第80話 3本の矢は……折れない?
「じゃあ今日は3人で勉強するか? うん。みんな同じテスト範囲なんだし、そもそも勉強するだけだもんな」
「あら、そう?」
「矢が1本だけだと簡単に折れちゃうけど、矢が3本になったら折れないってことわざもある。3って数字には昔から大きな意味があるはずなんだ!」
図書室で大人キッスをして後ろ暗いことありまくりの俺が、これ以上の追及を避けるために、毛利元就の有名なエピソード(三子教訓状って言うんだったか?)を持ち出すと、
「いいこと言うね航平。他にも3人寄れば文殊の知恵、ってことわざもあるもんね」
千夏が笑顔で我が意を得たりとばかりに頷いて、
「だ、だよね~! 別に勉強してるだけなんだから、千夏と一緒でも全然ちっともこれっぽっちも問題なんてないよね~!」
俺と同じく後ろ暗いことありまくりの春香も、話に乗ってきて――。
「よかった。それじゃあ仲良く3人で勉強しましょうね」
千夏の計略にもろにハマった俺と春香は、3人で一緒にテスト勉強をすることになったのだった。
……まぁ?
テスト勉強をしに来たんだしな。
ぜんぜんそんな、残念とか思ってないぞ。
学生の本文は勉強だもんな。
マジほんと……ほんと、ほんと。
昨日の大人キス、すごかったなぁ。
柔らかくて、温かくて、ヌルヌルで……って、思い出すな俺!
俺たちは図書室にテスト勉強をしに来ているんだ!
ともあれ、千夏をメンバーに加えた俺と春香は、昨日と同じく奥の隅っこの席に座った。
俺を間に挟んで、春香と千夏が俺の左右に座る。
千夏と春香は、なんていうかその、あんまり仲がいいわけでもないし、当然そういう並びになるよな、うん。
「とりあえずテスト勉強の前に、まずは今日出た数学の宿題からやろうかな」
俺が鞄から数学の問題集を取り出すと、
「今日はいっぱい宿題出たもんね。しかもテストはここから似たような問題がいつくか出るって言ってたし」
春香も同じように数学の問題集を取り出した。
「大事なところだからなんだろうけど、先生もぶっちゃけてたよな」
「ここからここまではしっかりとマスターしておくようにって、念押しするように何度も言ってたもんね」
「テストに出るともなれば、生徒はみんな熱心に勉強するもんなぁ」
「多分だけど、高校最初のテストだから、つまづかないようにしてくれてるのかな?」
「かもしれないな」
「優しい先生で良かったよね」
単に授業を行えばいいってだけじゃないあたり、先生ってのも大変な仕事だよなと、なんとなくそんなことを思ってしまう俺。
「でしたら私も今日は数学にしましょうか」
千夏が俺たちと同じ問題集を取り出した。
どうやら千夏も今日は数学の授業があったようだ。
「千夏は別に好きなのやればいいじゃんか。入試で1位だったんでしょ。そもそもそんなに勉強しなくても余裕なくせにー」
俺との2人きりの勉強会を邪魔された不満から、春香の声はなんとも攻撃的で棘を感じる。
「1年生1学期の中間テストは、高校最初のテストですからね。今後3年間を占う意味でもとても大事なテストですから、手は抜けませんよ」
しかし千夏はそれに顔色一つ変えずに、立て板に水のごとくサラリと言葉を返した。
「むぅ……」
口のうまさでは相手にならず、むくれる春香。
「ほ、ほら。無駄話はそれくらいにして勉強しようぜ」
俺の言葉で、春香はしぶしぶ、千夏はすまし顔で数学の問題集を解き始めた。
つ、疲れる……。
まだ勉強会は始まってすらないってのに……。
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