第5話 罠はずし
魔王が仲間になったとはいえ状況が変わったとは言いがたい。だが一人でやるよりはましだ、やれることはいくつでもある。
「アスティ、反魔族刻印があるって言ってたが、それがあるとお前の術って全部使えなくなるのか?」
「そうですね……さっきから何度か試しているのですが低級魔法ですら使えないようです……」
「なるほど……」
反魔術刻印の前じゃ魔王でさえただのか弱い女だ。足手まといとまでは言わないが正直に言えば戦力にもならない。俺が言えたことではないのだろうが。
「檻を破壊してみてはどうですか? 魔王(?)を倒した勇者様なら余裕でしょう?」
「いや、さっき錠を壊すために思い切りぶつけたんだが、錠も檻もびくともしなかった。まあそんなことで壊れるならここにいれはしないだろう」
「それもそうですね……」
為す術無しってところか。魔王がいれば脱獄なんて簡単だと思ったが世の中そんなに甘くないらしい。
「結局また八方塞がりに戻っちまったな」
「ですね……参考程度に聞きたいのですが、ここに他の方は来ないのですか?」
「誰も来やしねえよ、ずっとこのままだ。給仕係ならいつか来るかもしれんがな」
「なるほど、では給仕係を買収するのはどうですか? 私なら庶民一人をたぶらかすには多すぎるほどの富がありますよ!」
庶民ってお前は王様にでもなったつもりか……。いや、魔界の王だったなこいつ。今は犯罪者だが。
「いや、確実ではないなあ……。そもそも給仕されるのかも分からない上に、いつ執行されるかも分からない。一年後かもしれないし今日かもしれない。悠長にやってる時間はねえよ」
「まあ普通なら手続きあるので二、三ヶ月くらい時間はありますけどね」
「普通じゃないからな」
「普通ではないですね……」
気まずい沈黙が二人に流れる。さすがにここまで絶望的な状況だとは思わなかった。いくら意見をだそうが、犯罪者二人では活路を見出すことはできないようだ。
すると突然アスティが顔を上げた、何かを思いついたらしい。
「反魔族刻印があるので私は魔法が使えませんが、モルさんなら魔法使えるんじゃないですか!?」
嬉しそうに新発見を発表する魔王。
「いや確かに使えるけど俺が使えるのは低級魔法だけだし、それに使えるのは一つだけだ。それも試して失敗したがな……」
「そうですか……。低級魔法しか使えないんですね……。よくそれで魔王を倒しましたね……」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、独り言ですよ」
一言一句全部聞こえていたがスルーしておこう。こいつにツッコんでいる余裕はない。
「じゃあれはどうですか? 罠はずしですよ。あれが使えればどんな場所でも不法侵入できますよ!」
こいつ死刑になる前から犯罪者だったんじゃないのか……。
「罠はずしか……前に魔法使いに教えてもらったが多分使えんぞ。いや絶対に使えない、断言する」
「なぜですか? モルさんの力量が足りないんですかね? 確かにそれは否めないですね……」
俺の何が分かるってんだよこの女は……。
「いやちげえよ、はっ倒すぞ犯罪者」
「あなたも犯罪者ですよー」
何が楽しいんだか、陽気な声で彼女は言った。
「犯罪者は犯罪者でもそっちは大量殺人じゃねえか。格がちげえよ」
「う……それを言われると……」
口ごもった。これはチャンスだ。
「ノリノリで部下ごと消し飛ばすってお前……魔王というより悪魔じゃねえのか?」
「…………」
「いやさすがに悪魔もドン引きだろう。さすがに悪魔といえど、そんな畜生以下のまねはできんぞ」
「………………」
「これは死刑になるべきだわ。部下も優秀なもんだな、大戦犯をこの世から消すことに成功したんだからな」
「……………………ぅ……うわあああああああああん」
突然彼女は大声をだして泣き出した。やべえ、言い過ぎた。
「す、すまん! 言いすぎた! 本当にすまん! 俺も殺人したもんな、俺も悪魔だよ! 一緒だ一緒! ほんとすまん、元気出せ!」
我ながら支離滅裂なことを言ったと思った。まさか魔王がこんなに打たれ弱いとは思わなかった。精神のアビリティ低いんじゃないのか……。
「うぅ……」
「いや……ほんとごめんって……このとおりだ許してくれ」
人類の敵に土下座をする俺。何をしているんだろう。
「魔王に土下座する勇者ってちょっとおもしろいですね。絵画にして部屋にかざりたい衝動にかられます」
「嘘泣きじゃねえか」
「女の涙は武器ですよ♪」
この女は……。
「あなたのような童貞には効果抜群なんですよ♪ 勇者の言葉に直せば会心の一撃ってところですかね!」
「…………」
だめだ我慢できねえ。
「死ね……」
指先からでた低級魔法が魔王に炸裂する。
「いったああああああい! 何するんですか!? 何なんですか!? やり過ぎじゃないですか!? この糞童貞が!」
