第58話 「ほわっ、愛……」
そんなこんなで室内レジャープールへとやってきた俺と春香は、まずは別れてそれぞれ水着へと着替えることにした。
俺は先にちゃちゃっと着替え終えて、更衣室前のオープンスペースで軽く準備運動をする。
すると、遅れて着替え終えた春香がてけてけとやってきた。
「おまたせー」
そう言って笑った春香に、は本日2度目、またもやぽけーっと見惚れてしまったのだった。
「こういうの初めてなんだけど……どう、似合ってるかな……?」
少し内股になってモジモジしながら、得意の上目づかいで見上げてくる春香。
くっ、この恥ずかしそうに見上げてくる姿が、どうしようもなく可愛いんだけど!
「えっと――」
そんな春香の水着はなんとピンクのビキニだった。
なにこれすごい。
肌色がすごく多い。
覆われている部分ときたら、下着とそう変わらない少ない面積で。
普段は制服に隠されてる春香の綺麗な肌が、これでもかってくらいに露出しているのだ。
女の子らしい柔らかさを感じさせるまぶしい太もも。
そして胸元のボリューム。
なんどか過失的接触があった時に、け、けっこう大きい……という感じがしていた双丘が、小さな布きれの中で激しすぎる自己主張をしていた。
「この水着、買ったまではよかったんだけど、いざ着てみたらちょっと攻めすぎかなーって思わなくもなかったり? でもせっかくカップルになって初めてのデートだからがんばってみました!」
最初は恥ずかしそうに小さな声で、でも最後は若干やけくそ気味にガー!っと説明をする春香。
「うん、すごく可愛いよ。最高に可愛いよ」
そんなもん、これ以外の答えはありはしないだろう?
「えへへ、ありがと。がんばって攻めてみて良かったー」
春香がにっこり微笑んだ。
ふぅ、やれやれ。
俺の彼女、可愛すぎじゃない?
その後二人で入念にストレッチをしてから、
「じゃあどこから遊ぼっか?」
俺は春香の希望を聞いてみた。
すると、
「ウォータースライダー!」
春香が元気いっぱいに宣言する。
「だよな。ここのウォータースライダーは屋内最大級が売り文句だもんな。実は俺も楽しみだったんだよ」
「最低5回は乗ろうね」
「いいぞ、飽きるまで乗ろうぜ」
というわけで俺たち2人は、この施設一番の目玉であるウォータースライダーの待機列へと並んだ。
しばらく並んでてっぺんのスタート地点まで行くと、そこには水着にスタッフパーカーを羽織った係のお姉さんがいた。
「おや、次は初々しいカップルさんですねー」
「か、カップル!?」
春香がそのワードにピンポイントに反応し、
「う、うん。だよな?」
俺も改めて人から言われてしまって、なんかちょっとこう気恥ずかしくなってしまいました!(>_<)
俺と春香が恥ずかしそうにしているのを見て、お姉さんは、
「ほうほうふむふむ。そっかそっか」
なにやら色々と分かった風な顔をみせた。
「じゃあ2人一緒のカップルすべりですね。彼女さんは左右の取ってを持ちながら、ここに座ってください」
春香が言われたとおりに、ぽてんと滑り台の上のスタート位置へと腰かける。
「次は彼氏さん。はい、後ろから彼女さんを抱っこするように、くっついて座ってくださいねー」
「おおう!? いきなり何言ってんすかお姉さん!?」
「いやいや途中で離れちゃったりしたら危ないですからね。決して離れないように、愛の力で彼女さんをぎゅっと抱きしめてあげてください」
「ほわっ、愛……」
春香が小さくつぶやいた。
「あ、でも。女の子の身体は繊細ですから。ポイントは力を入れ過ぎないこと。腕だけじゃなく、こう大きく身体全体でそっと包み込むようにして、やさしーく抱きしめてあげてくださいねー」
ノリノリでおせっかい焼きなお姉さんを前に、俺が優柔不断にオロオロしていると、
「ほらこーへい、はやく座って。後ろも詰まってるし」
春香が顔を前に向けたままそう言った。
顔は見えなかったけど、きっと真っ赤になってるんじゃないかな。
だって耳とか首まで真っ赤っ赤に染まってたから。
こっち向くのが恥ずかしいんだろうな。
まったく可愛いやつだなぁ、もう!
そして俺たちのすぐ後ろには大学生くらいのカップルがいて、私たちもあんな時代があったよねー的な微笑ましい会話をしていた。
全ての元凶たる係のお姉さんに視線を向けると、親指を立ててGO!GO!とジェスチャーしている。
くっ、この銀河級おせっかいさんお姉さんめ。
もはやこれまで――俺は腹をくくると、
「で、では、失礼しまつ」
……ぐぬ、噛んでしまった……ダサすぎて泣きそう……。
テンパリつつも俺は春香を後ろからまたぐようにして座ると、腰のあたりに手を回して優しく抱き抱えるようにして密着した。
「んっ……」
俺の腕の中で春香がくすぐったそうな声をあげて、小さく身をすくめる。
今、俺と春香は肌と肌とがこれでもかと密着していて。
春香のすべすべの柔肌は赤みが差して火照っていて、つまりなんかもうすっごく恥ずかしいんですけど!?
そして係のお姉さんは――さっきまではさらっと流していたので明らかにわざとだろう――その密着状態が長続きするようにと、丁寧に丁寧に一つずつ指さし呼称して確認をしつつ時間をかけて安全チェックを済ませてから、
「じゃあ行きますよー! それではお二人のこれからに幸あれ!」
それ明らかにウォータースライダーする時の掛け声じゃないよね?というツッコミを入れる間もなくスベり出す俺と春香。
最初のゆるい勾配から徐々にきつくなり、ぐるぐるとまわりながらどんどんと加速していく。
「すっごーい! たーのしー!」
俺の腕の中で春香が元気いっぱいに声をあげた。
冷たい水しぶきを浴びながら、だけど春香の熱を身体全体で、しかも肌と肌とでダイレクトに感じながら、
「わぷっ」
春香が可愛らしい声を上げて、俺たちはどぼんと下のプールへと突っ込んだのだった。
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