第32話 勇者☓ アサシン○

「とりあえず勇者さんは巻き込まれただけなので、計画について私が知っている範囲でお教えします。誰を倒せばいいかもわからず突っ込まれても迷惑なので」


「まあそれもそうだな」


 彼女は真剣な表情で考え出した。過去のことを思い出しているのか、状況をまとめているのか、しばらく彼女は黙って思案していた。


 そして彼女はようやく重い口を開けた。


「まず最初に、事の発端は国王が不老不死を求めるようになったからでした」


「ありがちな願いだな。今まで成功した試しはねえってのによ」


「はい、やはりそれは困難を極めました。ですが一人の天才、私の姉であるフィルラン=リフレリアが不老不死の理論を見つけました。それが魔族の心臓を移植することです」


「なるほど。でもそれならそのへんの魔族を捕まえて移植すればいいんじゃねえのか?」


「確かに魔族の心臓の移植は不老不死をもたらします。ただ並の魔族では完全な不老不死にはなれません。それに適応できないものがほとんどで成功したのはデルハンジ=ウルヴという人間だけでした」


「あー、あいつか。首切っても死なないし大変だったよ。よく勝てたわ俺」


「え? 勝ったんですか? まさか殺しました?」


「おう、完全に殺したよ」


「ええ……人外に勝つなんてもはや勇者さんが人外じゃないですか……」


 そして彼女は咳払いをし言葉を続けた。


「話は脱線しましたが、姉の死後に研究を私が引き継ぎました。移植の成功率を上げるためです。国王が移植で死んだら計画の意味がないですからね。日記を読んだのでわかると思いますが、私も国に弱みを握られていたので研究を続けるしかありませんでした」


「寿命がどうこう書いてあったな」


「リフレリア家は短命なんですよ、持病のせいで。研究は飛躍的に進み、魔力の量によって不老不死の効果が異なることがわかりました」


「つまり魔力量が一番多い魔王を生贄にする必要があったということか」


「中卒の勇者さんにしては察しがいいですね。つまり完全な不老不死になるには魔王が必要だったんです。そしてその移植には相手が生きていないと成立しません。だからあのような法律ができました。計画は4年以上前に建てられていたんです」


「さらりと俺を馬鹿にしたのはスルーするけど、そういうわけだったんだな。俺が本物の魔王を殺したら計画が終わってたなこれ。でもまあ殺したのは偽物だったし……そもそもなんで偽物だったんだ?」


「私が四代元素の魔法を覚えた理由に話は繋がります。禁術ではありますが四代元素すべてを複合した魔法を使えば人を蘇らせることが可能になりました。まあ大量の魔力を持った魔族、つまり魔王の心臓が必要になりますが。それが国にバレていたみたいで私も偽物の魔王を掴まされました。ただ国からは勇者さんは重要な人質になりうるという話は聞いていました。なので博打を打って勇者さんを嵌めたわけです。もし国にとって重要であれば何かしらのコンタクトは取るかと思い勇者さんに監視魔法をつけていましたが、まさか魔王と一緒にいるとは思いませんでした。それで私もまた国を出し抜けるかもしれないと練りに練った計画が誰かさんのせいでおじゃんですよ」


「いや、まあ俺のせいではあるけど……逆恨みじゃない?」


「逆恨み……?」

 

