魔王を倒したら殺人罪で死刑になった

第46話 僧侶の正体

「……さて……本題に入るか……」

「は、はい…………」

　妙に落ち着かない雰囲気の中、俺とアスティはと言うとお互いテーブルを挟んで座っているのだが、気まずさのため目をみることはできず、お互い明後日の方向を向いていた。

「いやまあ……入る前にな……一つ言いたいことがあるんだが……」

「はい…………」

「さっきのことはさ…………忘れよう……。最初から無かったんだよ……」

「……そうですね……。……あんなことは無かった……私たちは何もしてないですよ……」

「そ、そうだな……うん……じゃ仕切り直すか……ちょっとテンション上げてこうぜ……今のままじゃ気まずくて死にそうだわ」

「はい……ちょっと気合い入れますね……」

　お互い顔を手で叩き、気合を入れる。

「よし！　本題に入るぞ！！」

「はい！　お願いします！！」

「俺達の！　これからの！　目的は！　海外に逃亡することだ！　こんな国とはおさらばだ！！」

「なるほど！　それなら追ってこれないですね！！　でもどうして私を助けてくれただけじゃなく、さらに逃亡まで助けてくれるんですか！？」

「えっと……それはまあ……なんというかまあ…………乗りかかった船……というか…………まあ気にするなよ……」

「ええ……ちょっとテンション下げないでくださいよマジじゃないですか……。え……？　もしかして、私の事を好きになっちゃたとか……じゃないですよね……？」

「…………」

「…………」

「違くてね？　あれだよあれ……実は俺はお前の実の兄でした～的なね……？」

「兄弟いないです……。もし仮にいたとしても人間ではないですね…………」

「…………」

「…………」

「違くてね？　ほら……あれだよあれ……ええと…………実は俺に妹がいてさ……そいつに似てたからほっとけなかったんだよ……」

「ああー……なるほど……。それで……ちなみにその子のお名前は？」

「え？　えっと…………モル……子？」

「え？　モル子？」

「…………」

「…………」

「いや違くてね？」

「違わないですね……」

　さっきまでのがピクニックだったと思えるくらいに修羅場っていた。いっそ記憶の事を話すか？　そうだ、話そう。話さない理由がないむしろ。

「ええと……前にさ……アスティが死刑になって俺も死刑になってな……。それで色々あってお前を救ったのが俺なんだよ。まあその時の記憶は色々あって飛んじゃったけど……まあ……そういうことだよ」

「大事な所がふわふわじゃないですか……新手のナンパですか？」

「いや、違くてね？」

　弁解の余地がなかった。逃げ道が一切ない。袋小路に迷い込んでいた。こんな時はあれだ、うん。正攻法でいくしかない。

「逆にさ、好きでよくね？　初対面で可愛いと思ったから救ったんだよ！！　文句あっか！！」

「えっ……まあ、はい……ありがとうございます……」

「ああ、うん……こちらこそ……」

「…………」

「…………」

「でさっきの続きなんだけど、行き先は決めてあるんだ」

「え？　そのテンションで続き話します？　どんなメンタルしてるんですか？」

「ん？　何のこと？　何か話ししてたっけ？」

「ええ……まあ……はい……何もないですね……。続けてください……」

　なんとか気まずい空気からは逃げれたようだった。こほんと咳払いをし、改めて話し出す。

「行き先なんだが、エルフが住んでいるという北の森に行こうと思う」

「んー、聞いたことありませんね。なんでそこに？」

「文化が違うから追っても来ないし、それに僧侶に会えるかもしれないからな」

「僧侶さんにですか……なぜ？」

　不思議そうに首をしかめるアスティ。そういえば言ってなかった。

「あいつ“エルフ”だからな。まあエルフと言ってもハーフエルフらしい」

「そうだったんですか！？　確かにまあ回復力というか回復術にやたら長けているなあと思ってはいましたが」

「まあ見た目は人間よりだからな、気づかなくてもしょうがない。でだ、エルフの森に行くにはこっから海岸線沿いを陸路でいくか、船で行くかのどっちかだが」

「はい」

「陸路は捕まる可能性が高い、かと言って船に乗る金もない」

「為す術ないじゃないですか」

「一つだけある」

「おー、あるんですね。ちなみに何ですか？」

「アスティが形態変化して船になる」

「なるほど。モルさんは？」

「その上に乗って優雅に航海する」

「なるほど」

「納得した？」

「名案じゃないですか！　それなら船を買う心配もないっておい」

　恐ろしいほどテンションの低いノリツッコミが来た。

「だめか？　妙案だと思ったのにな」

「むしろなぜそれが通ると思ったんですか？　普通に行きましょうよ普通に」

「船を買ってか？　まあ買うのはいいとして、いやよくねえわ。買う金ねえんだよ」

「うーん……確かに無理ですね……」

「ああ、いいこと思いついたわ。アスティが金貨に形態変化して取引をする。それで終わった頃に戻って逃げてくればいいんじゃないか？」

「ええ……私の形態変化への厚い信頼がつらすぎる……。他に案はないんですか……？」

「ないな！　まあ船に変化して何日間も水にさらされるよりはいいだろう？　それでいこうぜ」

「それよりはましですけど……。まあここにいたらいつまた捕まるか分かりませんし……まあ形態変化するのも少しだけですし……。まあそれで行きましょうか……」

　形態変化への貞操が非常にゆるくなってきていた。慣れというのは怖い。

「じゃそうと決まれば出発だ、いくぞアスティ！　北の大地、エルフの森だ！」

「お、おー！　まあ不安しかありませんが、頑張りましょうか！」

　こうして俺達は“エルフの森”に向けて出発したのだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「まあそんな感じでエルフの森に来たんだけどな」

「普通に捕まりましたね」

「普通に捕まったな。考えても見れば俺ら領域侵犯だったなこれ。許可証が必要だったみたいだ」

　まあその許可証がこの国からは出ないから結局こうなるしかなかったわけだが。

「まあそうですけど……まさかまあ……死刑になるとは思わなかったですね……」

「そうだな……俺二回目だけどな」

「ええ……よく抜け出しましたね……」

「まあ奇跡だったな……」

「で、どうします？　これから。抜け出します？」

「抜け出すのはいいんだが、ずっと寝てないから眠い。どうせ死刑になるなんざまだ時間かかるんだ。多分。まあとりあえず寝ようぜ」

「ええ……慣れすぎでしょ……。まあ私も眠いので寝ますか……」

「ああ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

　こうしてエルフの森に着いた俺達は一晩目を牢獄で過ごす羽目になった。まあ寝ても解決はしないだろうから本格的に明日は脱獄を考えよう……。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なにか言い残すことはあるか？」

「人間と関わるのが罪なんですか！？　人間は私達種族が思うほど残虐な種族ではありません！　関われば分かるはずです……！」

「お前は知らないかもしれないがな、エルフは昔、高い容姿と魔力を持っているため散々人間どもに捕まえられてひどいことをされた。お前の母親だって人間と結婚したために無残にも死んでしまったじゃないか」

「あれは……確かに結果から見ればそうですがなにかあったのかも……」

「外界に落ちている間に人間にでもほだされたか？　これだから純血でないものはいかんというのだ」

「……っ！」

「帰ってきたことだけは褒めてやる。だが掟は掟だ。汚れし血は途絶えさせんといけない。せめてもの慈悲で死んだあとは母のフィルマと同じ墓に入れてやろう」

「ま、待ってください！　そんな考えじゃいつか人間に滅ぼされてしまいます！　手を取り合うという選択肢はないのですか！？」

「連れて行け」

　こうして私は死罪人に成り下がった。