第91話 チャラッ航平、キラッ☆春香


 いったん家に帰った俺は、動きやすい服装に着替えてから――スポッチャデートの時とほぼ同じだが、まあ多くは言わないでくれ――春香の家の前で再び落ち合った。


「よっ、春香……久しぶり?」

「あはは。久しぶりって、さっき別れたばっかりじゃんかー」


「いやほら、いったん別れたのに、再会時になにも言わないのもどうかと思ってさ」

「その気持ちはわかるかも?」

「だろ?」


「でも、久しぶりはないんじゃないかな?」

「じゃあ春香ならなんて言うんだ?」


「そうだねぇ……無難に『ちゃお♪』とか?」

「えーと、イタリア語だっけ? 春香が時々言ってくるよな」


「響きがすっごく可愛いくない?」

「たしかにな……じゃあ、ちゃお♪ 春香」


 話の流れもあって、俺は軽く手を上げながら爽やかスマイルを添えて言ってみたのだが。


「こーへいが言うと、チャラついててなんか嫌かも……」

「ひでぇ!?」

「なんていうか浮ついたナンパ師みたい。無い寄りの無しかなぁ」

「そこまでかよ……」


「あはははー、だってチャラいこーへいは嫌なんだもん♪ チャラ男こーへいは、断固NO! 今の真面目で一生懸命なこーへいが、わたしは一番好きなんだから」


「お、おう。サンキュー……」

「あ、こーへいが照れてるしー。そうそう、こーへいはそうでなくっちゃね♪」


 楽しそうに笑った春香は、身体にフィットした薄手のピンク色のTシャツに、下は黒の膝丈スパッツとピンクのミニスカート。

 ピンクの靴下と、お気に入りの空色のスニーカーではなく、今日は黒のスニーカーをはいている。


 さらに小さな黒のリュックを背負っていた。

 肩ベルトを長くして、腰の辺りまで下げて背負っているのがすごく可愛い。

 飲み物でも入っているのかな?


「今日はピンクと黒で決めてきた――んだよな?」

「正ー解♪ どう、似合ってる?」


 満面の笑顔の横で、親指、人差し指、小指を立てて、残りの2本を曲げた手を構えた謎ポーズをとる春香。

 その独特のポーズがなんとも気になったので後日、調べてみたら、昔のアイドル系ロボットアニメに出てくる『キラッ☆』という当時、かなり流行ったポーズらしかった。


「可愛い中に大人クール感があって、よく似合ってるぞ」

「惚れなおしちゃった?」


「これはもう惚れなおさざるを得ないよな」

「えへへ、良かった♪」


 そして、


 ブンブンブンブン!


 春香に連れられたピースケが――ご主人様である春香のお話が終わるのを、今か今かと待ちわびていた――尻尾を元気よくフリフリしながら、俺にじゃれついてきた。


 俺の足にスリスリしたり。

 お尻を寄せて顔は振り向きながら、短い尻尾をパタパタと当ててきたり。

 後ろ足立ちになって俺の腰の辺りに両前足を置いて見上げたりと、身体全体で親愛の情をアピールしてくる。


「ははっ、いつ会ってもピースケは元気だなぁ」

 俺は中腰になると、ピースケのもこもこと柔らかい頭を軽く撫でてあげた。


 ブンブンブンブン!!

 嬉しさを伝えるように、ピースケの尻尾がさらに勢いを増す。


「よしよし、元気なのは何よりだぞ。今からいいところに連れてってやるからな。楽しみにしとけよ?」


 ブンブンブン?


「ドッグランって言うところなんだけど、リード無しで自由に走ったり遊んだりできるんだ。いいだろ? 元気いっぱいに遊べるからな」


 ブンブンブンブンブンブンブンブン!!


「そっかそっか、今から楽しみか」

 俺は最後に一度ワシャワシャっと頭を撫でてやってから、立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る