第20話 久美ちゃんの事情
部屋の半分を占めるベッドの上。かべに背をつけて膝を抱える私の横に並び、久美ちゃんは同じように膝を抱えた。そして少しだけ小さな声で言った。
「あのね、ウェブ授業、最後の1週間は受けてないんだ。お兄ちゃんの家に行くのね、いやになっちゃった。」
私が学校を休んで5日目の午後だ。私はやはり朝になるとドキドキしてモヤモヤして、学校に行けずにいた。
プリントを持ってきてくれた久美ちゃんを留守番を頼まれたお婆ちゃんは喜んで迎えいれ、私の部屋に通したのだ。
「え?どおしたの?お兄ちゃんの部屋でウェブ授業、喜んでたのに…」
そういえば学校が始まる前、しばらく久美ちゃんと電話で話してなかった事に気がついた。
「うん…ちょっと…ちょっとね…」
久美ちゃんは泣きそうな目をして、それでも結局は私に涙を見せる事はせずに、顔を膝にうずめた。私は久美ちゃんが泣いたのを見た事がない。
「お兄ちゃんと…何かあったの?」
私が聞いても久美ちゃんは顔を膝にうずめたまま、頭を横にふった。何度も何度も。言葉はなく、それでも強く否定する久美ちゃんの様子が、逆にお兄ちゃんと何かあったのだと私に思わせた。でも、久美ちゃんが否定するから、私はそれ以上何も聞くことができない。
しばらく静かな時間が流れた。
そして…
「学校!来てよ!」
久美ちゃんはいきなり顔をあげ、私の方を向いて言った。
それは、いつもの元気な久美ちゃんで、私はその変化についていけず、返答ができない。
「おばさんが、心配してたよ。昼間は元気なのに朝になると真っ青な顔して、元気がなくなって学校に行けないって。昼からでもいいから学校来てよ。寂しいよ」
「うん…ごめん…」
私は謝るしか思いつかない。
「他にもね…野沢くんや愛ちゃんもずっと休んでる。他にも昨日は1人休んだし、今日は2人休んだ。毎日、誰かしら休んでる。先生がね、『今までと違う学校生活でみんな疲れちゃうのかな』て言ってた」
そうなのかな…私、新しい学校生活に疲れちゃったのかな…
通学路での感覚を空けて一列であるく通学班、校舎の前で消毒液の順番を待つみんなの列。透明の板に囲まれながら授業をする先生。休み時間には男子達のじゃれあいもなく、女子達のお喋りも囁くように座ったまま。そしてマスクに閉ざされて見えない表情…
…緊張…
再開した学校に登校した2日間。その時の様子を思い出したその時に、自分が凄く緊張していたという事を私は唐突に自覚した。
そっかぁ、私、緊張してたんだ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます