第53話 俺は春香を追って――
俺は階段を駆け下りながらラインで「ごめん春香、でも誤解なんだ」って急いで送信。
さらに「話したいんだ」「どこにいるの?」と続けて送る。
同時に俺は春香がどこに行ったかを考えていた。
音がした感じだと階段を1階まで下りてったっぽいから、多分もう校内にはいないはずだ。
確認のために春香の下駄箱を開けてみると、学校指定のローファーはなく代わりに上履きが乱雑に突っ込んであった。
春香は登下校の時いつもきれいにそろえて入れてたから、屋上から逃げるために急いで履き替えて突っ込んだんだろう。
それはつまり、
「それぐらい春香がショックを受けてたってことだよな」
強い強い後悔が俺を襲ってくる。
でももう学校の外に出ちゃってるとすると、きついな。
捜索範囲が一気に広がってしまう。
藁にもすがる思いでラインを確認してみたけど、まだ既読はついていなかった。
「完全に出遅れたな……」
何が何でも校舎内で追いつかないといけなかったんだ。
校舎の外を見ても既に春香の姿はどこにも見当たらない。
もう校門を出てしまったんだろう。
元気ハツラツなピースケを毎日散歩させているだけあって、春香の運動能力はかなり高い。
いきなり千夏がキスしてきた
↓
そこに春香登場
この突然の連続コンボで頭が回らず、それですぐに追いかけられなくて無為に時間をかけてしまったのは、取り返しがつかない程に致命的だった。
なにより俺は、
「くそっ、俺はまた春香を傷つけたのかよ――」
なんで俺はこうも成長しないんだ。
変わろうって思って、ちょっとは変われたって思ってたのに――!
いや、終わったことをぐだぐだ考えてる場合じゃない。
それじゃ千夏のことを言われてキレてしまって、春香を傷つけてしまったあの時と何も変わらない。
少なくとも俺はもう、春香を傷つけたことを見ない振りして先延ばしにして、もっともっと傷つけてしまうようなまねだけはしやしないんだから――!
俺は今だ未読のラインにさらに「春香ごめん」「話をしたいんだ」「返事待ってる」と立て続けに送信すると、
「やっぱり自宅が一番可能性が高いよな」
まずは走って蓮池家へと向かった。
◆
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン――。
繰り返しインターフォンを鳴らすけど春香は出てこない。
近所迷惑を覚悟で、
「春香! なぁ春香ってば! 会って話がしたいんだよ! 出てきてくれないか! 春香!」
大きな声で呼びかけてみたけどやっぱり反応はなかった。
「家にはいないのか……?」
春香の両親は共働きで平日はいないって言っていた。
だからもし居留守を決め込まれてたらお手上げだ。
だけど俺はなんとなく、春香は家にいないんじゃないかなって思った。
理由なんてない。
ただ本当になんとなくそう思っただけだ。
強いて言うなら玄関の門が綺麗に閉じられていたから。
上履きを乱雑に突っ込むほどに取り乱してた春香が、逃げるように帰ってきたとしたら。
そうしたら玄関の門は多分開けっ放しになるんじゃないかって、そんな風に思っただけだ。
もちろんこれじゃ全然確証には至らないし、ここに来るまでに少し落ち着いて玄関のドアを丁寧に閉めたのかもしれなかった。
だけどこの時の俺は、なんとなく春香は家にいないって直感したんだ。
「でも家にいないとなると寄り道したってことか?」
こんな時に寄り道?
どこに? なんのために?
去り際、春香の目には涙が溜まっていた。
きっと春香は泣いてる。
人目につくところには行きづらいはずだ。
だから行くとしたら一人でいられるところに違いない。
泣いていても人の目が気にならないところに、春香派いるはずなんだ。
自宅以外で、そんな秘密の隠れ家みたいなところがあるのか――って、
「……あ」
俺はある場所に思い至った。
人目に付かなくて隠れ家みたいな、つらいことや嫌なことがあった時に一人でいられる――。
そんな場所を、俺は春香に教えてもらってたじゃないか――!
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