第92話 世界の命運は俺に託された?

「なんだか2人の間で、種族の垣根を越えて会話が成立しちゃっているような?」

「なにせ俺とピースケの仲だからな。いわば以心伝心だ」


「うー、ピースケが女の子だったら嫉妬しちゃうかもだし。よかったねー、ピースケ。男の子で。おかげで、わたしとの仲はギリギリセーフだよ?」


「春香、微妙に顔がマジな感じだぞ」

「え、そう? 気のせいじゃない?」


 本当に俺の気のせいなのだろうか?

 俺の直感は、この件はこれ以上は深掘りしない方がいいと告げていた。


「じゃあ行くか」

 俺は直感に従って、この話を切り上げるべく努めて明るく言った。


「うんっ。じゃあピースケ、行くよー。ドッグランまではお散歩だからねー」


 キャウン、キャン!


 俺と春香とピースケは散歩がてら、徒歩で公営のドッグランへ向かった。

 終わったばかりのテストの話とか、この前のカラオケの話なんかをしつつ、春香とピースケと一緒にのんびり歩いていく。


「この前カラオケで撮った動画なんだけど、もう毎日見てるんだから」

「同じ動画をそんなに見て楽しいか?」


「超楽しいよ? デュエットの時に、こーへいが途中でキスしてきたりとかするところか、もう年頃の男の子はしょうがないなぁって思いながら、こう大地母神のように優しい心で毎回見守ってあげてるんだもん」


 ドヤ顔で言う春香だが――。


「ちょ、なに言ってんだよ。あれは春香の方からキスしてきたんだろ」

「違いますぅー。こーへいの方からですぅー」


 言いながら、春香は身体を寄せてくると、甘えたようにトンっと軽く身体を当ててきた。

 くっ、なんだこのイチャコラ可愛い仕草は。

 こんな道端で甘えてくるなんて、まったくもうしょうがない女の子だなぁ! 


「春香だってーの」

 俺も同じように、イチャコラっと軽く身体をぶつけ返す。


「残念ながら、毎日見ているわたしの方が、ちゃんと状況把握ができてるもんねー」


「おおっと、それこそ残念でした。俺も毎日見てるからそこはイーブンなんだよなぁ」


「なーんだ。こーへいも毎日見てるんじゃん」

「え、あ、うん。実は、まぁ」


「さっきは同じ動画見て楽しいかーとか言ってたのに」

「いやー、面と向かって言われたから、ちょっと気恥ずかしくてさ」


「さすがこーへい。安定のヘタレ感だし」

「そう言うなって。チャラいよりはいいんだろ?」


「チャラいこーへいは、世界の命運がかかった場面でも断固ノーだね!」

「そんなにかよ……世界の命運くらいチャラい俺にも救わせてあげろよな……」


「だって、嫌なんだもん。制服を着崩して、髪の毛を染めて、金のネックレスを弄りながら『ちゃお♪』とか言って、女の子の連絡先を集めて回るこーへいより、不器用だけど優しくて、真面目で一生懸命なこーへいの方が大好きなんだもん」


「お、おう。サンキューな」

「だから今のままのこーへいでいてね」


 くっ、そういうことを何度も言いやがってからに!

 どれだけ俺を照れさせたら気が済むんだ、俺の可愛い彼女さんはよぉ!

 

「でもま、一緒にデュエットするのは何度見てもいいよな、うん」

 俺は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったので、強引に話を戻した。


「えへっ、だよね♪」


 だって彼女と身体を寄せ合って、一本のマイクで一つの歌を歌いあげるんだぞ?

 エモすぎて何度も見ちゃうだろ?

 仕方ないだろ?


「近いうちにまた一緒にカラオケに行って、デュエットしようぜ」

「お勧めの曲とかあったら教えてね。お風呂でみっちり練習しておくから」

「ご近所迷惑にはならないようにな」


 などと、周りから見たらバカップルと思われてしまうかもしれない惚気のろけMAXな話をしながら、


 ハッハッハッハッ!


 時折、構って欲しそうにじゃれついてくるピースケの相手もしつつ、のんびり平和に歩くこと40分。


 特に事件やイベントなどに遭遇することもなく、俺たちは目的地であるドッグランへと到着した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る