食べて食べて食べて
お店に入るとこれから夕食時だからなのか、少しお客さんの数が多いように感じます。
私はテーブル席かカウンター席を少し悩んだ後に、カウンター席に座りました
「いらっしゃい。あら?あなた、さっき食べに来てくれた人じゃない!何?子連れだったの?」
少し皺のある手でメニューを渡してきたおばちゃんが私に気が付きました
「いえ・・・えっとこの子とは友達で・・私がここの料理の事を話したら・・・食べたいって言いだしたのでまた食べに来ました」
苦し紛れにそう言うとおばちゃんはパァっと笑顔になりました。
「あらぁ!嬉しいわね!おばちゃん奮発しちゃうわ!!あ、これメニューね!決まったらおばちゃんを呼んでくれればいいから」
おばちゃんはメニューを二つ置いて厨房に戻って行きました
「・・・すごい方ですね」
おばちゃんのグイグイ来る空気に押されて話すことができなかったフレアさんがポツリと呟きました
「そうですね。この元気さと性格があるから、こんな場所でも繁盛しているのですね・・・さあ、食べるメニューを決めましょう」
私はメニューを一つフレアさんに渡しました
「はい!」
フレアさんはメニューを開いて選び始めました。
私もお昼で食べた料理とは別の料理で食べるとしましょうか
フレアさんは海鮮スープとサラダ、私はグアーシュという料理を頼みました。
しばらくして、おばちゃんが料理を運んできました
「はーい、お待たせ。あとこれサービスね!」
おばちゃんは私達の前に料理の乗ったお皿を置いた後に、おまけとして山盛りの海鮮パスタを置いていきました。
私達の顔ぐらいの高さのあるパスタを前に私は他の料理の事を忘れてしまいました。
「・・・フレアさん、食べ切れます?」
私は山のように盛られているパスタの山の向こうにいるフレアさんに聞きます。
「・・・大丈夫です。食べれます」
フレアさんが覚悟を決めたようにパスタを小皿に盛って食べ始めました。
私もこれが食べ終わったら手伝いましょう。
私はそう思って自分が頼んだ料理を食べ始めました。
「・・・苦しい戦いでした」
フレアさんが口元をハンカチで拭いながら言いました。
「はい・・・でも美味しかったです」
私達は空になったお皿を見つめながら思い返します。
下に食べ進めるにつれて味が複雑になっていく海鮮の味、ソースは一見するとトマトソースかと思いましたが貝や魚の骨のダシも加えたソースだったとは思いませんでした。
長く苦しくそして美味しい戦いでしたが、その分満足感はとても大きいです。
少なくとも今までで一番食べたはずです。
でも・・・これでやっと・・・
「はい、これもサービスしちゃう」
そう言っておばちゃんが私達の前に果物が沢山乗った三段重ねのパンケーキを置いてくれました。
・・・え?
「・・・お、おばちゃん・・・これは?」
震えながら私が聞くとおばちゃんはやぁ・・と照れたように顔に手を当てました。
「あんた達の食いっぷりに見とれていたら、いつの間にか作っちゃったのよ」
「いえ・・・そうではなくて・・・」
フレアさんも動揺しているようで声が震えています
「お金は気にしないでどうせ明日には保冷庫においても鮮度が下がっちゃうものだけで作ったから特にお代はいらないわ」
「「・・・・・」」
善意が辛い!!
フレアさんが震える手を抑えながらこちらを向きました
「アイビーさん・・・」
「フレアさん、少し休憩してから食べましょう。きつかったら言ってください少しなら食べますので」
正直私もこれ以上は厳しいですがフレアさんの方が大変だと思うので、できる限り助けたいと思います。
「はい・・・ありがとうございます」
私達は少し休憩をしてから食べ始めました。
おばちゃんが私達のために作ってくれた料理をせめてちゃんと美味しく味わう為に!
