第49話 【回想】僧侶との出会い②

「で、仲間の募集のためにギルドで登録をして1週間が立つわけだが」


「まあ全く来てくれないです。人っ子一人」


 いつもの酒場で飲んだくれながら魔法使いと二人、元状況を嘆いていた。考えても見ればパーティが二人の募集に入るメリットがどこにあるのかと募集してから気づいた。魔法使いと勇者の二人でここに来るまで何をしていたのだと思われているのだろうか。入る側からすれば生存確率が低い少人数パーティより大人数のパーティに入ったほうがメリットがある。それに一人でも欠けたら全滅する可能性が高いこのパーティに入るやつは自殺志願者かなと他人事のように思う。まあ魔法使いと俺の技量を考えればある程度の熟練した魔族でも戦いきれるポテンシャルは我ながらあると思うのだが、どうにもこうにも募集要項の欄ではそれを伝えることは不可能だった。


 さらに言うのであれば魔法使いや勇者、戦士や格闘家の戦闘職よりも僧侶のような回復役のような援護職のほうが需要がある。それに加え需要に対し、絶対的人数が少なすぎる。回復役は大いに越したことがない、なので大人数のパーティでは複数の回復役を準備する必要がある。少人数のパーティでは回復役を守るための陣形を取るのも難しく、後衛とは言え、敵に襲われる可能性が格段に上がる。それが知能を持った魔族であればなおさらだ。回復役が一人であれば、そいつを潰せばパーティ自体が崩壊する。つまりこの危険すぎるパーティに入る奴はいないというのが結論だ。


「もうさ、究極、問題児でもいいから来て欲しい。頭が逝ってるやつでも良いから……」


「選り好みできる立場じゃないですもんね。頭おかしい人は嫌ですけど、頭おかしい人しか志望しないですよねこの状況では……」


 募集当初は誰が来るかと魔法使いと一緒に楽しく飲みながら考えていたもんだが、今やこの飲み会はお通夜と化していた。隣では新しい仲間の歓迎会が行われていて、余計に気が滅入ってくる。


「もうさ、俺たち二人で行けばいいんじゃないか?」


 だいぶ酒が入っていて頭が回らないのか、突拍子のないことを言ったと自分でも思った。


「体のいい自殺ですかね? 自殺したいなら私のいないところで死んでくださいね」


 魔法使いが呆れた顔で俺を見てくる。あちらも酔っ払っているのか言葉に一切のいたわりがない。


「うーん……頭おかしい奴どっかにいないかなあ……」


 さすがに魔法使いともこれ以上会話する気力もなく、テーブルに突っ伏しながら横を見ると新しく入ったであろう緑のローブの女が大人数の歓迎を受けていた。職業は僧侶だろうか、木の杖とローブを持っており、近接戦闘する格好でもないのでまあ僧侶なのだろう。その周りでパーティの者が楽しそうに新しく入ったパーティの女を紹介していた。女は丁寧にお辞儀するとそのまま何をするでもなく、椅子に腰を掛けた。パーティの者が自己紹介でもしてくれと言うと女はめんどくさそうな顔を一瞬だけ見せ、立ち上がった。


 俺はその様子を見て、人馴れしていないのか、それとも社交性をどこかに置いてきたのかと他人事のように思いながら見ていた。女は顔色を変えず自身が入ったパーティに向け口を開いた。


「ここで一番強い方はどなたですか? 私は一応このパーティには志願しましたが、私が入るに足るものか証明してくれませんか?」


 新しい仲間に盛り上がっていたパーティが女の一言に、まるでフリーズの魔法を食らったかのようにピシャリと空気が凍った。あっけに取られしばし固まっていた面々だが、その中でリーダーらしき男が不快だと言わんばかりの態度で口を開いた。


「私がこのパーティでリーダーをやっているシャロンと言うものだ。職業は勇者だ。一応、このパーティでは一番腕が立つと思っている。でだ、君はどうすれば納得するんだ? 私も一応ここまでこのパーティを統率し、一人も欠けずにここまで来たんだ。それも前線に出て指揮をしながらだ。ここまでのモンスターであれば一切の傷もなく対応できてきた。これでも不満か?」


 金髪で短髪のリーダーと名乗るその男は明らかに女に対し好戦的になっていた。それを理解しているのか、していないのか、また表情も変えず女は言葉を続ける。


「それでは実力が証明できません。仮にそれが本当だとしてもあなた方が魔界のモンスターに勝てるという証明になりますか? 知力を持つ魔族に対しどう対処するのか策はあるのですか? 仮に魔王までたどり着いたとして、ダメージを与える攻撃が出来ますか?」


 女の言葉に男は心外だと言わんばかりに、いらだちと共に叫ぶ。


「ではどうする? 私と戦うか!?」


 男のいらだちとは対象的に、冷静に、かつ穏やかな口調で女は言う。


「良いですよ。やりましょうか」


「なっ……お前は僧侶だろう!? 回復以外に何ができるっていうんだ! こんなのやる前から勝負は決まっている、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


 リーダーの発言に周りの者がまあまあとなだめている中、女は少しだけ笑った後、口を開いた。


「多分私が勝ちますよ。まあ怪我させても私が回復するので心配しないでください」


「ッ……!!」


 女の発言にいよいよブチ切れた男が女を掴み外へ出ていった。他のパーティメンバーは唖然とした顔で硬直した後、すぐにその後を慌ててついていった。


「なあ、魔法使い」


「はい」


「頭おかしい奴がいたな」


「ですね」


「見に行くか」


「ちょっと楽しいですね」


 テーブルの上に飲食分のお金を置き、俺達も男たちの後ろについていくことにした。騒ぎを聞いていた酒場の他の連中も楽しそうな催しにぞろぞろとついて行っている。歩くこと数分、街の入口近くの何もない平原にリーダーの男と女はいた。男は剣を構え、女はすました顔で杖をいじっている。それが癇に障ったのか、今にも男は斬り殺そうとする勢いだ。


 それを取り囲むように見物人が取り囲んでおり、その一部に俺たちも紛れていた。


「いやあ、面白くなってきたな」


 隣の魔法使いに話しかけると、酔っ払ってテンションが上っているのか、楽しそうな口調で彼女も言う。


「どっちが勝つと思います?」


「まあそりゃあ、普通に考えたら男の方だろ。ただまあ俺は女に賭けるがな」


「なにゆえですか?」


「そっちのほうが楽しいだろ? 攻撃魔法も使えない僧侶が戦うって言ってるんだぜ。頭逝ってるとしか思えない。ただ、もし勝ったとしたらもっと頭おかしい」


「頭おかしい人が好きなんですね勇者さんは。で勝ったらどうするつもりなんです?」


「あいつを俺のパーティに誘う」


 ふふっと魔法使いは小さく笑った後、馬鹿にしたように彼女は言う。


「それは楽しそうですね」


 そうこうしている内に男のパーティの一人が開始の合図をして戦いが始まった

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