第69話 魔力
「で? これからどうする? 正直あいつに勝てる気がしないんだが」
俺たちはフィルの家に集まって改めて話し合いをしていた。
「ぼっこぼこにやられていたからな。あそこまで強いとは私も思わなかったよ」
このままの状態ではまた戦いに行っても勝てないだろう。何か策があるといいのだが全く思いつかない。
「アスティを武器にしても反応できなければ意味ないからなあ」
「なんか当然のように私を武器にしようとしてません?」
「慣れたろ?」
「慣れましたけど……」
アスティと俺がうんうんと唸っているとフィルが真剣な表情で口を開いた。
「なあモルダー殿、君はグラン・クリスタルを体に入れたんだろう? それなら魔力が使えるんじゃないか?」
「魔力? 俺が?」
なぜか生まれた時から魔力がなかった俺が魔力を?
「体からは何も感じないがなあ」
「まあ魔力は訓練しないと使えないからな。魔力で使える術を覚えてはいないかい?」
魔法使いにも呆れられて一切教わってないからな。低級魔法は魔法じゃないし。うーん……いや、待てよ。
「エクスカリバーなら魔力があれば斬撃が飛ばせるな」
「なるほど、さすが聖剣と言われるまであるな。一回試してみるか?」
フィルの提案に乗った俺は村の外の森まで移動した。
「ここなら試し打ちができるだろう。やってみてくれ」
魔力を感じない俺が斬撃を飛ばせるのだろうか? まあ駄目なら諦めればいい。
俺はエクスカリバーを構え、森の奥に向けて剣を振り下ろした。すると親父の斬撃とは比べられない規模の斬撃、視界全体を覆う斬撃が森に放たれた。放たれた斬撃は森の木々を切り裂き、見える範囲の木々はすべて切り刻まれたいた。
「まじか」
「ええ……」
「環境破壊だなもはや」
グラン・クリスタルの魔力は底知れないようだ。これなら勝てるかもしれない。
「これであいつに対抗できるな」
「いや、あいつの速さに反応できなかっただろう? タイマンで戦ったら負けるんじゃないか?」
確かにフィルの言うとおりだ。仮に軍の施設を急襲で破壊しても僧侶が巻き込まれるかもしれない。少なくとも僧侶を助ける必要がある。それにグラン・クリスタルが無ければエルフは生活できないのだ。それも奪わなければいけない。十中八九あいつとの戦闘になるだろう。
「いや……あいつに勝てる方法は一つだけある。あいつは魔力を使いあの速度を出していた。俺もあれを覚えれば互角に戦えるかもしれない」
「魔力によってあのスピードを出していたわけか。試しにモルダー殿も試してみてはどうだ?」
フィルの言う通り俺は魔力を四肢に込めようと集中した。だが一向に魔力が貯まる気配はない。
「駄目だ。一朝一夕ではあの技は使えないようだ。だがあの技を覚えないと太刀打ちできないだろう。どうしたものか……」
太刀打ちできる技はある。だがそれを覚えられない。魔力を操作する術なんて俺は分からない。
俺たちが頭を悩ませていると、エルフの老婆が俺たちの元へ歩いてきた。何かようでもあるのだろうか?
「どうしたいんだい?」
「グラン・クリスタルで魔力が使えるようになったんだが、どうもコントロールができなくてね」
「なるほどねえ……」
老婆が顎に手を当てて思案している。何か解決策があるのだろうか?
「魔力のコントロールというのは日々の修練で身につけるものだからねえ。コントロールには幼少時代から慣れておく必要があるのよ」
確かに老婆の言うとおりだ。魔力があったからといってそれを使うとなれば長い訓練が必要だろう。だが俺には時間がない。
「なんとかならないか? 少しでもいい、あいつに勝てる勝機があれば……」
「そうねえ」
老婆がしばらくの間無言で何かを考えていた。しばらくして老婆は口を開いた。
「心臓に魔力があるのよ、あなたは。それをコントロールするとなると莫大な時間がかかるわ。でも今すぐにでもつける技はあるわ」
「それはどういう技なんだ?」
「これはかなり寿命を削るわ。それでも構わない?」
「ああ、殺されるよりはましだ」
「そう。覚悟は決まってるのね。心臓に魔力が込められているわ。少し集中すれば魔力により心臓の鼓動が極端に早くなるのよ。簡単に言うと心拍数の高さだけ世界がスローに見えるわ」
「なるほど、やってみよう」
目をつぶり心臓に意識を集中する。すると心臓の鼓動が極端に早くなった。世界がスローになると言っていたが、周りの世界が止まっているように感じる。これならやつに勝てるかもしれな――
「ぐああああああ」
心臓に鋭い痛みを感じて一気に集中が途切れ、停止していた世界は元のスピードに戻っていた。心臓に鋭い痛みを感じる。これは一体……。
「魔力の暴走だね」
老婆が淡々とした口調でいった。
「魔力の操作に慣れないと、全出力を使うことになるから心臓の限界を超えちゃうのよ。グラン・クリスタルは魔力の結晶だからね、力を抑えないといけないわ」
「でもどうやって覚えるんだ?」
魔力の操作ができない俺にとっては無理難題といえた。だがこの老婆なら解決策があるのだろうか?
「訓練すれば加減できるようになるけど、少なくとも三年はかかるわね」
「じゃあどうやって戦えばいいんだ?」
「そうね、少なくとも魔力の切り替えはできるのよね? 相手は見きれないスピードで攻撃してくるのでしょう? 一瞬だけ魔力を込めて対応すればいいんじゃないかしら? でも問題もあるわね、いつ攻撃が来るか分からないもの」
「それに関しては大丈夫だ。あなたからもらったクリスタルで敵の攻撃の瞬間は感知できる」
「なら問題はないわね。ただし使いすぎには注意しなさい。使いすぎると普通に死ぬわよ」
「まあ一回死んでるし、慣れたもんだよ、心配はいらない」
これで対抗策はできた。どこまでやれるか分からないが、フィーナを救うためには俺は勝たないといけない。
「なあ、フィル。俺たちにはあと何日残されている? グラン・クリスタルもすべて無くなったんだ、そのうち生活もできなくなるだろう?」
「小さいクリスタルで耐え忍んでも二週間が限度だな」
「なるほど、じゃあ結構は二週間後だ、それまで戦闘態勢を整えよう」
二週間後にすべてが決まる。少なくとも魔力によるスローモーションの世界の戦いを想定して訓練しなければいけない。
「検討を祈っているよ」
「ああ」
二度とあいつには負けらられない。俺はそう心に近い、森を後にした。
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