第34話 最終決戦

 ようやく塔が目前まで迫ってきた。生き残っていた憲兵達に数回襲われたが、もはやそのレベルの人間に手こずる訳もない。もはやこの俺たちを阻むものは残っていなかった。


「見えてきましたね。いやあ長かったですねここまで」


「ああ、やっとだ。これでアスティを救い出せる」


 塔の入り口に手をかけ入ろうとした瞬間だった。後ろで瓦礫が崩れる音がし、ふと振り返ってみると“呪術師”がこちらに杖を向けていた。


「フレイン!」


呪術師の杖から黒い光が放たれたのと当時に、魔法使いの杖から赤い光が放たれた。瞬間、二つが混じり合い、相殺するかのように消えていった。


「あはは。これで死んだと思ったんだけどなあ。案外勘がいいね勇者。ほめてあげるよ」


「……生きていたのか呪術師」


「あんな爆発で僕が死ぬはずないでしょ。まあ雑魚のみなさんは死んじゃったようだけどね。人生ってうまくいかないもんだよねー。やっとここまで来たのに邪魔者が入って残念だったでしょ?」


「そうだな、でも二対一の俺たちにどうやって勝つつもりだ? 攻撃だけが取り柄の呪術師ごときが粋がってんじゃねえぞ」


「おー、怖い怖い。そう睨まないでよ。別に僕は勇者とやりあうきはないんだよ? 負けるに決まってるじゃん、相性を考えてよ相性を。僕は無駄なことは一切しない主義なんだ。君たちと違って馬鹿じゃないからね」


 そう言うと、彼女は杖を手でくるくると回し愉快そうに笑った。その笑顔は実に醜いと心から思った。


「馬鹿じゃないならなんでここに来たんだ? 仲間の敵討ちに来たわけでもない。目的は何だ?」


「よく頭が回るね。僕の目的はね、勇者と魔法使いを分断させることなんだ」


「そんなことができるとでも?」


「まあ僕の呪術じゃ無理だろうねー。でもまあこう言えば良いのかな。実はね、君が想っている魔王なんだけどね、もうすぐ死ぬよ。もう儀式は始まってるんだよ。だから今すぐに助けに行かないと困るのは君なんじゃない?」


「っ……! くそっ……!」


 こいつがついてる嘘かもしれない。いや、嘘の可能性が高い。俺たちを分断するのが目的なんだ、口だけならいくらでもいいようがある。でも……もし本当だとしたらアスティの命が危ない。だからと行って今助けに行ったとして各個撃破される可能性が高くなる。できれば今すぐにでも行って確かめたい。でもそれが罠だったらどうする? でも……もし罠じゃなかったら……。


「勇者さん」


 横を見ると魔法使いが微笑んでいた。俺の頭をゆっくりと撫でると、魔法使いは俺に向かって語りかけてきた。


「なんですかその絶望した顔は。馬鹿なんですか? 行けばいいじゃないですか。まさか私がこの糞女に負けるとでも思ってるんですか? この四大魔術を極めたこの私が負けるとでも思ってるんですか?」


「いや……思ってないな……」


「だったら早く行ってくださいよ。はやく魔王さんの所に行ってくださいよ! それでもちんこついてるんですか!!」


「……男らしいなお前。俺よりもかっこいいよ」


「感動してないでほら早く行きなさい! 次会うときは敵同士になるんですからさっさと行ってくださいよ!」


「おう、ありがとうな魔法使い」


「例は魔王の心臓でいいですよ。次あったとき用意しておいてください」


「ははっ、善処しておくよ。じゃあ……またな魔法使い」


「はい、勇者さん。またお会いしましょう」


 もう魔法使いの顔は自分ではなく呪術師に向かっていた。散々なパーティだと思っていたが、なんだかんだであのパーティで良かったと思えた。勝てよ、魔法使い。あんな糞女ごときに負けるなよ。


 こうして俺はアスティのいる最上階に向けて階段を登り始めた。これが本当の最後だ……!

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