第2話 久美ちゃんとの会話

 早く始まった春休みが、思ったより長くなってしまって、5年生のクラスのみんなと会わないうちにいつの間にか6年生になっていた。始業式のはずだった先週、転任してきた新しい担任だという先生が新しいクラス名簿を持ってきてくれたけれど、そこに仲良しの久美ちゃんの名前がないのにがっかりした。

 久美ちゃんとは時々電話でお喋りはするけれど学校の休みが長くなると、だんだんと話題も少なくなってくる。

「退屈だよね〜。」「なんか面白い事ない?」そんな会話にも飽きてしまった。

 だいたい外に出ようとしてもお母さんやお婆ちゃんに止められるし、一人っ子の私から新たな話題など出てくるわけがない。

 その点久美ちゃんには弟がいるし、久美ちゃんのお母さんはパートのお仕事がなくなって家にいるし、お父さんまで自宅待機とかで家にいるらしい。さぞや毎日が賑やかで退屈などしないだろうと思うけどのだけど。


「賑やかところじゃないよ! 弟なんてウザいだけだし、お母さんはいつも怒ってるし、お父さんなんてゴロゴロしてるばっかで遊んでなんかくれないんだから。私は静かに生活したいよ。早く学校始まらないかなぁ」

電話の向こうからは久美ちゃんの声の他にテレビの音や弟やオバさんの声が聞こえてくる。リビングにある昔からの家電いえでんといわれる電話を使っているのだ。久美ちゃんはまだスマホも携帯も持たせてもらえない。お婆ちゃんの代からの一軒家に住んでいるのだ。


 うちは私が生まれてから買ったマンションに住んでいるから家電いえでんなんてない。小学校に上がった時に非常用にとお父さんがキッズ携帯を買ってくれた。

 お互いにまだメールとかLINEとかが使えないから、限られた時間ではあるけれど電話という手段で声を聞く事ができる。これはこれで楽しんでいる。文字だけのやりとりなんて想像できない。

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