第28話 VSフレイン=リフレリア①

「なるほど……だからあいつは俺を裏切ったのか……」


 家族を生き返らせるため。一人取り残されたあいつは他人がいくら死のうとも自分の夢を選んだ。例えそれが俺を裏切る形になろうとも。


「だから私は捕らえられたんでしょうか……? 魔法使いさんの狂気のために……」


「いや……どうだろうな……文章から察するに国も魔王を狙っていたようだ」


「国に出し抜かれたのかもしれませんね魔法使いさんは。もしかしたら離反することを事前に察知されていたのかもしれません。偽の魔王を掴まされた魔法使いさんはそれで仕方なく場を混乱させるために勇者さんを犯罪者にしたのかもしれません。いずれにせよ国と魔法使いさん、どちらも味方ではありませんね」


「これで大体の事情は分かった。国の計画、魔法使いの目的、両方アスティの心臓だ。アスティ、お前には選択肢が二つある。いや俺らにか。まず国と魔法使いを倒し脅威を排除する。もう一つはあいつらの目的が分かった以上、このまま逃げ続ける。例え俺らがあいつらを倒した所でメリットはない、いずれにせよ犯罪者として追われるだろう」


 魔族側が裏切ったかどうか日記からは読み取れないが十中八九黒だ、自信の命が狙われている状況であいつらの所にこちらから出向いた所でアスティにはデメリットしかない。


「魔法使いさんは可哀想だとは思います……。だけど……私も自分の命が大切なんです。帰る所はもうないですけど……モルさんと僧侶さんがいれば私はもう十分です! 逃げましょう……!」


「了解、アスティの命がかかってるんだ、俺らに選択肢はないし尊重するよその意見を。僧侶、お前はどうする? この件で追われてるのはアスティと犯罪者になった俺だけ、お前は違う。追われる立場より俺たちと分かれて静かに暮らしたほうが良いんじゃないか?」


「着いていきますよ。というより一人でいたらあなた達の居場所を吐かせるために掴まりそうなので。それに襲われた時回復役は必要でしょう?」


「そうか、ありがとうな僧侶。初めてお前に感謝してるよ」


「いや私のおかげで何回命が助かってると……まあ今は怒ってる場合じゃないですね、とりあえずここから逃げましょう。この国にいればいずれ捕まってしまいます、とりあえず隣の国に避難してそこから何をするか考えましょうか」


「そうだな、そうしよう。とりあえず女、こっちを向け」


「え? はい、なんでしょ――


 フランベルジュの柄で鳩尾をつくと女の意識が一瞬で消えていった。


「ええ……モルさん鬼ですか……? せっかくここまで案内してくれたのに……」


「まあいても邪魔なだけだからな」


「他人に容赦ないですよね勇者さんって……まあこれでお荷物はいなくなりましたし、早速脱出を…………え…………?」


 僧侶は机のある方向を見て困惑の表情をしていた。


「おい僧侶、何があ――


「きゃあああああああああああ」


 アスティの悲鳴。なんだ、何が起こっている!?


「アスティ! 何があった! 大丈夫か! おい、アスティ!」


 何が起こったか全く分からない。僧侶はまだ机の方向をみて唖然としているし、アスティは虚ろな目で床を見つめている。


「おい、僧侶! 何が起こってる!」


「勇者さん! 日記に……魔法陣が!」


「魔法陣!? な、なんだこれは……何の魔法陣なんだ僧侶!」


「分かりません……! あ、勇者さん、消えました! 魔法陣が消えました!」


「消えた!? 不発か!? 何かの罠だったのか!? 一体何が……かはっ……!」


「え? ちょっと……魔王さん何をしてるんですか! なんで……勇者さんを刺してるんですか!!」


「アスティ、お前……どうして……!? おい、アスティ!」


「…………」


 俺の呼びかけに反応しない、というよりいつもとは様子が違って……。


「勇者さん! 今回復しますか……きゃあああああああ」

 

「僧侶……! おい……! 大丈夫か! くそっ、何が起こってるんだよ!!」


 倒れる僧侶、俺に攻撃するアスティ。何も分からない、何が……。


「くそっ、アスティすまん!」


 アスティの鳩尾に向けて拳を入れて距離を置く。アスティは何も言わずその場に崩れていった。


「つっ……血が……血が止まらん……おい! 誰かいやがるのか! 出てこい糞野郎が!」


「あはっ、勇者さんお久しぶりですね☆ どうしたんですかそのお腹、血が出ちゃってますけど大丈夫ですか? あははははは」


 声のした方向を見る。華奢な体に青いローブを身に包み笑っていた。風もないのに銀髪がゆらゆらと揺れている。


「魔法使い……てめえの仕業か! なんでここにいるんだよてめえは!」


 何が面白いのか口角を上げ薄汚く笑っている。


「あははははははは、なんですかぁ勇者さん。久しぶりに会えたってのにひどい言い草ですね、私傷ついちゃいますよぉ……あれ? そこにいるのは僧侶さんと魔王じゃないですかぁ、なんで倒れてるんでしょう不思議ですねぇ」


