第31話 魔法使いの隠れ家

「そうか……ここが……」


 窓の外に視線を向けると、まるで天を衝くかのようにそびえ立つ建物が目に入る。国王の住む巨大な宮殿、それを取り囲むように建物が並び立っっている。あの建物にアスティが……。


「早くアスティを助けないと……こうしちゃいられない、ひとまずここを出て……つっ……」


 全身から刺すような痛みがする。戦闘中は興奮で忘れていたが、魔法使いとの戦いで俺の体はボロボロになっていた。


「勇者さん左手やばくないですか? 出血多量で死にますよ?」


「誰にやられたと思ってんだよ……。なんで勝った俺の方が重症なんだ……」


「特攻みたいな戦い方するからでしょ……。ちょっと待って下さい、今治しますから」


 そう言うと魔法使いが奥の部屋に入っていった。少しして出てきた彼女の手には新しい杖が握られていた。予備の杖なのだろう、俺が壊した杖とは違う簡素な杖だった。


「そんな杖で大丈夫なのか?」


 思わず口に出してしまった。


「どうでしょうね。さすがにその左腕はすぐには治せないと……いや、治せないこともないですけど……。まあいっか、勇者さんだし……えいっ」


「おい、どういう……え?」


 気がつくと体から痛みが消え、骨だけ残していた左腕は完全に治っていた。いや……治るというレベルじゃない、普通の回復魔法であればこんな素早く回復ができるはずがない。僧侶の回復魔法ですら数日はかかるだろうこの怪我だ、魔法使い使える中級魔法なら十日はかかるはずななのに……。


「これは回復魔法なのか? いや……まさかお前……」


「まあお察しの通り禁術ですね。勇者さんに教えた偽低級魔法と同じ括りの術です。つまりは……まあちょこっと勇者さんの寿命を拝借して回復に当てたと言うわけです。てへっ」


「おいちょっと待て。勝手に俺の寿命を使うな、俺の命を何だと思って……」


「大丈夫ですよ、あと数日の命は残ってます」


「使いすぎだろ! この怪我だけで俺の寿命何年使ってんだよ!」


「まあ五十年くらいですね」


「代償大きすぎない? まあいっかで済ませられるレベルじゃねえぞこれ! 普通に回復したほうがましだったよ!」


「時間かかりますし、私の魔力がもったいないのでそれはちょっと……」


「なんぼほど俺の命を安く見積もってんだてめえは!」


「まあ大丈夫ですよ勇者さん。私もあと少しの命なのでとんとんです。一緒に死にましょうよ勇者さん。勇者さんなら一緒に死んでくれますよね?」


「怖いんだけど。まさかそれが理由でこの術を使ったんじゃないだろうな……」


「かもがネギを背負ってたようなもんでしたね。今しかないと思いましたよ」


「ちょっと冷静になろう。お願いだから戻してくれ俺の寿命を。もう左腕失ったままでいいから寿命返してくれ」


「可逆性の術と不可逆性の術がありまして……すいませんこの術は後者です、あはは」


「あははじゃねえよ。なんだこのパーティ、何もしなくても数日後には崩壊するじゃねえか」


「あはは、まあ正確にいうと勇者さんは私より早く死にますね。つまり私を夢を阻むものはいなくなる。魔王さえ手に入れば私は生きれる、家族も……さあ、はやく魔王を出してください、どこに匿ってるんですか!」


「てめえ……! それが狙いだったのか……」


「油断するのが悪いんじゃないですかぁ? 裏切りは慣れましたからね。さあ、さっさと白状してください!」


「ははははは、残念だったな。俺が油断している内に魔王は奪われたよ。元俺たちのパーティの呪術師にな」


「はあ!? 奪われた!? 呪術師に!? 何やってんですか勇者さん! それでも私を倒した男ですか!!」


「誰かさんとの戦闘で消耗してたししょうがないだろ。ざまあねえな!!」


「いやあんたも肝心の魔王を奪われてるじゃないですか!! 何が俺はあいつを守るだよ!! かっこよく私に言ったと思ったらこの体たらく、死んでくださいよ!!」


「だから奪いに行くんじゃねえか。今から俺はあいつを奪い返しにあそこに乗り込む。でだ、魔法使い。何度も裏切られたてめえに言うのも何だが、一旦休戦してあいつを助けに行かないか?」


「はあ? 私になんの得が……」


「俺が魔王を助けられたらお前が魔王を奪えばいい。その時は俺がなんとしてでも阻止するがな。win-winだろ?」


「言ってる意味が分からないです。奪ってほしいのか奪われたくないのか……どっちなんですかあなたは……」


「そりゃ奪われたくはないさ。だけどまあ希望がないままお前が死んでいくのが気に食わん、それだけだ」


「魔王の命を賭けるわけですか。最悪ですねあなたは」


「魔王の命だけじゃないさ、お前と俺と魔王。三人の命を賭ける。俺とお前は魔王を賭けて戦う、俺が勝てば魔王は生きる。お前が勝てば魔王の心臓を手に入れられる、ただし魔王に勝てばな」


「私が魔王に勝てないとでも言うんですか……?」


「いや分からん。勝つ時は勝つんじゃないか?」


「てきとーですね。相変わらず勇者さんはアホです」


「ははっ、褒め言葉として受け取っておくよ。じゃこれで条件は整った。仲間になってくれるか?」


「あくまでも一時的にですけどね。まあ、すべてが終わったら裏切りますが、よろしくおねがいしますよ勇者さん」


「ああ、全てが終わったら命を賭けてぶっ倒してやるよ魔法使い」


 すべては整った。今助けに行くからな。

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