第59話 「えへへっ、一緒だね」
「うーん、楽しかったねー。特に3つ目のカーブの、逆に振られて一瞬ぎゅわっとくる浮遊感! 宇宙遊泳みたいだったし! チョベリグ!」
「チョベリグっていつの言葉だよ……でも楽しんでくれてよかった」
たしかチョーベリーグッドの略だとかなんとか、聞いた記憶があるようなないような。
「こーへいと付き合いだして初めてのデートだもん、楽しくないわけないけどね。えへへ!」
「お、おう……ありがと」
あのあと結局10回ほどウォータースライダーをリピートした俺たちは、休憩がてら飲食スペースでかき氷を食べていた。
俺がクールなブルーハワイ味で、春香は情熱的な赤色いちご味だ。
ブルーハワイは名前もカッコいいし、色は抜けるような青が目に鮮やかだしで、実はひそかなお気に入りなんだよな。
「ガッツリ遊んで火照った身体に、冷たい氷が気持ちいいねー」
「生き返るって感じだよな」
「誘ってくれてありがとね♪」
待ち合わせから今に至るまで、春香はずっと嬉しそうにしてくれている。
だから俺も同じように幸せ気分でいられていた。
それにしてもかき氷ひとつ食べるにしても、男子と女子とで全然違うもんなんだな。
俺がザクザク豪快に食べたのに対して、春香はちょっとずつ可愛らしく食べている。
こう言うところもやっぱ女の子らしくて可愛いなぁ。
「うー、プールで食べるかき氷は最高だよねー。日本人ならかき氷だよ! あ、そうだ」
日本の夏の様式美にご満悦の春香は、ふと何かを思いつくと、
「ふふっ、はい、あーん」
と、自分のかき氷を一サジすくって俺の顔の前へおt差し出した。
俺はもちろんそれをパクっと口にいれる。
「うん、冷たくておいしい」
「えへへ……」
嬉しそうにほほ笑む春香。
素晴らしいな。
この世界はなんて素晴らしいんだ。
デートに来て水着で触れ合って、そして休憩しながらかき氷をあーんする。
俺は今、間違いなく人生の絶頂にいるな。
「春香」
俺がなんとなく名前を呼ぶと、
「ん、なにー?」
春香はストロースプーンを咥えたまま、笑顔で俺の目を見つめてくる。
「今日の春香はいつにも増して可愛い気がする」
「ふふっ、今日のこーへいはすごく優しいよね。大好きだし♪」
「俺も可愛い春香が大好きだよ」
「えへへっ、一緒だね」
それにしても濡れた髪や肌のせいで、今日の春香はいつもの可愛さに加えて少し大人っぽい感じがするんだよな。
お風呂上りのワンステップ手前というか、とてもドキドキさせられるんだ。
「夏休みにでもまた一緒に来ような」
「うん!」
だから俺がまた来ようと約束するのも、これまた当然なわけだった。
その後。
残ったかき氷を食べ終わると、俺たちは再びプール遊びを再開した。
春香はよほど気に入ったのか、最初にまたウォータースライダーを数回遊んでから、
「次は流れるプールいこーよ」
人工水流のあるプールでのんびり流されたり、
「こーへいこーへい、50メートルで競争しよ!」
ロープの張られた競泳コースで競争したり。
さすがに競争したら体格差で男の俺が勝つだろうって思ってたんだけど、
「ぜぇ、ぜぇ……は、春香って泳ぐのめちゃくちゃ得意なんだな……」
俺は大接戦の末に、僅差でかろうじて勝利していた。
最後はカッコ悪いとこ見せられないって気持ちだけで死ぬ気で泳いだんで、息も絶え絶えだ。
いや気を使って春香が勝たせてくれたのかもしれないな……その証拠に、ゼーハー言ってる俺と違って、春香にはまだまだ余力のようなものが感じられたから……。
「こう見えてわたし小学2年から中学校に入るまで、スイミング教室に通ってたからね」
「どうりで泳ぎ方が綺麗だと思ったよ……」
バシャバシャと素人丸出しで無駄の多い俺の泳ぎと比べて、春香の泳ぎはスムーズで明らかに洗練されていたから。
とまぁ、そんな風にめいっぱい遊びつくしているうちに夕方になって、最後にもう5回ほどウォータースライダーをやって、楽しい楽しい一日はお開きとなった。
電車で二駅、見慣れた地元へと帰ってきた俺たちは、春香の家の前でお別れをする。
「じゃあ、またね。ん――」
向かい合う春香が俺の腰にそっと手を回してくっつくと、目をつぶって少しだけ上を向いた。
俺も軽く抱き返しながら、軽く突き出された春香の唇にそっと自分の唇を重ねる。
唇から伝わる柔らかい感触に、心が更なる幸せで満たされていく。
「えへへ、おやすみ、こーへい」
「おやすみ、春香」
春香とカップルになって初めてのデートは、最高に幸せなままで幕を閉じたのだった。
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