第67話『でもえっちしたくなったらいつでも言ってね。わたしこーへいとならいつでもえっちオッケーなんだから』

『でもえっちしたくなったらいつでも言ってね。わたしこーへいとならいつでもえっちオッケーなんだから』


 いつだったか、春香が2人きりの時に言ったセリフが、俺の頭の中で何度もリフレインする。


 これは流れで行ってしまうのか?

 このまま大人の階段を、最上段までノンストップで上りきってしまうのか?


 いつでもえっちオッケーってことは、いつでもえっちオッケーってことだもんな(錯乱気味)。


 でも俺たちまだ高校生なんだぞ?

 しかも1年生の5月。

 さらに付き合いだして、まだ初日ときた。


 だっていうのに、そんな軽はずみにえっちしちゃっていいのだろうか?

 そういうことは、もっと2人の愛とか絆をじっくり深めてからにするべきじゃないだろうか?


 でもでも、クラスの女の子にも初体験を済ませた子がいるって春香も言ってたもんな。

 春香の部屋にはちゃんと、こ、コンドームだってあるんだし。

 コンドームっていうのは、えっちをするためだけに作られた特別なアイテムなんだから。


 なにより俺と春香は、入学式の日からずっと特別に仲良くしていたんだ。

 特に深夜の告白大会以降は、実質付き合っていた期間と言えなくもないわけで。


 そしてその間に2度もすれ違いをしちゃったり、そもそもピースケを助ける運命的な出会いから関係が始まったりと、春香とは短いなりに、とても濃密な時間を過ごしてきた。


 つまり関係の深さという点においては、なんの問題もないのではないだろうか?


 くっ、どうする俺!?

 どうする――!


『やめたほうがいいよ航平。えっちは神聖な愛の儀式なんだから、出会って1か月ちょっとの女とするなんて、ちょっとおかしくない?』


『全然そんなことないと思うけどなー。期間が長ければいいってもんじゃないでしょ? 量より質っていうか? そういうわけだから、あれこれ考える前に、とりあえずやっちゃったら? こーへいと春香は両想いなんだしー』


『付き合って1日「だけ」の彼女さんね』

『ゼロって、何を掛け算しても永遠にゼロのままなんだよね~。1は増えるけど』


『でもマイナスを掛けたら、1はマイナスになっちゃうよね。ゼロはそのままでいられるけど』

『こーへいとの間にマイナスを掛けることなんてないもん!』


 バチバチバチバチ!!


 俺の脳内で『聖なる天使』vs『性なる小悪魔』が、ハルマゲドンがごとき激しい葛藤バトルを繰り広げていると、


「でも、ざーんねん。今日からしばらくお父さんが家にいるんだよね」

 春香がとても申し訳なさそうに言った。


「あれ、そうなのか?」


「うん。お父さん、ここ1年くらいずっと鬼のように忙しくて、馬車馬のように働いてたんだけど」


「馬車馬のように……春香のお父さん、大変だったんだな」


「でもでも、やっと大きなお仕事が終わって、今までの分をまとめてお休みとるんだって言ってたの。2週間くらいおやすみするって言ってたから」


「なんだ、そっかぁ」


 心の底から残念に思う反面、選択するということ自体を先延ばしにできてホッとしている俺がいた。


「こーへい……なんかホッとしてない?」

「き、気のせいだろ」


 さすが春香、鋭いな。

 俺のことを本当によく見てくれている。

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