逃げて行動開始
「私は家に帰る前に食べに行ってみたいお店があるの!裏路地に看板を出さずに店を構える知る人ぞ知る名店!私はそこに行ってみたいのです!」
「え、何故そのお店に?」
「お父様の仕事の関係でとある集まり参加した時に、そのお店の事を聞きました。曰く『いくら金を積まれても首を縦に振らない最高の料理人がいると』
私はその話を聞いてとても興味を持ちました。この家の料理でもすごく美味しいのにそれ以上の料理とはどのようなものなのかと」
多分ですがそのお店、私行ってますね。しかもフレアさんと会った目の前にありましたから、どちらかと言うと私が遠ざけてしまいましたね・・・もしかしてあの男の人達はいい人だったのでしょうか?
と言うかフレアさんもう自分の事を隠していませんね。話を聞く限り貴族っぽいですね。
「そ、そうですか。でもそれなら親御さんと行った方が安全ではないですか?」
「お父様は行かせてくれません。行きたいと言っても行かせてくれません、なので一人で行こうと思いました」
あのお店はお酒の類は置いてありましたが居酒屋という体ではなかったですね。
むしろ、お子様料理のような物もあった気がします
行かせない理由があまり思いつきません
お金持ちならお金が問題という訳ではないはずです。
「アイビーさん」
フレアさんが姿勢を正して真面目な雰囲気を出してこちらを見ている
「はい、なんですか?」
「私をそのお店に連れて行ってくれませんか?」
「え」
「アイビーさんと初めて会ったときに服にいい匂いがしました。あの裏路地でそのような匂いの付くような場所は一つしか考えられません」
この子変な所で結構頭の回転が早いですね。
「私はアイビーさんがそのお店の場所を知っているのだと考えています。違いますか?」
ここで知らないと言えばいいのですけど、その場合フレアさんが諦めることは無いですね。何せフレアさんのお父さんから抜け出してあんな所まで行くほど肝の据わった女の子です。
私がいなくてもフレアさんはあのお店を探し始めるでしょう。
家まで送り届けるのも難しいですね。第一に私はフレアさんの家を知りません、またあの男達がまだいる可能性があります。目的なくウロウロしていると見つかってしまうかもしれません。
あのお店なら一見するとお店だと思えないので隠れるには好都合ですね
「ええ、知っています」
「では、私をそこに連れて行ってください」
本当なら首を振りたいですけど一応確認しておきます
「そこに行ったらフレアさんは大人しく家に戻りますか?」
「はい」
「・・・・そうですか」
私は一つ深呼吸をしてフレアさんの目を見て言った。
「わかりました。案内しましょう」
「!!ありがとうございます!!」
フレアさんが頭を深く下げてお辞儀をしました。
「いえ、お礼には及びません。それよりもそうと決まったのなら早速移動しましょう」
フレアさんの手を掴んで私は歩き出します。
「はい」
フレアさんは腕を引かれながらもついてきました。
「では早速と行きたいところですが、私達の恰好はあの男の人達に憶えられてしまっているので恰好を変えたいと思います」
そう言って私は大通りに出て近くにあった服屋さんに入りました。
「確かにそうですね」
「はいですので二人で目立たないような格好になりましょう」
「わかりました」
入った服屋さんは観光地特有の変な服を売っている服屋ではなく、その土地伝統の服を取り扱っている服屋さんでした。
私達はそこで目立ち過ぎず逆に地味過ぎない服を買って着替えました。
地味すぎるとかえって目立ちますから、なるべく現地の人と同じ服装になるように選びました。
脱いだ服は袋にしまいました。
「・・・では行きましょう。なるべく顔を上げないようにお願いします」
「わかりました」
私達は人の流れに逆らわないように動きながら、目的の裏通りの入口を目指しました。
「・・・ッ!!」
思わず立ち止まってしまいました。
「?どうしました」
フレアさんが立ち止まったことで顔を上げて聞いてきました。
「顔を上げないでください。あの人達がいます」
私はフレアさんの方を見ずに声を潜めて言いましたが聞こえたようです。
あの裏通りの付近にあの男たちが見えます。
三人ですが近づいたら確実にこちらに気が付きますね。
「フレアさん、ここは迂回します。幸いあそこに続く道は一つではないのでそちらに行きましょう」
そう言った後にこちらに気が付かないうちに方向を変えて歩き出しました。
悪い予感が当たらないように祈りながら
「ここもですか」
悪い予感が当たってしまいました。
もう一方の入口には二人の人がいました。
「アイビーさん無理そうですか?」
フレアさんが聞いてきます。
ここで無理だと言ってもフレアさんは後日もう一度行きそうな気がします。
ここは多少強引でも行くべきでしょう
「いえ、大丈夫です。私に策があります」
私はフレアさんの手を引いて一本隣の通りに入りました。
「アイビーさん?ここは違いますよ?」
「わかっていますよ」
私は手を引きながら少し奥に行きます。
「・・・ここでいいでしょう」
私は手を放してフレアさんと向かい合います。
「アイビーさん?」
「フレアさん失礼しますね」
そう言って私はフレアさんを男達から逃げた時と同じように両手で抱えます。
「!?アイビーさん!?」
「フレアさん少し声を抑えてください。そして何があっても声を出さないようにお願いします」
フレアさんは少し困惑していましたけど、コクコクと頷いた後に両手で口を抑えました。
「・・・ありがとうございます。では行きます!」
私は周囲に人がいないのを核にした後に、壁を蹴って屋根に上がって屋根伝いに移動してそうして目的の裏通りのお店の前に着地しました。
フレアさんを降ろすとフレアさんは驚いた顔をしながら話し始めました。
「アイビーさんってすごいですね。魔法を使って先ほどの事をやれる人はいますけど、魔法を使わないでできる人は少ないと思います」
「まぁ鍛えていますから・・・それよりもお店に入りましょう」
強引に話を変えながら興味をそらしました。
実際あまり深く聞かれると答えにくい質問なので聞かないで欲しいです。
「そうですね。アイビーさん行きましょう」
そう言ってフレアさんに手を引かれて私は本日二度目の入店をしました。
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