第33話 大量殺人
「それじゃ行きますよ勇者さん。悪を根こそぎ退治しましょう!」
決め顔でこっちを向いてくる魔法使いの笑顔は天使そのものだったが、やっていることは悪魔そのものだった。
「ふと思ったんだけどさ、これ魔王と僧侶も倒しちゃわない? 大丈夫なの?」
「魔王さんは防御力高いんで大丈夫じゃないですか?」
「そんな問題じゃない気はするが……僧侶はどうするんだ?」
「まあ……仕事上の関係なので別に死んでも問題はないです」
「ドライすぎない? 俺、こんなやつと昼夜ともに旅してたの? 正気を疑うわ、昔の俺の」
確かに考えてみれば昔からこいつは人の命をなんとも思っていなかったような気がする。旅の後半なんか返り血で真っ赤になったローブをきて笑ってたのをふと思い出した。ただ、俺も僧侶の再生魔法特攻が楽しすぎて似たようなことをしていた気がするので責めるに責めきれない。勇者、魔法使い、僧侶の三人のパーティだと思っていたのだが、どうやらサイコパス二人と常識人の三人パーティだったらしい。
「まあそれは冗談で、ここの構造はだいたい把握しているんでいる場所は分かりますよ。だから大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあ安心だな。よし、いったれ魔法使い」
「じゃ行きますよ~!! どうか僧侶さんに当たりませんように!」
「え?」
俺の混乱をよそに魔法陣が部屋一面に展開されていく。
「おい、ちょっと待て魔法使い! いったんとm」
気づいたときには魔法陣に無数の爆弾が投下された後だった。一瞬の静寂の後、近くに雷でも落ちたのかと錯覚するほどのひときわ大きな爆発音が鳴る。平衡感覚を失うほどの地響きが体を襲い、もはや立っていることすら困難だった。爆発は数十秒続いた後やがて消えていき、辺りに静寂が戻った。
「まるで戦争みたいですね」と他人事のように言う魔法使いを見て、捕まったら殺されるなと他人事のように思った。
「見てくださいよ、この景色。これが魔法の力って奴ですよ。見直しました?」
辺りを見ると中央の塔を除いてすべてが瓦礫になっていた。
「ドヤ顔で言ってるとこ悪いが、これ魔法じゃないよね? ただの兵器を乱用しただけだよね?」
「まあ魔法も兵器も似たようなものですよ。人を殺せればなんでもいいんですよ!」
「これ傍からみたら国を滅ぼそうとしてる侵略者だよな俺たち。もう後には戻れないな……」
「戻る道なんて最初からなかったですよ。どうせ死ぬ運命なら、人を殺してでも運命を変えたいんです。多分これが悪いことなんでしょうけど、それでも生きたいんです」
「そうだな」
魔法使いの過去を知ってる今、彼女を責める気にはなれなかった。人を殺してでも生きたいやつもいる。そして俺は殺してでも一緒に行きたいやつがいる。自分勝手かもしれないがそれでもいいと思った。
「さて行きますか勇者さん。最後の決め所ですよ。死なないでくださいね、いずれ私が殺しますので」
「おう、お前も死ぬなよ魔法使い。俺が殺してやるからな」
行き先は決まっている。中央の一番高い塔に魔王は囚われているだろうと魔法使いが言っていた。そこまでの道はすべて破壊した。もう障害はない、あとはアスティを助けに行くだけだ。
瓦礫の山を踏み越え遠くに見える塔に向けて歩きだした。敵が無数に倒れているが今は懺悔している場合じゃない。懺悔は後からでもしてやる。
「待ってろよアスティ。今助けに行くからな」
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