第4話 久美ちゃんの家族
「おじさとおばさん、そんな事言ったんだ。」
お父さんの話しを聞いた翌日、久美ちゃんからかかってきた電話に私はその不安を話した。
「覚悟って、どういう事なのかいまいちわからないんだよね」
久美ちゃんに話しをしたら少し気持ちが軽くなるから不思議だ。
「覚悟ねぇ…うちの親には絶対ないな。お母さんは毎日毎日、家中を消毒しまくっているよ。アルコールがなくなってからは"除菌"て書いてある消臭剤を買ってきてそこらじゅうにまいてるし。あちこちから"やすらぎカモミール"の香りがしてるけど、ちっともやすらかないっての。」
久美ちゃんは笑った。
そういえば少し前に久美ちゃんのおばさんからお母さんに電話がかかってきてた。なんでもマスクが手に入らないから、病院に勤めているお母さんに何とかしてもらえないかとか…。お母さんの近くにいた私にも焦っているおばさんの様子が伝わってきた。お母さんは困った顔をしながらやんわりと断っていたっけ。その後久美ちゃんのお婆ちゃんが朝の5時からドラックストアの前に並んだとか聞いた。マスクは手に入ったのだろう。
ちなみにうちはお婆ちゃんがお裁縫好きで可愛い布マスクを沢山作ってくれた。私はめったに出かける事がないから、あまり使わないけれどお婆ちゃんは「今日はどれにしようかしら」とけっこうマスクを楽しんでいる。
「お父さんなんはお母さんと正反対で、コンビニとか出かけるのにマスク忘れたり、して行ったとおもったら帰ってきて、そこらに置きっぱにするから、いつもお母さんに叱られてる。手の洗い方も雑だしさ。『ウィルスなんて、そんなにいないよな。お母さんはちょっと神経質だと思わないか?』なんてコッソリ私に囁いてくるんだよ」
久美ちゃんのお喋りは止まらない。
「おじさんは、ずっとお休みなの?」
と私は聞いた。たしか普通のサラリーマンじゃなかったっけ?日曜日に遊びに行くとリビングでテレビを見ていたりする姿をみかける。ノンビリした感じで寝転がったままで「いらっしゃーい」なんて声をかけてくる。
「ん、たまーに会社に行くよ。なんか書類の確認とかしなきゃいけない時があるんだって。それもマスク忘れて行っちゃう時があるんだよ。信じられないよね。いくら車で出勤だからって、会社で会う人たちが気にするっての」
久美ちゃんの頬がぷくっと膨らんでいるのが想像できた。
すると電話の向こうから久美ちゃんではない声が聞こえてきた。
「ちょっと〜、久美…」
少し離れた所から叫んでいるのか、後半はよく聞き取れない、久美ちゃんを呼ぶ声
「はーい」
電話から口を離して返事をする久美ちゃん。
「ごめんね、お母さんが、うるさいんだ。電話代がかかるって、これでも短くきりあげてるのにね」
「あ、ううん、いいよ。じゃあね、また…今度は私が電話するね」
やっぱり賑やかでいいなぁと久美ちゃんを羨ましく思って、いつの間にか私の不安は消え去っていたのだった。
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