第12話 久美ちゃんとの会話
「あんな楽しいお手紙がもらえたんだもん。ちょっと遅いなぁと思ったけど、ぜんぜんいいよ〜」
電話の向こうで手紙の返事が遅くなった事を謝る久美ちゃんだったけど、私は久美ちゃんのイラストや漫画でいっぱいの手紙をみたら、手紙を待っていた時間なんて忘れてしまった。
「凄いよ。前から絵が上手いなぁと思ってたけど、マンガになってるの初めて見た。プロの漫画家さんみたいだよ」
「へへへ…、前から描いてみたかったんだ。学校が休みになってヒマだったからさ…勉強なんてヤル気にならないし、ちょっとづつ描きかけてたんだけど、なかなか完成出来なくて
…でも見せようと思ったら、できちゃった。」
私が誉めると久美ちゃんは照れたように笑って言った。
「また書いて送って!また久美ちゃんのマンガ読みたい。」
私が言うと久美ちゃんは今度は困った声になってしまった。
「んー…描きたいんだけど、ストーリーが思いつかないんだよね。こないだのもちょっと短いから描いたけど…どんな話しがいい?」
そう言われると私も困ってしまう。
「今日久しぶりにお母さんと本屋に行ったんだけど…やっぱラブストーリーが多いよね」
と言ってはみたけど、まだ6年生になったばかりの私と久美ちゃんでは、今ひとつピンとこない。もちろんカッコいい男の子との突然の出会いや恋愛にはキュンとして憧れちゃうし、時々あるエッチなシーンにはドキドキしちゃうけど。
「え?本屋行ったの?今日!」
久美ちゃんは自分の描くマンガのストーリーの事より、私が本屋に行った事の方に関心が向いたみたい。
「うん。今日はお母さんが休みだったから、一緒に本屋と百均に行ってきたよ。キャンディにも行ったけど、"しばらくお休みします"って張り紙がしてあったから、仕方なく百均に行ったの」
小さな店はシャッターが閉まっていた。
「あそこね、学校が休みになって直ぐに"子どもが来てる"って近所の人から通報があったんだって。うちのお母さんが言ってたよ」
学校が休みになって直ぐだったら、まだ世の中の緊張感が今ほど強くない頃で、まだ色々なお店も普通にやってたころだ。
「別にお店は悪くないんだけど、近所の人なんかが、"子どもの好きな店が開いてるのが悪い"ってキャンディのおばちゃんに意見したらしいよ。」
「えー⁉︎ おばちゃんかわいそう…」
キャンディは小さな店で、1人のおばちゃんが、いつもニコニコしてレジの奥に座っていた。お母さんよりは歳上で、噂だと中学時代にグレて大変だった娘さんが、もう大人になって結婚しているとか。だから時々、悪そうな中学生とかがいると声をかけて話しを聴こうとしているのだとか。私達にもよく声をかけてくれる。お気に入りのキャラクターの新商品が入ってる時は教えてくれるし、時にはアメやお菓子をレジの横に置いてご馳走してくれる事もある。
「おばちゃんどうしてるのかなぁ。しばらく会えないのなんて寂しいね。」
「そうだね、さびしいね。」
そう言った後で久美ちゃんは突然声を大きくした。
「あー、キャンディに行きたくなっちゃった!キャンディに行きたい!本屋にも行きたい!百均にも、公園にも…遊びに行きた〜い!」
まるで駄々っ子のようだ。
「どこも行ってないんだ。散歩も…?」
と私が聞くと
「行ってない!」
と久美ちゃん。でもその後で急に小声になった。
「お母さんがいない時にコッソリとコンビニには行くけど…お母さんがいると出かけられないから。」
久美ちゃんのおばさんはかなり厳しいらしい。私はお母さんが時々は散歩に連れ出してくれる。公園で縄跳びをしたりお母さんと競争したりする。今日みたいに買い物に行くのは珍しいけど。
「久美〜!いつまで電話してるの?宿題は進んだの?」
電話の向こうの方でおばさんの声がした。
「あ!ごめん、切るね。また手紙やろうね。私はイラストとマンガしか書けないけど。」
久美ちゃんは慌てたように言った。
「あ、うん。またね」
私も慌てて言うと電話を切った。
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