第21話 魔都シュッツァガート

 魔法使いの聖地 《魔都シュッツァガート》。レンガ造りの建物が街の中心に向け規則的に並び、真上から見ると水車のように見えることから別名『Water Wheel Town』と呼ばれている。建物同士が隣り合うことで直線上のラインを作っており、八つの建物のラインとその間にできる八つの通りがこの街の特徴である。八つの通りにはそれぞれ固有の名前がついており、例えば武器や魔道具を扱う通りは《Weapon Street》、服などを扱う通りは《clothes Street》のように呼ばれている。


 街の中心部にはこの街で一番高い石造りの赤い建物、魔法使いが通っていた聖セントリア魔法大学がある。この街の学校はこの大学一つだけであり、その性質上字も書けない子供から魔法を開発している研究者まで在籍している。これだけであればよくある大学校なのだが通っている者すべてが魔法使いであり、そのため街に住む人の殆どがトンガリ帽子にローブを着ていた。つまりこの街にいるのは商人や奴隷等の例外を除き魔法使いだけなのである。これが魔法使いの聖地と呼ばれる所以だ。


 その魔法使いの聖地の一角、飲食店が立ち並ぶ通り《Restaurant Street》で勇者一行は歩みを止めていた。


「ここが例の街か。なんというか……異世界に迷い込んじまったって感じだな」


「見てくださいモルさん、どこを見てもローブだらけですよ! なんだか気が変になりそうですね!」


「まあ私達も人のことは言えないですけどね。でもこれなら浮くこともないでしょう。追手に見つかる可能性もだいぶ低くなったと思いますよ」


 街にはいる前に俺たちは僧侶が持ってきていた服に着替えていた。僧侶はいつもの緑のローブよりも黒に近い深緑のローブに身を包み、手には黒い水晶が頭に付いてある金属の杖が握られている。


 アスティはと言うと黒いトンガリ帽子に黒いローブを着ており、その所々にアクセントとして赤い線が入っていた。最初は黒一色だったのだが「この服全然かわいくないです! 作り直してください!」と宣いやがったので僧侶がてきとーに赤い糸で刺繍してあげたものだ。存外気に入っているらしく、くるりと一回転してこちらにドヤ顔を見せてくる。かわいい、かわいいが若干腹が立つ。


 そしてかくいう俺はと言うと……。


「おい、なんで俺だけこんな格好なんだよ! まるで奴隷じゃねえか!!」


 所々穴が開いている粗末な布を申し訳程度に人が着れるようにした服とはよべない物を着せられていた。いじめか? いじめなのか? 俺だってお前らみたいなローブを着たっていいんじゃないのか……。

 

「まあ勇者さんは魔法が使えないですからね、いつボロがでるか分かりせん。それに男の魔法使いって珍しいんですよ。周りをよく見てください、この街にいる魔法使いのほとんどが女性でしょう?」


 確かに街を歩いている人の大半は女性、しかもほとんどの奴が若く俺らと同じくらいに思えた。男も多少はいるがその殆どが商人や飲食店の給仕などであり、俺が確認できる範囲では男の魔法使いは一人もいなかった。


「でもだからと言ってこれはさすがになあ……商人の方がまだましだったよ……」


 鼻歌を歌い上機嫌のアスティが俺のこの悲惨な状況にようやく気づいたようで驚いたような顔をしていた。どんだけ自分の服に夢中だったんだこいつは。


「わー……すごい格好ですね勇者さん……勇者さんの私服ってそんな感じなんですか? さすがにこれはちょっと……」


「話聞いてなかったのかボケが。誰が好き好んでこんな格好するか」


「部下から聞いたことがあるんですが、人間界の若い子の間でダメージの入った服を着るのがかっこいいっていう風潮があるらしいですね。モルさんもまさかそれで……」


「耳腐ってんのかお前は。こんな斬新なダメージ加工あるわけねえだろ、人間界にどんなイメージ持ってんだ」


「まあ動きやすそうですしいいんじゃないですかそれはそれで。理にかなっていると思いますよ」


 合理的を通し越してもはや軽い暴力となっている。一人で暮らしているから常識ってもんを身に着けてないんじゃないのかこいつ……。


「確かに動きやすい、それは認める。だがデメリットが多すぎる。今からでもいいから違う服にしてくれないかこれ」


「デメリットですか? 別にこれと言ってないとは思いますが……動きやすいですし、それに涼しいでしょう? ローブって熱がこもるんでうっとうしいんですよ案外」


「だったら俺の服と交換してくれよ。デメリットないんだろ?」


「なんで私がそんな乞食みたいな格好をしなきゃならないんですか。勇者さん私に恨みでもあるんですか? 確かに今まで散々ひどいことをしてきましたがだからといってそんな仕打ちひどすぎると思いませんか?」


「よしアスティ、ちょっと剣になれ。今からこいつをぶっ殺すから」


「ゆ、勇者さん目が怖いですよ。本気じゃないですか……」


「ふふっ、冗談ですよ勇者さん。そんなに怒らないでくださいよ。代わりの服ならありますからこれを着て機嫌を直してください」


 そう言うと僧侶が鞄から新しい服を取り出し渡してくる。あるなら最初からそれにしてくれよ……。


「こ、これをくれたからと言ってお前を許したわけじゃないからな! 勘違いすんじゃねえぞ!」


「いや、誰もそういうセリフと展開は求めていないので早く着てきてください。ほら、あそこの路地裏ならちょうどいいですよ」


「別に俺も求めてねえよ! 絶対覗くなよ! 絶対だからな! 振りじゃないからな!」


「いや全く興味がないです、というかむしろいくらお金を積まれようとも見たくないですから。いいから早く着替えてきてくださいよめんどくさい……」


「勇者さんやっと行きましたね。ちなみにどんな服なんですか? その服って」


「ふふっ、見てからのお楽しみですよ魔王さん。気に入ってくれるといいんですけどね」

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