第10話 返事がこない
お手紙を出してから毎日マンションの1階にあるポストを見に行く。801号室のプレートが貼られた金属のとびらを開けてみるけれど、お父さんやお母さんあての郵便物ばかりでつまらない。
私は久美ちゃんからのお手紙を待っている。電話をしたらいいんだろうけど、せっかく手紙を出したのだから、やっぱり手紙でお返事がほしい。久美ちゃんだって、しばらく電話をかけてこない。きっと時間をかけて丁寧に手紙を書いているんだと思う。
「お母さん、私の手紙ちゃんと出してくれた〜?」
久美ちゃんへの手紙は夜勤に行くお母さんがポストに入れてくれたはずなんだけど、あまりに返事がこないからお母さんを疑ってしまう。お母さんは時々ウッカリやらかすんだ。
「あのね〜、まだ5日目よ。アンタは返事を急ぎすぎ。」
「だって〜…」
月曜日に私がお手紙を書いて、その日の夕方にお母さんがポストに入れてくれたんだから、次の日には久美ちゃんの家に着くと思うし、久美ちゃんが喜んで(喜んでくれたと思うのだけど)直ぐにお返事をかいたとして、水曜日にポストにいれたら昨日の木曜日にはうちに着くと思うんだけど…。
と、何度も繰り返し言った事をまたお母さんに言おうとしてやめた。
お母さんが出かける支度をしている。今日はお休みのはずなんだけど。
「どっか行くの?」
お母さんはニヤリと笑った。
「本屋と、百均か…キャンディでもいいかな。一緒に行きたい?」
キャンディというのはファンシーショップ。私の好きなキャラクター、スイーツちゃんの文具やオシャレ雑貨がたくさん売っている。
「行きたーい!…いいの?」
学校からのお便りには外出を控えましょうって書いてある。
「いいの、いいの。今日は平日だし、お店もそんなに混んでないでしょう。お母さんと一緒に出かけられる数少ない平日なんだから。アンタも新しい本か漫画が欲しいでしょ。」
お母さんもなんだか楽しそうだ。
「欲しい!」
休校が始まったばかりの時に図書館も休みだからと、新しい本を5冊も買ってもらったけれど、それは全部読んでしまった。漫画の新刊も出てるはず。
私が喜んでいると
「そのかわり、歩いて行くぞ」
とアニキっぽいお母さんが出てきた。
「えー⁉︎」
「あったりまえだ。こんなにいい天気なんだし、ここのところ運動不足だぞ!」
本屋までは自転車で行っても10分くらいだ。歩いたらどんだけかかるのだろう。キャンディなんて本屋からさらに少し向こうだ。
私がしぶっていると
「じゃあ、行かない? そのかわり、お母さんがアンタのかわりに本を選んできてあげる。問題集もね。」
お母さんが笑う。
「いや〜!行く行く。歩きまっす!」
私は慌ててマスクを着けた。
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