「ダメージねえからいいじゃねえか。さすが魔王だな、精神のアビリティは低くても防御力は高い」
「そんなこと言ってる場合ですか!? 前髪軽く焦げたんですよ!? どうしてくれるんですか、これじゃ嫁にも行けないじゃないですか!」
「大丈夫だ、髪なんてただの飾りだ。なあに、もし嫁の貰い手が見つからなかったら俺がもらってやるよ」
「ぜえええええったい嫌です! なんであなたなんかと生涯一緒にならなきゃいけないんですか!? むしろ障害と一緒ですよ!」
「うまいこと言ってんじゃねえよ。いやうまくねえよ、はっ倒すぞこのあま」
「私は信じてるんです、いつか白馬の王子さまがやってくると……」
「なんだその少女趣味は、んな考えだと行き遅れるぞ」
「それまで体を清くしていなきゃいけないんです……! それをあなたが傷物にして……」
「だから俺がもらってやるって。なんならその辺の馬をペンキで白に染めて迎えにいってやるよ」
「せめて白馬を調達してくださいよ! 何ですかその地味な嫌がらせは!」
「白馬高いんだよ。普通の馬なら数百頭買えるんだぞ! 給料三ヶ月分ってレベルじゃねえんだよ、前世と来世合わせて三世代分の給料だよ!」
「魔王に求婚するんですよ! それくらいの根性見せてくださいよ!」
「なんで命を狙ってる相手に求婚しなきゃいけねえんだよ! 俺が求めてるのは命だ、求魂だよむしろ」
「わかりました白馬は許します。でもプロポーズの言葉はロマンチックな物がいいです」
話が通じないのであった。
「プロポーズの言葉か……俺の一生を捧げるからお前の一生をくれ! ってのはどうだ?」
「三生くらいないと無理ですって。それにありきたりです」
存外評価が厳しい。
「じゃあ……。君を幸せにする約束はできない……だが君と結婚できたら俺は幸せなんだ! 結婚してくれ! はどうだ?」
「全くその通りなので特に何も思わないですね。あなたは幸せでしょうが私は不幸です」
「ぐっ……」
なぜかすごく悔しい。なんで俺が本当にプロポーズしてるみたいになってんだよ、そして振られるし……。
「モルさん真面目にやってくださいよ、脱獄はどうするんですか?」
「いやお前が言うなよ……ノリノリだったじゃねえか……」
自分を棚に上げて宣いやがってこの魔王様は……。
「話戻しますけど罠はずしが絶対に使えないってのはどんな理由なんですか?」
話が脱線しすぎて忘れていた、そういやそんな話だった。
「ああ、そもそも罠には固有のコードがあって、それによって手順が違ってくるんだよ。例えば宝箱に取ってしても数百のコードがあり、そのコードを知っていないと開けることはできないんだ」
まあ宝箱程度なら力づくで開けることもできるがな。
「そうだったんですか? ではこの檻や手足の錠にもあるんでしょうか?」
「そりゃあるさ。こういう人工物の場合作った奴がコードを設定するんだ。だからその作った奴しかコードは分からないし、解除もできないってわけだ」
「なるほど……そうだったんですね。ちなみにこの檻のコードって分かってたりしませんよね?」
「分かってたらとうの昔に外してるわ。俺が知ってるコードは魔法使いに教わったコードだけだよ」
勇者さんは頭が悪いので覚えようとするだけ無駄です! と言われ他は教えてもらえなかったからな……。
「例の裏切った魔法使いさんですね。その方から教わったコードって何のコードだったんですか?」
「魔法使いが持っていた薬箱のコードだよ。あいつが敵にやられて体が動かなくなった時に、コードだけ聞いて代わりに開けてやったのさ」
「ふむふむ……じゃあ関係ないですね……」
彼女から落胆の色が見える。
「ああ関係ないな。期待させちまって悪かった」
「いえいえ。ちなみに違うコードで解除を試したらどうなるんですか?」
「物によって違うが……まあ試してみたほうが早いな」
手の錠に向かって罠はずしを使った。
「ああ、この場合は無反応だな……たまに解除を失敗すると襲い掛かってくるもの
や、爆発するものがあって大変なんだ」
「案外めんどくさいものなんですね……万能なものはこの世にないってことです
か……」
悟ったようなことを……。
『ゴトン』
「ん?」
音のなった方向を見ると、なぜか手の錠が外れていた。
「へ? な、なんで外れたんですか……?」
「いや……俺にもわからない……たまたまってことは……ないだろうし……」
なんで魔法使いのコードで……錠が外せたんだ……?
「まあ……その魔法使いさんのコードが万能だったんでしょう! でもこれでとりあえず脱獄はできるんじゃないですか!」
「それもそうか……そうかもしれんな」
声ではそう言ったがどうも納得出来ない。
――魔法使い。あいつは一体何者なんだ?
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