小学6年生 コロナの日々

第1話 大人たちの緊張

 大人達が緊張している。

 お父さんは言う

「思っていたより感染率が高いし、思っていたより死んでいるなぁ」

 お母さんは言う

「もうどこに感染者がいても不思議じゃないわね」

 私は病院に勤めるお医者さんのお父さんや、看護師のお母さんとは違って、コロナウィルスとか感染者とか、毎日のようにテレビから聞こえてくる言葉にはピンとこない。

 それでも玄関に置いてある消毒薬とか、お母さんが仕事で家にいない日に来てくれるお婆ちゃんが、来たときと帰る時に丁寧に手を洗う様子、私がテレビを見ている後ろで交わされるお父さんお母さんの話しとか、そんなものから大人達の緊張を感じて、私も思わず少し大人しくなってしまう。



 毎日、今日は何人の感染者が発生して、何人が死んだとか、難しい顔をしてニュースキャスターが報告する。

東京は毎日百人を超える新たな感染者に医療が破綻しつつあるとか…。

 そんなニュースを見ては、お父さんお母さんは何かしらの会話をしている。たいていは私がテレビを見ていたり漫画を読んでいたりする時で、2人とも私が聞いていないと思っているし、それは私に不安を抱かせないようにだと、私もわかっている。だから私は聞いていても聞いていないふりをしてあげるし、大人達の緊張など微塵も感じとっていないふりをしている。6年生の女の子となれば当たり前のたしなみだ。


 私の住んでいるちょっぴり田舎の、あまりお勉強していない学生だったら日本のどこにあるのかも、その漢字も書けないような県では、感染者の数はそこまで多くはない。ただ2日ぐらい前に隣町の繁華街でクラスターが発生したとかで、ここのところの新たな感染者数は突然に多くなってしまった。

 お父さんお母さんの勤める個人病院には、まだ感染者はいないらしいけれど、もういつ病院から感染者が発生してもおかしくないらしい。

 大人達の緊張は私が知らないフリしている間にも高まっていく。

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