第89話 えっちなこーへい?
「あ、こーへいがさりげなくえっちなことしたしー。スカートをめくって太ももを触ったしー。しかも結構上の方だったしー」
「ご、ごめん!」
「女の子の大事なところをこっそり触るのは、いけないんだぞー。犯罪だぞー」
「いやもう本当にごめん。でも今のは不可抗力で、たまたま当たっちゃったんだよ――って、言い訳に聞こえちゃうだろうけど」
決して意図してはいない行為だったとはいえ、かなり際どいところをお触りしてしまったのは紛れもない事実。
嫌われまいと必死に言い訳をする俺に対して、
「ふふっ、わかってるもーん。こーへいはえっちだけど、紳士なえっちで、そういうズルいえっちはしないもんねー」
しかし春香はにへらーと微笑むと、嫌がるどころかもっと身体をくっつけてきた。
抱き着くというか、押し付けるような感じだった――どことは言わないが。
「ありがと、わかってくれて」
そして今度こそ俺も、春香の腰をしっかと抱きかかえる。
お互いに抱き寄せ合っているので、密着度合いがググっと上昇した。
「えへへ。こーへい、好き♪」
再び耳元でささやくように呟いた春香。
「春香――」
愛おしさがもう限界まで高まってしまった俺は、いてもたってもいられなくなって――もうすぐ歌が始まるっていうのに――春香にキスをしてしまった。
もちろん春香がそれを拒むことはなく、そっと目を閉じて応えてくれる。
「ちゅ、ちゅ。ちゅ……んもう、こーへい、急にどうしたの?」
「いやその、ついキスしたくなっちゃってさ」
「もぅ、こーへいは、ほんとーにえっちなんだから。ちゅっ」
そんなことを言いながらも、春香はまたおねだりするように唇を合わせてくる。
「春香、ちゅっ、好きだぞ……ちゅっ、ちゅっ」
俺は春香の唇にキスを重ねていった。
「わたしも大好きだよ――って、ちょっとこーへい!? いつの間にか歌が始まっちゃってるよ!?」
春香が焦ったように言って、俺も慌てて画面に視線を向けると、既に1番の半ばくらいまで歌が進んでいるのが目に入った。
「しまった、つい気持ちが盛り上がっちゃって」
「初めてのデュエットなのに、出だしからグダグダだよ~」
「一回入れ直すか?」
「ううん。これはこれで、いい思い出な気はするし」
「超グダグダだけどな」
「わたしたちらしくない?」
「かもな」
「とりあえず歌おうよ? 一緒に一度の初デュエットだし。ここからは頑張っちゃお?」
「了解だ」
俺と春香は仲良く身体を寄せ合ったまま、1番の途中からデュエットを始めた。
とまぁ、出だしこそグダグダの極みだったものの。
「「やさしさで溢れるように~♪ 大好きなあなたに、センチメンタル・キスをあげたい~♪」」
一度歌い出してしまえば、それぞれのマイクで歌ったり、敢えて顔を寄せ合って1本のマイクで歌ったり、間奏の時にまたキスをしちゃったり。
なんなら1本のマイクで歌う時に、顔が近過ぎて自然とキッスしちゃったりと、俺と春香の初めてのデュエットは盛り上がりに盛り上がった。
「初めてやったんだけどさ、1本のマイクで歌うのって、なんかいいな」
「えへへ、だよねっ♪ 心が1つになった感じがするよね」
「いいリフレッシュになったか?」
「うん、試験勉強の最後の追い込みもはかどりそう♪」
「高校最初のテスト、頑張ろうな」
「一緒にいい点を取ろうね♪」
「まだ少し時間残ってるけど、どうする?」
「せっかくだし次もデュエットしない?」
「OK」
その後、時間いっぱいまで、俺は春香とのラブラブデュエットを心行くまで満喫した。
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