第19話 お母さんの不安

「どうしたらいいのかしら。」

お母さんのため息が聞こえた。

テレビを観ながらソファーで眠ってしまっていた私は、ふと眼を覚ました。

いつの間に帰ってきていたお父さんは

「うーん…」

と答える。

私の姿はソファーの背もたれに隠されて2人からは見えない。

「今日で3日。せっかく学校が再開したのに3日も休んだのよ。私も最初は風邪かなんかかと思ったんだけど…。午後からは普通にテレビ観たり本を読んだりしてるのよ。それで明日は大丈夫かなぁと思うんだけど、朝になると青い顔して気分が悪いって…なんなのかしら…」

「不登校…か…」

お父さんが呟いた。

フトウコウ…?テレビで聞いた事がある。

隣のクラスの松田くんが4年生からフトウコウになったって話しも誰かから聞いた事がある。

「やめてよ!違うわよ。」

お母さんの声が少しだけ大きくなった。

「ん…ああ、ごめん。そうだな。まだ分からないな。なにせ学校の様子も変わってしまったからな。子どもにもそれなりのストレスがかかるだろう。まあ、そのうちケロっとした顔で行くようになるんじゃないか?」

「そうだといいのだけど…なんだか朝のあの子の様子を見てると…もちろん親が動揺しちゃダメだと思って…、なんともないふりで『じゃあ学校に連絡しておくね』なんて言うんだけど…でも…」

お母さんの鼻をすする音が聞こえた。

お父さんがティッシュを取る音も。

そしてお母さんの声。

「なんだかね、朝の青ざめたあの子の顔を見ていると、これからずっとこの子はこのままなんじゃないかって…不安になるのよ。」

また鼻をすする気配。

「そうだね…君はあの子の朝の様子をみてるから不安になるね。でも…大丈夫だよ。きっと。思えば小さな頃から少し臆病で少し神経質な所のある子だったじゃないか。なんでもない事を怖がって泣いて…。発達障害を疑ったこともあったけど…でも大丈夫だったろ?いつの間にか成長して、少し大人しいけれど本の好きな良い子に育ったじゃないか。だから、あの子はきっと大丈夫。きっとまた成長するよ。」

お父さんは静かに話した。

ハッタツショウガイ?

 私は色々なものが怖かった保育園の頃を思い出した。風に揺れる木々の葉っぱ。突然に鳴らされるインターフォンの音。赤いスイカの実の所々に入っている黒い種。小さな頃は、そんなものが不思議と怖かった。そういえばいつの間にか平気になってたっけ。

「そうかな…そうだね…いつの間にかスイカの種も嫌がらなくなったわね…」

私と同じ事を思い出していたお母さんは少し笑ったみたいだった。

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