 納得していないのか、魔法使いはこちらをきつく睨んでいる。絶対逆恨みな気はするが、俺はその迫力に負け何も言うことができなかった。


「まあこれから王の住む宮殿に乗り込むわけですが、デルハンジ=ウルヴを倒せたのは大きいですね。あいつが強すぎて誰も国王に近づけなかったので」


「さすがは俺だな。あいつが牢獄に来ていた意味はわからんが」


「それは魔王とあなたを安全に運べるものがあの男しかいなかったからでしょう」


「なるほどな、とんだとばっちりだったなあいつも」


 まあ楽しく殺し合いができたんだ、あいつも現世に未練はないだろう。


「そういやウルヴで思い出したんだが、俺が囚われていた牢獄で錠と牢獄にお前のコードが効いたんだがあれってどういうことなんだ?」


「あー、魔法が効かない錠と牢獄を作ったのは私ですからね。国から命令されていたので。まあ理論は姉が完成させていたので、私は本当に作っただけですけど」


「なるほどな、そういう理由だったのか。納得がいったよ」


「じゃあすべての説明も終わりましたし、宮殿に乗り込む計画を立てましょうか」


「ああそうだな。だが宮殿に乗り込むにあたり、一つだけ問題がある」


「侵入経路ですか? それなら大丈夫ですよ、こっそり宮殿中に召喚陣を仕込んでありますので。まあさすがにバレて入ると思いますが、量が量ですからね、全部は撤去されてないでしょう」


「盗っ人猛々しいと言えばいいのか……? いや違うな、荒唐無稽か。お前が仲間になって心強いんだが、なんか慣れ過ぎだよなそういうのに」


「慣れてますからね裏切りには。もう慣れすぎて誰を裏切ってるのか分からないですよ」


「最低のことを当たり前に言うなお前は。まあ侵入経路が出来たことはいいが、それとは別に問題があってだな。武器はどうする? 俺の武器はお前に壊されたし、お前の武器は俺が壊したし」


「あーあのフランベルジュですね。なんか普通に自分のもののように使ってましたけどあれ私が作ったものなんですよ?」


「え? そうだったのか? ああ、軍に頼まれたとか?」


「そうですね、対魔王戦用に作られた武器です。ソードブレイカーと対で運用するんですが、まずソードブレイカーが魔族の魔力を吸収できるようにしてあります。魔法に変換されたものを剣で受けるか直接相手を切るかすれば貯まるわけですね。その溜まった魔力をフランベルジュに送り込むことで、予め施されていた魔術による機構によって剣の融解温度ギリギリまで上昇、それで攻撃することによって相手の防御力を無視して切り殺せるようになってました」


「壊れた今となっては今更だな。持ち主だったウルヴも結局その効果は使えてなかったしなあ」


「あれってウルヴさんが使ってたんですね……」


「ああ、仕方なく使ってるっていってたよ」


「あー、あの人は二刀流じゃないですからね。普段はロングソードを使ってましたよ。もしロングソードを使われてたら普通に負けてましたよ勇者さん」


「勝ったのは奇跡だったのか……。まあ今更だな」


 もし魔王が暴れだしたら止められるやつはいないからあの武器を使わされたのだろう。まあ戦ったのが俺で残念だったなウルヴ。地獄で悔やむがいい。


「それで話は戻すが武器はどうするんだ? まさか肉弾戦で行くとか言わないよな?」


「当然のように私に武器を求めないでくださいよ……まあありますよ剣なら。ちょっと持ってきますね」


 奥の部屋に言ったと思うとガチャガチャと部屋の中を漁る音がし、数分後埃にかぶった“エクスカリバー”を手にした魔法使いが乱暴にそれを投げて渡してきた。


「こんなこともあろうかとこっそり奪っておきました。まあ邪魔だったんでてきとーに部屋にぶん投げてたんですが見つかってよかったですよ」


「伝説の聖剣をお前って奴は……」


「まあまあ、これで勇者さんは装備完璧じゃないですか。でもどうしようかな、私の杖誰かさんに壊されたんでないし、それにランクの高い杖なんてここじゃ売ってな……そうだ、勇者さん、そのエクスカリバーちょっと貸してください」


「ん? 別にいいけど……」

 

若干嫌な予感はするが、魔法使いを信じよう。傷をつけないように丁寧に魔法使いに渡した。


「よし……えいっ!」


 左手で剣を持ち右手を刀身にあてがい詠唱を初めた。一瞬閃光のように輝いた後、一振りの杖と剣が出来ていた。


「これでよしと……変化魔法でエクスカリバーを杖と剣に分けました、これでお互いランクの高い装備で戦えますね! 万事OKです!」


 真っ白な杖をもちニッコリ笑う魔法使い。エクスカリバーを踏襲するかのような装飾で銀白色に輝いている。なるほど、これなら戦える。


「さて、エクスカリバーの方は渡しますね。よし! 準備は整いました、それじゃ魔王を奪いに行きましょう勇者さん! 私達の手で敵を倒してやりましょうよ!」


 確かに準備は整った。俺らの手にはエクスカリバーとエクスカリバーからできた杖がある、負ける気はしない。ただ一点だけツッコミをいれよう、いや入れなければならない。


「俺のエクスカリバー見ろよ。おい。これいじめだよね? 完全にサイズが“ナイフ”なんだけど? というかサイズというより姿形がナイフなんだけどなにこれいじめ?」


「ああそれですか。私の杖にだいぶ材料を使いましたからね、しょうがないですよ、元気だしてください」


「いや、おかしい。材料の九割お前の杖じゃねえか! 割合考えろよ割合を! 俺どうやって戦うんだよ」


「闇に紛れ、後ろから首を掻っ捌けばいいんじゃないですか?」


「職業ちげえ! 勇者からアサシンになるじゃねえか」


「元々アサシンみたいなものじゃないですか。大体奇襲でしか勝ってないでしょ勇者さん」


「いやそうだけど……最終決戦で奇襲する勇者いる? というかできるか!」


「大丈夫ですよ、召喚陣でバレないように侵入、相手の首を切り、私の召喚陣で再び別の場所に再召喚して殺していきましょう。これなら敵と戦う手間も省けますよ」


「合理的すぎるわ。俺勇者なんだけど? この戦法でいいの? ねえ?」


「私は正面から行ってもいいですよ。多分勇者さんボッコボコにされますけど」


「いやそうだけど……いやそうなんだけど……」


「考えても見てくださいよ、二人でどうやってあの人数と戦うんですか。奇襲しかないでしょ、頭使ってくださいよ」


「そうだろうけど……いやまあいいかこれで……もうアサシンと呼ばれようと魔王が帰ってくればなんでもいいわ」


「それじゃ行きますよ勇者さん、覚悟はできましたか?」


「おう、もう勇者をやめる覚悟はできたよ。じゃ行くぞ」


 魔法使いが杖の先で床に召喚陣を描き出す。六芒星が出来上がり、魔法使いが杖の先で床を叩くと七色に光りだし、気づくと俺たちは別の場所に召喚されていた。


「さて、これで侵入でk……あっ」


 目と目が合う。見つめ合う。魔法使いとじゃない、敵とだ。


「おっ、お前たち……いったいどこか――


 条件反射で後ろに回り込み喉元をエクスカリバー(ナイフ)で掻き切る。断末魔もなしに兵士は事切れていった。


「ひゅー、さすがアサシン! 慣れてますね!」


「はやしたてんな、というか普通に敵いたけど……。お前もうちょっと安全な所に召喚してくれよ」


「一番安全だと思ったんですけどね。まあ確認できないのでしょうがないですよ。さて……ここは武器庫ですね」


 見渡すと軍で使用している槍や剣、大砲に爆弾まである。


「うーん、まあざっと見てもランクが高い武器はねえな。使えると思ったんだけどなあ」


「まあ質より量ですよ。ランクが高くても使える人がいなければ無駄ですからね」


「まあなあ……」


「勇者さんふと思ったんですけど……」


「ん? どうした?」


 嫌な予感しかしない。そしてそれは多分当たる。


「私達が召喚陣で奇襲するより、召喚陣にこの爆弾をぶん投げればすべてが終わるんじゃないですか?」


「鬼かてめえは。もう勇者一行というより大量殺人者一行だよね?」


「まあさっきみたいなリスクがあるよりこっちのほうが良いでしょ。それに大量殺人は今に始まったことじゃないです、皆殺しにしましょ!」


「魔法使いのセリフじゃねえなこれ。なんだこのパーティ」


「じゃ勇者さんは入り口見張っててください、私は魔法陣を書いていくので」


「聞いちゃいねえ」


 小一時間立つと、床にはびっしりと召喚陣が配置されていた。


「さてと、これで準備はできました、いざ開戦と行きましょうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る