「ふざけんなよ、てめえがやったんだろ……! なんでお前がここにいるんだ、言え!」

 

「あはっ、そうでしたっけ? そうかもしれませんね。私がやったんでした♪ でも勇者さんが悪いんですよぉ、私の日記を勝手に見るからいけないんです」


「日記……なんでお前がそれを知ってるんだ……最初からここにいたのか……?」


「あー、勇者さんも僧侶さんも頭が悪いんで分からなかったんですね。もう、しょうがないですね、私が解説してあげますよ、感謝してくださいね? 単純なことですけど私の日記には細工がしてあってもし誰かが読んでしまった場合察知できるようにしてあるんですよぉ。でついでに召喚の魔法陣を書いていたので私自身を召喚してここまで来たわけですね、わかりましたか? 中卒の勇者さんでも分かるように解説したんですから理解してくださいね?」


「なるほどな、そういうわけだったのか。こんなことなら日記自体に罠はずししとくんだったよ。で、たまたま魔王がいたから奪いにかかったというわけだな?」


「そんなわけないじゃないですか、頭の悪さは変わってないですね勇者さん。魔王さんと一緒にいるのは分かってましたよ、勇者さんには監視の魔法をつけてましたから。まあ途中で壊されてしまいましたけどね」


 監視の魔法……? 途中で壊された……。ああ、なるほど……納得がいった。罠はずしを自分に使ったときのあれはこいつの魔法を破壊していたからか。


「脱獄するのもお見通しだったってわけか? じゃあ森で俺が死にそうな時助けたのもお前か? 俺の服にお前の髪の毛がついてたからな。だとしたらなんでだ? あそこで魔王を奪っておけばよかっただろ?」


「んー、それに関しては全く見に覚えがないですねえ。そんなことがあったんですか? 監視魔法が解けていたのでそこまでは知りませんでしたよ。髪の毛は監視魔法の触媒として使っていたので、破壊されたときに付いただけだと思いますが」


 俺を助けてくれたのは別の人だったのか……? いや、今はそれどころじゃねえ。


「お前、俺が魔王とここに来るのを知っているのか? 俺を監視できていなかったんだろ?」


「あー、まあそうなんですが、実は僧侶さんにもつけてましたから。僧侶さんと出会ってからの行動はすべてお見通しですよ。だからこうやって準備をして待っていたんじゃないですか」


「さっきアスティが刺して来たのはてめえの魔法か。くだらねえことしやがって、来いよフレイン。アスティは渡さねえ、例え刺し違えてでも阻止してやる……!」


「あはははははははははははははは」


 突然堰が切れたように笑いだした。


「何がおかしい!」


「あはは、何ですか勇者さん。一言目にはアスティアスティ、そんなに魔王のことが大事なんですか? なんで? なんで魔王のこと庇うんですか? なんで…………なんで! 私の事は助けてくれないのに? ずっと一緒にいた私の命も夢も無視してつい最近会っただけの魔王は助けるの? なんで? なんで? 私も魔王の心臓がないと死んじゃうんだよ? 魔王の心臓がないとひとりぼっちなんだよ? それなのに……なんで勇者さんは私を助けてくれないんですか!!」


「それは……」


「それは? 何ですか? 今更いいわけですか? 日記を読んだんでしょう? ……私の境遇は知ってしまったのに、それでも魔王の命のほうが大事なんですか!! なんでなんでなんでなんで……何で私を誰も助けてくれないの! お姉ちゃんも、お父さんも、お母さんも誰も……誰も助けてくれない……。私一人でなんとかしようと頑張ったのに……勇者さんも僧侶さんも……私の命なんてどうでもよくて……私を置いて逃げるなんて言い出して……。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!! 私を救ってよ! 私を助けてよ!! ねえ!!」


 そうだ、こいつは一人ぼっちで……一人で生きてきて……助けてくれるやつは誰もいなくて……それで……俺に救いを求めていたんだ。それに気づかなかった俺は馬鹿だ。俺は魔法使いを助けてやりたい、でも――


「俺はお前は救わない、助けない。別にお前が他人を殺そうと、他人の命を犠牲にしようと責める気はない。自分の命より大切なものはないからな。魔王だって所詮他人だ、守る必要なんてない。そう思ってたはずなんだがなあ……俺も何でか分からねえけど……惹かれちまったんだ」


「そうなんだ、勇者さんはやっぱり私の命よりその子を選ぶんだ……なんで……なんで……」


「俺だってお前を助けたい。でもアスティの命を犠牲にして助けるなんてできない、あいつは自分を犠牲にするのを拒否したんだ。だから俺はお前を止める。俺が勝てばアスティは生きる、お前が勝てばお前が生きる。単純だ」


「もういい、もういい、もういいですよ!! 勇者さん死んでください、私は死にたくないんです。私はもうひとりは嫌なんです。だから死んでください。死んじゃえ……死んじゃえ! 私を助けてくれない勇者さんなんて……死んじゃえ!」


「ははっ、最後の闘いだ、楽しくやろうぜフレイン」


「っ……死んじゃえ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る