第94話 初めてのドッグラン
◇
「ここがドッグランかー。イメージしていたよりも結構広いんだな」
「広々としていて気持ちがいいよねー」
「というか広すぎるような? 野球とサッカーを同時にできそうなくらい、広いんだけど。こんなに広々としてるんだな、ドッグランって」
ドッグランは大きな芝生の広場と、広場を取り囲むように配置された多数の遊具で構成されていたんだけれど。
俺はまずその広さに驚かされてしまった。
「たくさん利用者がいると、全部好きには使えないでしょ? 今日はガラガラだから、余計に広く見えちゃうんじゃないかな?」
「ああそっか、そうだよな。たくさん利用者がいたら、これでも広すぎるってことはないか。なにせ犬が元気に走り回るための施設なんだし」
俺はおおいに納得した。
「ねぇねぇ、せっかくだから記念撮影しようよ? 帰り際だとバタバタして忘れちゃうかもだし」
「せっかく来たんだもんな。記録に残すのは大事だよな」
春香の提案で、まずは記念の写真を撮ることにする。
俺がピースケを抱きあげ、春香は俺の腰に左手を回しながら、インカメラにしたスマホを持った右手を大きく伸ばす。
「何枚か続けて撮るね。いい映りのを厳選したいから」
「了解。ピースケ、ほら。俺の顔じゃなくて、あっちの春香が持ってるスマホを見るんだぞー」
くぅん?
俺が人差し指を、ピースケの眼前からスマホに向けてスイーっと移動させることで、ピースケの視線を誘導すると、
「ナイスこーへい。はい、チーズ!」
タイミングよくパシャリと撮影音が鳴って、スマホに俺と春香とピースケの一瞬が切り取られた。
春香は微妙に角度や距離を変えて、続けて10枚ほど撮影すると、スマホを持って伸ばしていた右手を引き寄せた。
「どれどれ……」
「ふむふむ……」
早速、撮ったばかりの写真を確認してみると、実にいい感じで2人と1匹が映っている。
なにより春香が可愛かった。
楽しそうで嬉しそうな、それはもうとびっきりの笑顔でフレームに収まっている。
いやー、俺の彼女って、超可愛いよなぁ。
おっとと、自分でわかるくらいに顔がにやけてしまっていた。
最近どうにも、バカップル脳になってしまっている気がする。
自覚があるうちはまだ引き返せるはずだから、注意しないとだな。
顔の締まりがないだらしない男子とか、春香に思われて幻滅されたくはないし。
「いい感じだな、上手く撮れてる」
俺は隙あらばバカップルしそうになる心に、自制という名の鈴をつけると、それでもついついニヤけてしまいそうになる顔を引き締めながら言った。
「小さな子供を連れた若い夫婦みたいかも? なんちゃって」
「お、おい、超絶恥ずかしいこと言うなよな」
しかしながら、ピースケを子供と見立てると、そう見えなくもなかった。
うん、実にいい写真だな。
「名付けて『初めてのドッグラン』」
「それはそのまんま過ぎるような?」
せっかくだし、もっとロマンティックな方がよくないか?
「あとでフォルダ分けする時に、わかりやすい方がいいからね」
「おぉぅ、思っていた以上に現実的な理由だった……」
「えっと? わたし何か変なこと言ったかな?」
そこに愛だの恋だのロマンだのを求めてしまったバカップル脳な俺を見て、春香が小首をかしげた。
だめだ、さっきの今なのに全然自制できていないぞ。
ともあれ。
まずは記念撮影を終えて、俺たちは今度こそドッグランの利用を開始した。
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