第81話 図書室の彼女と幼馴染(1)
早速、勉強を始めた俺たちがしばらく静かに勉強していると、
「んー……、むー……」
春香が悩ましげな表情で手を止めていた。
右手に持たれたシャーペンは、文字や数字を刻むという己の役目を忘れ、空中で所在なさげに揺れている。
「春香、そこはね――」
するとすぐに千夏が助け舟を出した。
千夏は中腰になると、俺の背中側から春香の方に身を乗り出す。
必然的に、千夏の胸が俺の肩あたりにぎゅむっと押し付けられることになってしまった。
春香よりも大きくて柔らかい『ふよふよ』が、むにょむにょむにょーんとした。
ぐ、偶然当たっているだけだよな?
わざと当てているわけじゃないよな?
胸が当たっていることを千夏に伝えるか?
だがしかし、胸が当たっていることを指摘したら、俺が千夏のことを変に意識してるみたいだし、それだと春香の機嫌が悪くなる気がする――かなり、とても。
どうしたものか――なんてことを心の中で思っている間にも、千夏先生によるティーチングは続いていて。
「はい。これで後は、公式に当てはめればいいだけ」
「なるほどね~。そういうことかぁ。なるほどなるほど~。ありがとね、千夏」
「いえいえ、どうしたしまして」
素直に感謝の言葉を述べながら、納得を示すように何度も春香がうなずく。
うんうん。
俺もわかるぞその気持ち。
俺も中学時代に何度も千夏に付きっきりで勉強を見てもらったから知っているけど、千夏は単に頭がいいだけじゃなくて、誰かに教えるのも本当に上手なんだよな。
わからないポイントを、わかってくれるっていうか。
「すごくわかりやすかったし」
「こう見えて勉強は得意ですから。遠慮せずに何でも聞いてくださいね」
「さすがは入試トップ、言うことが違うね~」
「いえいえそんな。高校の勉強は、中学までとはまた違いますから」
「またまたそんなこと言って~。中間テストでも学年1位とか狙ってるんでしょ?」
「ことさらに学年1位を狙ってはいませんけど、なんでも1位を取れるのなら、取れるに越したことはないですよね」
「うわ、いいなぁ。わたしもそんなセリフをサラリと言ってみたいなぁ」
「言うだけならタダですよ?」
「あはは、絶対無理なのがわかってるのに言っちゃったら、結果が出た時にわたしが恥ずかしいだけだしー」
「ふふっ、そうかもしれません」
「ちょっと千夏? そこは否定するとこでしょ? 1位を取れる可能性は全員にあるとか、いい感じのことを言う場面でしょ?」
「ふふっ、申し訳ありません」
「まったくもぅ、千夏ってばー」
春香と千夏がにこやかに笑い合った。
(おおっ? なんだなんだ? 最初はどうなることかと心配していたけど、この2人、意外といい感じじゃないか?)
普段はバチバチだけど、こうやってみると普通の女子高生2人って感じだよな。
テスト勉強を通じて、お互いの心も通じ合ったとか?
いやはや、良かった良かった。
さーてと、俺も2人に負けないようにしっかり勉強するか。
なにせこの中で一番勉強できないのは俺なんだからな。
高校最初のテストでつまずいたら悲惨だ。
よっしゃ、気合入れてやるぞ!
――などと平和ボケをしていた時期が、俺にもありました。
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