしましたが


「やめた方がいいですよ」


 ナギさんが止めました。


「ああいうことをしてやりたい気持ちは分かりますが、一度そう言うことをやって痛い目を見たことがあるので、やるにしても、炊き出しの手伝い程度にした方がいいですよ」


 ナギさんは視線を戻してサラダを食べ始めました。何となくわかりますが釈然としません。


「どんな痛い目あったんですか?」


「簡単な話です。他の子どもに群がられたんです。『あの子だけズルい。僕、私にも分けて!』・・・と数十人が乞うてきました」


「それは・・・」


「その時は何とか納めましたが、それ以来私はいくら可哀想と思ってもすぐに手を差し出そうとすることは無くなりました。相手を思いやるのは正しいですが一人を贔屓してはいけない。すべてに差し出せられるようになるまで、手を出さないと決めたのです。アイビーさんは、あの二人を助けた後にこの建物全員から食べ物を乞われたら渡せますか?」


「・・・」


 出来るにはできます。でもそうしたら先ほどの話みたいに、次の日も同じことをするように言われるかもしれません。そう思いました。私は浮いていた腰を下ろして席に座ります


「それが正しい判断です。では話を続けましょう」


 ナギさんは頷いた後に話の続きを話しだします


「二つ目の理由が、医療の割引ですね。これは医療魔法などを使って治療を受ける際には高額な費用を払う必要がありますが、この冒険者ギルドに所属しているのなら結構な割引がされるのです。これは冒険者ギルドが出来る原因にサルバシアン教が関わっているからですね」


 ナギさんが思いっきり癒着していると発言しました。


「この町に、あの大聖堂が出来る前に使われていた教会が建てられて少しすると教会は資金難に陥りました。教会の主な出費はお布施と医療魔法による医療費でしたが、まだ弱小窮境だった教会は十分なお布施を期待することも出来ず、また医療費も低くすると患者が殺到してしまい対応できなくなってしまうので高くしていたんですけど、患者は全く来ず途方に暮れていました」


まるで知っているように話していますが、私達には寿命が無いそうなのでこの町にずっといることも可能なんですよね。それならこんなことを知っている訳も分かります。


「そこで協会がとった手段は小さな組織を作って、そこに入れば医療費を軽くするとしたんです。因みに組織を二つにした理由は組織に入る費用とお布施の二つをもらえるようにしたからですね。そうして組織に入った人たちにゴミ掃除などの慈善活動を手伝ってもらう代わりに、割引の対象を入った人の家族に増やしたことによって格安ので治療されることに食いついた家族持ちが増えました。これにより入ってくる人数が増えて少しづつ規模が大きくなった結果、冒険者ギルド名前を改めて活動し始めたんですよ。食事をふるまうようになったのもこの頃からですね」


 なるほどなぁと思いながら段々歴史の授業になっていませんか?


「それと教会は教育にも力を入れています。入学試験の際に魔力を感知する道具があるので、魔法を使える子供を探して囲うことによって、子供の親は子供が賢くなりさらには教会勤めという安定した就職先についてもらえる。教会としては医療魔法などを覚えてもらうことによって、さらに多くの人を救ってもらおうと考えているんですよ。何せ医療魔法で怪我を直しても、道具も使わなければ特殊な薬品を使う必要もなく、お金がもらえるので利益の幅が大きいですね」


「結構したたかですね」


「ええ、因みに魔力が無い場合でも教育は受けられるので、この町の住民の識字率は高いので依頼書が読めないなんてことも起きません」


識字率を上げることによって冒険者になっても不自由にならないようにしたということですか、本当にうまく動いていますね。


「という訳でこの町は教会の権力が結構大きいんですよ。もし教会が無くなれば、冒険者になることでもらえていた割引が無くなり怒った冒険者たちが暴動に発展する可能性があるので、国としてもあまり手を出せないんですよ」


 話し終えたようで、コップに残っていた水を飲み干して立ち上がりました。

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