第29話 VSフレイン=リフレリア②

「フレイン、一つだけ頼みがあるんだ。ここで戦闘したらアスティと僧侶に危害が加わる。場所を変えさせてくれないか?」


「はあ? なんで私が勇者さんの頼みを聞かなきゃいけないんですかぁ? どうせ殺すんだからちょうどいいでしょう?」


 彼女たちを見るフレインの目には侮蔑と冷笑が込められていた。


「やっぱりだめか……ならせめて俺の傷を治してくれないか? さすがにこの傷じゃ四大魔法が使えるお前に勝てる未来が見えねえよ」


「なんで私があなたの手助けをしなきゃいけないんですか? 大丈夫ですよすぐに殺してあげますから、じゃさっそく殺してあげますね」


「ちょっとまってくれ! あと一つだけ! 一つだけ頼みがあるんだ! 些細なことなんだが聞いてくれるだけでいい!」


「なんですかもう……めんどくさいですね、何ですか? 死ぬ前の遺言なら聞いてあげてもいいですよ?」


「ありがとう魔法使い。てめえは本当にお人好しだな……!」


「なっ……!」


 フレインの真上に低級魔法を打ち込むと天井の一部が崩れ降り注ぎ、粉塵が彼女を覆い隠した。


「ひ、卑怯ですよ不意打ちなんて……!! 最初からこうするつもりだったんですね! 信じてたのに……また裏切って……!!」


「殺し合いなんだろ? 卑怯だなんだって平和ボケでもしてんのか?」


「もう許しませんよ……殺してやる……惨めに……無残に……惨殺してやる……。出てこい! 姿を見せろよ臆病者!」


 防御魔法を使ったのか、粉塵から僅かに魔法陣の光が漏れ出している。絶対に攻撃は通らない、もし魔剣を使ったとしてもやすやすとは突破できないだろう。フレイン自身には。


「えらく早い決着だったな。まあ戦闘経験の差って奴だ。警戒心もない上に術に頼りすぎだお前は」


「はい? なるほど、馬鹿だから勇者さんはわからないんですね。この四極防御陣にダメージが通るとでも思ってるんですか? あははっ、やっぱり中卒は頭の回転が鈍いんですね♪」


「そんな性格だから足元をすくわれるんだよ」


 意識を集中し魔法陣による防御域ぎりぎりの所の床に低級魔法を最大出力で打ち込んだ。するとバゴンッという音の後ミシミシと音を立て魔法使いの周辺の床が崩壊していく。


「え? ちょっ……きゃああああああああああ」


 崩れる床に巻き込まれ悲鳴とともに彼女は下へと落ちていった。魔法陣が壊されたのが想定外だったのか反応が遅れ、下の部屋の床無防備に叩きつけらていた。


「いった……。くっ……この程度で誰が殺られるものか……。もういい……この建物諸共ぶち殺してあげる……」


 部屋を覆うほどの魔法陣が展開される。六芒星に炎の紋様、以前憲兵も使っていた第一級炎魔法。それを一人の魔力で詠唱できるくらいだ、最強の魔法使いと言われても過言じゃない。ただしこいつは最強の魔法が使える魔法使いであって“最強”の魔法使いとは違う、戦う者として三流以下だ。


「剣士を前にそんなもの使ってる余裕があると思うなよ!」


 床に開いた穴から飛び降り、下にいる魔法使いに向けフランベルジュを思い切り振り抜く。


「きゃああああああ」


 直撃は凌いではいたが咄嗟に構えた杖が衝撃で後方に吹き飛んでいく。


「痛い……杖はどこ……? 杖は……? あ、あった!」


 俺に奪われないよう死に物狂いで杖を取りに行く彼女の姿は大魔法使いとは呼べるものではなくなっていた。


「魔法使い、もう分かっただろ? お前が俺に勝つのは無理だ。いくら強い魔法が使えようともそもそも戦いに向いてないんだよお前」


「あはは、私が勝つのが無理? この私が? そんなことあるはずない、あるはずない! 詠唱魔法が悪手なのは分かりました、もう勇者さんは私に傷一つつけることは出来ないですよ?」


 言うやいなや彼女の杖が《ブロードソード》に変化する。刀身は赤く光り、剣の周囲は赤黒い風が巻き付いている。


「形態変化+炎と風の二重詠唱か。随分と物騒じゃねえか、そんなもん当たったら死ぬぞ俺」


「あははははははは! 馬鹿でも分かりますよね私の魔法の凄さが! そんな低級の剣程度じゃ防げませんよ、消し炭になれ!!」


 十数メートル先で振られた剣から斬撃と炎が周囲を切り刻み、燃やしていく。魔剣と性質が似ていたため斬撃は予測して回避することは出来たが、炎が全身を覆い燃やされていく。


「ふふっ、あはははははは! あれだけ言ってたのになんですかその様は! 最初から言ったじゃないですか、私に勝てるはずがないって! 私に勝てるやつなんてこの世にいないんですよ、あはははははははははははははは……はっ?」


「よお、偉いご機嫌だな。まさか俺が死んだとでも思ったのか?」


 魔法使いの顔は明らかに動揺、いや驚愕していた。


「なんで動いて……例え生きていたとしても激痛で体が動かない、動けないはずなのに……なんで!」


「なあに、職業上の理由で魔法使いに焼かれるのには慣れてるだけだよ」


「くっ……なら直接斬り殺してやる……! 死んじゃええええ!」


 切り込まれるブロードソード。当たれば怖いが剣ってのは横の攻撃に弱い、フランベルジュを横から当て軌道を変え――


 あまりにも想定外だった。剣に当たる前にバターのように剣が溶けていく。


「あははははははははははははははははは」


 勝利の確信からか魔法使いが邪悪な笑いを撒き散らす。くそっ、死ぬ、当たれば死ぬ。こうなったらこれしか――


「いけえええええええ!!」


 再びブロードソードの刀身に向け低級魔法を打ち込む。元々は衝撃はを打ち込む禁術だ、これで軌道が逸れてくれ…………クソっなんで効かねえんだ! 魔力でかき消されたのか……? それとも生命力が足りなかったか……!


 死ぬ。確実に死ぬ。だめだ、ここで死ぬわけにはいかない。ここで死んだらアスティも死ぬ。だから俺は死ねない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 眼前に迫りくる剣に真正面から左手で殴りにかかる。


「最後の最後がそれですか! もう死ぬんですよ勇者さんは! あはははははははは」


皮膚が燃え、剥がれ落ちていく。肉と血が蒸発していく。肘から上は見るも無残だ、骨しか残ってない。こんどこそ……効いてくれ……!


コード入力『NHYRFGRRT』 


《罠はずし》


「うおおおおおおおおおおおおおおお」


 パキッ……ミシミシ……パリーン……。


左手を犠牲にし、ブロードソードが音を立て崩れ落ちる。


「なっ……そんな……馬鹿な!! こんなことあるはず……!!」


「これで終わりだああああ!」


 無防備な体に右手による一撃。魔法使いの体が吹き飛びドゴンという音と共に壁に激突し沈黙した。


 決着。剣士対魔法使いの戦いは素手によって幕を降ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る