第14話 お婆ちゃん
今日はお婆ちゃんと2人の夜。
お母さんは夜勤でお父さんは当直。
いつもは2人で調整し合って、2人ともいない夜なんてないのだけど、今日はどうしても調整できなかったらしい。
「夜間保育園がお休みになっちゃって夜勤が出来なくなったお母さん看護師がいるのよ。うちはお婆ちゃんが頼れるから、こういう時は協力しないとね」
お母さんはそう言って出勤していった。
お婆ちゃんと2人で夕飯を済ませ、ゴールデンタイムのバラエティ番組を見ていると、食器を片付け終えたお婆ちゃんが縫い物を始めた。
お婆ちゃんは色々な物を作る。私の小さい時から給食のナフキンや袋、手提げバックや浴衣も縫ってくれた事もある。
「自分の手で他人とは違う売ってない物を作るのが好きなのよ」
なんて言って作ってくれる物は確かに売っている物とは少し違う個性に溢れている。
お婆ちゃんは縫い物だけではなく、陶芸やステンドグラスなど色々な物を作る。昨年の夏にはおうちの庭にバーベキュー用のテーブルまで作ってしまったらしい。
お盆には私達もお呼ばれのバーベキュー大会があった。お母さんの弟である叔父さんは、その時の様子を大袈裟な身ぶりで笑いを入れながら話してくれた。
叔父さんは面白いから好き。
「お婆ちゃん、今度は何を作ってるの?」
お婆ちゃんの手にある布はこないだまで作っていたマスクよりは小さいみたい。
テーブルの上にはピンクや水色の小さな同じ形の破片がたくさん。
私の質問にお婆ちゃんはニヤリとして私をみた。お母さんのアニキになった時の顔にそっくりだ。
「アマビエ様よ」
「アマビエ様?」
と私が分からないでいると、お婆ちゃんは作業を止めて自分のスマホを取り出した。
「これ。」
お婆ちゃんが私に向けたスマホの画面には虹色の人魚のようなかわいいキャラクターがいた。
「かわいい!なに?なんのキャラクター?」
と私が聞くとお婆ちゃんは再びスマホを操作
「もとはこれ。どこかの地域に伝わる伝染病を封じる神様なんだって。」
そう言って見せた画面は古そうな紙に墨で何かの絵と文字らしき物が書いてあった。
さっき見たかわいい色のキャラクターと共通点があるようなないような…。
「えー⁈これがアレになったの?ずいぶん可愛くなっちゃったんだ。」
お婆ちゃんと一緒に少し笑った。
「お婆ちゃん。それ信じてるの?」
「べつにこれでコロナが収まるとは思ってないよ。でも、いろんな人がデフォルメしててなんか楽しいじゃない? だからお婆ちゃんも自分だけのアマビエさんを作ってみようと思って…」
話してるうちにアマビエ様からアマビエさんになっちゃった。
「ふーん…効くといいね〜。もうお休みにも飽きちゃった。」
思わず背中を丸めてテーブルに顎をつく。
「そうねぇ。お婆ちゃんも、そろそろどこか温泉にでも行きたくなったわねぇ」
お婆ちゃんと一緒にため息が出た。
だけど、その次の瞬間にはお婆ちゃんはまた、針を持って言った。
「まあ、出来ない事をアレコレ言っても仕方ない。今出来る事を楽しみましょう!」
お母さんがお婆ちゃんの事を"厄介なくらい、どこまでも元気で前向き"だと言っている理由がよく分かる。
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