「・・・美味しかったです」
「はい、とても美味でした」
「あら、そう言ってくれると嬉しいわぁ!」
格闘を始めてから数十分私達はパンケーキの三段重ねフルーツ山盛りを食べ終わりました
なるべくおばちゃんと雑談をしたりして時間を稼ぎつつ空いたスペースに詰め込み続けました。
けれどこれ以上は無理ですし、動けそうにありません
「ついでにすみません。少しの間ここにいさせてください。今動けそうにないので」
「あら、大丈夫よぉ!何時間でもいていいわよぉ!今お水持ってきてあげるわね」
おばちゃんはそう言って厨房から水を持ってきてくれました。
「あ、ありがとうございます」
私は水を飲もうと手を伸ばしましたが今水を飲むと確実にリバースしてしまうと悟ったのでもう少し経ってから飲もうと思いました
「じゃあ銀貨2枚ね」
「はい」
お代は服屋でのお返しということでフレアさんが払ってくれました。
一応自分で食べる分のおこずかいを持ってきていたのですが多すぎませんか?
いや、お金持ちのお嬢さんならこのくらい持っていても不思議じゃないですかね?
「また来てね。サービスするから!」
「はい、また来ます」
「今度はもう少し料理の量を少なくしてほしいです」
「あら?お嬢ちゃんに多すぎたかしら?それなら残してくれても良かったのに」
「いえ、料理はとても美味しかったので残したくなかったのです」
「あらあら、嬉しいわね。わかったわ、次は量を少なくしておくわね。おばちゃん、記憶力はいいしこんな別嬪さん二人な事なら忘れないわ!」
「お願いします。ご馳走さまでした」
「またの来店待っているわね」
私達はおばちゃんに見送られながら店を出ました。
外に出るとすっかり夜になっていて、明りの無い裏路地は真っ暗ですね
「さて、フレアさん」
「はい」
「家に帰るんですよね?」
私はフレアさんの方を振り返って聞きます
「はい、そう言いましたから」
「そうですね、では送りますので案内お願いします」
「いいのですか?」
「はい、流石に女の子を放置して帰るなんてことできませんよ」
「・・・ありがとうございます」
その時に路地の奥から足音が聞こえました。
「?・・ッ!!」
振り返るとあのガラの悪い男達が暗がりから出てきました。
私はフレアさんを後ろに隠しつつ反対側の方に逃げようと思い振り向きましたが、そちらにはフードを深くかぶった人たちが出てきました。
こちらを助けたりせずに逃げ道を塞いでるのを見る限り、男の人達の仲間と考えるべきでしょう。
「・・・」
どちらもこちらに近づいたりせずにこちらの様子を伺っているようです。
この暗がりでは屋根を走るのは不安です。月が雲に隠れており、足元が良く見えないですから落ちたりすると大変です。
どうしましょうか
「フレア、もういいだろう」
そう考えているとまた暗がりから一人の男の人が出てきました。
暗がりでよく見えませんが、結構高価そうな服を着ている40代後半の渋いオジサマに見えます。
「お父さん!!」
え?お父さんなんですか?
フレアさんはお父さんの所に行こうと走り出しました。
「待ってください!」
私は咄嗟にその腕を掴んで引き寄せます。
「アイビーさん!?」
困惑しているフレアさんを前に引き寄せて、お父さん?の方を見る。
「すみません。フレアさん」
フードとガラの悪い人達はこちらに来ようしましたが
「やめろ」
フレアさんのお父さん?が止めました
「初めまして、私はフレアの父のヴェンツェル=フェケテ=セーテーニです」
名前が長いし高そうな服を着ていますしお金持ちですね(偏見)。よく見るとフレアさんに似ているような気がします。
「初めまして、私はアイビーと言います。姓は訳があってありません」
元々私に姓はないんですけどね。
「ふむ、ではアイビーさん。フレアは私の娘ですので返していただきたいのですが?」
そう言ってヴェ・・ヴェ・・フレアのお父さんは真剣な顔で話しかけてきました。
「はい、返したいと思っています。ただし、私の質問に答えてからです」
私はフレアさんを後ろに庇いながら言います。
フレアさんのお父さんは少し不機嫌そうな顔をしました。
「・・・それは私をここの領主だと知って言っているのかね?」
・・・・え?
領主・・・さん・・・?
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