第15話 ウェブ授業とパソコン
来週からウェブ授業が始まる事になった。
うちはWi-Fiもあるし、お父さんもお母さんもパソコンを使う。時には学会や研究発表の資料を作ったりで何時間もパソコンのある書斎に籠もっていたりもする。
私は基本的に書斎には立ち入り禁止だ。
ウェブ授業が始まると聞いた時、私もお父さんお母さんみたいに書斎に入ってパソコンか使えるんだと思ってワクワクした。でも残念ながらその期待は裏切られた。お父さんお母さんは、どうしても私に書斎を使わせたくないみたい。書斎には大人の秘密が詰まっているらしい。
久美ちゃんはどうするのかと思って電話で聞いてみた。
「隣りのお兄ちゃんがタブレットを貸してくれる事になったんだ。Wi-Fiもはいってるからうちに来て自由に使っていいよって言ってくれてね。感染には神経質なお母さんも無料で使わせてもらえるって言われてお礼言ってたよ。げんきんだよね〜」
隣りのお兄ちゃんって、久美ちゃんの大好きな人だ。小さい時からよく遊んでくれて、今も時々はお喋りもしてるらしい。たしか今年、県内トップのN高校に合格したとか。やっぱりお兄ちゃんはスゴイって久美ちゃんが嬉しそうに話してくれた。
私にはパソコンやタブレットを貸してくれるご近所さんはいない。
どうしても書斎のパソコンを使わせたくないお父さんお母さんは、でもその代わり私にノートパソコンを買ってくれた。
「タブレットでもいいかと思ったんだけどね、まあどうせ直ぐに必要になるだろうし、今からキーボードに慣れておくのもいいかと思ってね。そのかわり、時々はお母さんも使うからね。」
お母さんはそう言った。
お父さんはひとこと
「上手に使うんだよ」
それだけ。
私は新しいオモチャが手に入ってとても嬉しい。簡単な操作や検索エンジンについてだけをお父さんに教えてもらった。後はとにかく触りってみる事だとお父さんは言った
。時間はたくさんある。パソコンが届いた次の日、お母さんとの約束どおり午前中に勉強をして、お昼ご飯を食べてからパソコンの電源をつけてみた。
まずは検索エンジンをクリック。好きな本や作家さんの名前を入力。まだ読んだ事のない本の題名がたくさん出てきた。読んでみたい本もたくさん。でもパソコンの画面上で読む方法を私は知らない。題名だけ紙にメモをした。今度本屋に行ったら探してみよう。お母さんに買ってきてもらってもいい。
小学校の名前で検索。ホームページが出できた。でもこれはお母さんのスマホで見た事があるし、つまんない。
ひととおり検索し、ページを閉じた。改めて見るとパソコンの画面には5つのマークが並んでいる。アイコンというのだとお父さんが教えてくれた。そして好きにクリックしていいとも言っていた。ひとつは私の名前、ひとつはお母さんの名前がついていた。クリックしてみたけど、まだ何も出てこない。これから色々と保存していく場所だとお父さんが言っていた。何を保存したらいいのかな。
家族アルバムのアイコンもある。開いてみたら、まだ一枚しか入ってなかった。12月の私の誕生日に写した写真だ。ケーキを前にニッコリ笑う私がいる。その前までの写真は書斎のパソコンとCDに保存されている。たいていはお母さんのスマホで撮影したものだ。そのうちデジカメをおねだりしてみようかな。
Xという文字のついたアイコンを開いてみた。縦の線と横の線がいっぱい。上の方にはよくわからない記号や文字が並んでいる。よくわからないから閉じる。
最後にWの文字があるアイコンをクリック。真白い長方形。うえの保育園には、やっぱり記号が並んでいた。これだけはお父さんが簡単に教えてくれた。
「君がよく使うようになるとしたら、まずこれかな。作文や日記などの文章を書く、原稿用紙みたいなものだね。」
試しに自分の名前を打ち込んでみる。カチッカチッと一文字づつゆっくり。ローマ字を2つ打つごとに平仮名が現れた。平仮名も一文字づつ確認しながら次の文字を打っていった。名前の全ての平仮名か並び終わったら"変換"…出た!私の名前が漢字で画面に並んだ。自分で打った文字が活字になって画面に並んだ事に少し感動した。
でも後は何を書いたらいいのか思いつかない。うーん…
うーん…と考えていたら
「ただいま〜」とお母さんが帰ってきた。
「さあ、ご飯の支度するよ。テーブルの上を片付けて!」
私はノート型パソコンの電源を切った。
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