第88話 続・バカップル in カラオケ

「撮ってもいいよね?」

「もちろんいいぞ」

「よかった♪ 断られたらまた『お願い』しないといけなかったから」


「自分は彼女の歌う姿をバッチリ撮影しておいて、彼女が自分を撮影するのは許さないとか、さすがに自己中すぎてヤバイだろ?」


 でもそうか。

 断ったらまた『お願い』をしてもらえたのか。

 ちょっと残念……って俺は何を自然にいやらしいことを考えているんだ!

 これじゃ本当に『えっち発生装置・こーへい』じゃないか。


「亭主関白どころか亭主皇帝だよね。でもそれはそれでありかも?」

「ありなのか?」


「だってヘタレなこーへいが、専制君主こーへい陛下になってオレ様になる姿はちょっと見てみたいもん」

「へいへい、俺はどうせヘタレですよ」


「もぅ、拗ねないでってば。今からカッコよく撮ってあげるから安心して? もう世界で一番カッコよく撮ってあげるから」

「お、おう。サンキューな」


 付き合う以前からと変わらずに、付き合ってからもストレートな好意をぶつけてくる春香。

 そんな春香とのカラオケは、始まったばかりだっていうのに、なんていうかもう幸せで心がハピハピ感謝祭になりそうだった。


 俺は男性でも歌いやすいようにキーを下げると、幸せいっぱいの気分でマリーゴールドなラブソングを歌い始める。


 ただまぁ、ぶっちゃけ?

 歌の方は可もなく不可もなくな感じだった。


 音痴ではないので音程を外すことはないが、感情が乗っていて心に響いてくるようだった春香の歌と比べたら、お世辞にも上手とは言えない。


 それでも春香は、楽しそうに俺の歌に聞き入ってくれて、


「バッチリ撮れたから、こーへいフォルダに移動っと。後で無限ループしちゃおう」

「無限ループって、なんだよ?」


「勉強中の作業用BGMにしたり、聞きながら寝るとか、いろいろかなー」

「一応テスト前なんだし、勉強や睡眠の邪魔にならない程度でな……?」


「勉強の時に聞いたらはかどるし、寝る時に聞いたら気持ちよく寝れるのは間違いないよねっ」

「あ、あはは……」


 なんて言って、とても喜んでくれたのだった。


 その後、何曲か代わりばんこに歌ってから、


「ねぇねぇ。せっかくだしデュエットしない?」

 春香が素敵な提案をしてきた。


「お、いいな」

 一応言っておくと、俺も提案するタイミングを見計らっていたんだぞ?

 春香の方がちょっとだけ、それが早かっただけで(ヘタレでごめんな)。


「あれとかどう?」

「これなんかもどうだ?」

「2人の初めてだから、曲も素敵な曲にしたいよね」

「2人の初めてだもんな」

「初めてだもんねー。えへへ」


 などと選曲だけでも大盛り上がりしながら、まずは2人で歌う曲を決めると、


「角度はこんな感じかな?」

「バッチリ映ってるぞ」


 初デュエット記念の撮影用に、スマホを机にセットした。

 俺と春香の2台で撮影をする万全の撮影体制だ。


 歌うのはもちろん流行りのラブソング。

 カップルでデュエットするんだから、これはもうラブソング以外ありえないよな。


 準備を終えて前奏が始まると、

「えいっ♪」

 すぐに春香が俺の腰に手を回してきた。


 負けじと俺も春香の腰に手を回そうとして――。

 偶然にも春香のスカートの裾に指先がかかってしまい、スカートを少し持ち上げつつ春香の太ももを直に触ってしまった。


 しかも触ったのは太ももは太ももでも、かなり上の方の際どいところだった。


 ちょっと熱っぽくて、もちもちと柔らかいけど、すべすべで張りがあって、なんとも艶やかで蠱惑的な感触が、俺の指からダイレクトに伝わってきて、

「――っと!」

 俺は慌てて春香の太ももから手を離した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る