それぞれの覚悟と疑問

誠達が出て行ったあと王様達がため息をついた。


「すまない、リースお前を守れなくて」


誠達がいなくなった後、親子の会話が始まった。


「いえ、お父様、彼らはソータ様でも止められないのです。仕方ないかと」

「すみません、同じ勇者として俺が止めた方がいいのに」


勇者と言うか同郷の者として申し訳なくなる。一体どうすればあんな性格になるのだろうか。


「いや、ソータ殿が謝ることではない

本来なら勇者の問題は、なるべく召喚した我々が解決すべき問題だ」


「そうだぞソータ、本来なら召喚した私達が解決すべき問題なんだがな・・・」


クレイユ様がため息をつきながら言った。


「自分の思い通りにならないと不機嫌になる。まるで子供のような奴らだ。

子供なら子供の扱い方があるが、あいつらは子供ではない。扱いにくいものだ」

「そうね、拓馬は賢いように見えるけど、実際はあまり賢くないし」


イヴ様も愚痴り始めた。


「なんか良さそうな政策言うけど、良さそうなだけで具体的な内容は考えてない当たり障りのいいだけだし、君主制をやめて民主制にするんだとか、しれっと国家転覆起こそうとするし、そのくせすぐに実行するように言うし、目つきは厭らしいし、もうやだぁ・・・・」


そう言ってイヴ様は顔を手で覆いました。


すいません、本当にすみません。


リース様、何で微笑んでいるのですか?


「まぁ争いになるのは間違いないのだ

騎士団長、装備の確認や部隊の指揮などの準備を始めてくれ」

「了解しました。国王陛下」


そう言って敬礼した後、騎士団長は部屋を出て行きました。


「しかし・・・勇者召喚が問題だとは・・・」

「お父様?」

「皆も知っての通り、勇者召喚は昔から行っている儀式みたいなものだ。

『一番下の王女が16歳になったときに護衛として勇者を召喚する』

もし本当に勇者が存在してはいけないものなら、今までにも同じようなことはあったはずだ。

しかし私の知る限りではそのような事は起きたことがない」


確かに俺の前にも沢山の先達がいることは王城の地下図書館に記録されている。


記録には全員の死因が書かれていて、戦死や病死など詳しく書かれている。


しかし今回のようなことが起きて死んだと書かれている記録は俺の見たことがない。


因みにそれぞれのお姫様が16歳になった時に個別に儀式を行わないのは、最初は個別に儀式をやっていたのだけど、儀式の触媒とか召喚陣書く素材とかの下準備や、予算とかが大変だから一気にやろうと考えたからだそうです。


「確かに勇者召喚が問題になっているのなら、勇者召喚の存在を消して存在がなかったようにするはずです。

なのに今、勇者召喚の儀式が残っていて実際に召喚出来ている・・・」


本来なら消えるはずの儀式が残っている。


「ああ、私はそこに何か理由があるからだと思っている」

「その理由は分かっているんですか」

「流石にそこまでは分からない。だがその理由が分かれば、何故勇者召喚が今日まで残ったのかが判明すると思うんだ。それに」


そう言って王様は俺の方を見た。


「理由がわかれば君が死ななくて済むかもしれないだろう。リースの話相手や遊び相手になってくれて感謝している。リースの様子を見れば、君のことをどれだけ信頼してるのかは分かる。

騎士団長からも君が訓練を頑張っている話をよく聞く。

そんな君を死なせるのは忍びなくてね」


そう言って苦笑した。


「だから死ぬのを簡単にあきらめないでくれ。君が死んだらリースだけではなく我々も悲しむからね」

「そうだぞソータ。あの二人が酷いだけで、君は普通だ・・・まぁ、こちらに来たばかりの頃はひどかったけど」


クレイユ様やめてください。


あれはいわゆる黒歴史なんです・・・


「そうですよソータ様、本当なら拓馬と交換して欲しいくらいです」

「すみません、俺はリース様についていくと決めたので」

「あら、断られちゃった」


イヴ様が肩をすくめて笑いました。


というかと隣のリース様圧がすごいです。


絶対渡さないという強い意志を感じます。


「とりあえず部下に命令して、記録に残っていないか探さている。ソータ君は、いつも通りとはいかないだろうが戦いで死なないように努力してほしい。」

「了解いたしました。国王陛下」


そう言って俺は頭を下げた。


そして今までの自分の行いが正しかったことで起きた出来事に泣きそうになった。




「・・・ったくよー。王様って本当にめんどくさいよな」


誰もいない廊下を並んで歩きながら愚痴る。


「そうですね、一人で何でも決められるのに、すぐに決断しないところとかまどろっこしいですね」

「それにしても何で俺たちに喧嘩吹っ掛けてきたのかね。俺たちこの国で最強なのに、しかも丸腰で説得とか殺されに来ているようなもんじゃんあいつら」

「ええ、死体を漁っても衣類以外何もなかったですし」

「まぁ、何が来ても俺たち負けないよな、あいつらから貰った切り札あるし」

「ええ、それよりも敵を倒したらこの国乗っ取りませんか?」

「お、いいね。乗っ取ったらさ、蒼汰もぶっ殺さない?あいつ、いつもあのお姫様三人の味方ばかりして気持ち悪かったんだ。そんなに好感度欲しいのかってな。」

「そうですね、殺したらあのお姫様味見しませんか?」

「いいじゃんいいじゃん、俺リースね、クレイユもいいんだけど性格的にリースが一番ビビッと来るんだよ」

「あなたの趣味にとやかく言うつもりはありませんが、殺した相手の主人をすぐにたべるとかどうかと」

「いいじゃねぇか、信頼してる相手を殺した人に絶望しながらくわれるとかいい顔しそうじゃねぇか」

「ほんと、独特な趣味ですねぇ・・・」


誰もいない廊下を歩きながら彼らの下世話な話は続いていく。




夜のベランダにて


「あなたを召喚してから1年が経つのですね」


「そうですね、もう1年ですか・・・」


ベランダにある椅子に腰かけて、月明かりに照らされた城下町を見ながら言った。


この一年色々なことがあった。


「あなたを召喚してすぐに超巨大魔獣と国総出で戦って、疲弊した我が国も何とか立て直そうと頑張っています。その矢先にこの事態とは」

「超巨大魔獣、仮称『ムスペリオス・ドラゴン』あれを討伐する頃には国の都市も土壌もボロボロでしたね」


王国の歴史でも出たことがないと言った、あの竜を召喚されたほぼ直後に戦うことになるとは、しかも俺は全然役に立たなかったし。


「えぇ、ですがソータ様と騎士団の協力のお陰で土壌は回復し都市の再建も進んでします。」

「それは本当に良かった」


騎士団の訓練として畑を耕したり、土木工事を手伝ったりしたなぁ。


あれ結構楽しかったな。


「ですので今ソータ様にいなくなられると困ります」

「え?ネペンさんの時に話した時は、そんな事言わなかったのにですか?」

「あれは・・・私も突然の出来事に頭が追い付いていなくて、あんな事を言ってしまったのです。今ソータ様がいなくなると国は大打撃なんです、ですので改めていいます。

死なないでください」


リース様は体をこちらに向け、真剣な表情で言った。


「・・・はい、承りました。リース王女殿下」

「よろしい、ではおやすみなさい」

「ええ、良い夜をお過ごしください」


俺は自分の部屋に帰ってるためにリース様に一礼してから部屋を出た。

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