第48話 一緒にお風呂 2
「ふふっ、やっとこっち向いてくれたね」
千夏が嬉しそうに言った。
「横を向いてると首が痛かったんだよ」
「そう言う意味じゃなくてさ。ここずっと航平はわたしの顔を見て話してくれなかったでしょ? やっと顔を見て話してくれたなって」
「それは、だって――わかるだろ?」
そりゃそうなるだろ?
ずっと好きだった相手に振られて、平然と話せるメンタルなんて俺にあるわけないじゃないか。
だけどいざこうやって逃れられない状態で面と向かって話してみると、前までみたいに話せてしまう俺がいて。
やっぱり俺と千夏はずっと一緒の幼馴染なんだなってことが、すごくよく分かったのだった。
でもそんな千夏との関係も今までとはちょっと違う気がするんだ。
それはきっと今の俺には春香がいてくれるから。
無条件にただ千夏だけを見ていた時とは、俺の心の持ちようが違っているのだから――。
「ふふっ……」
俺を見て千夏が小さく微笑んだ。
「なにいきなり笑ってんだよ?」
「ううん。最近の航平は変わったなって思ってね」
「変わったかな?」
だったらいいんだけどな。
でも変わったとしてもそれは単に心境の小さな変化であって。
他人がパッと見てわかるくらいに変わったとは、俺的には思ってはいなかった。
だから千夏からそんな風に言われたのは正直なところ意外だった。
「自分ではわからないもんなんだよ、きっとね」
「そう言われてもな。やっぱ俺的にはそこまで分かるくらいに変わった風には、思えないんだけどな」
あの夜、自分の気持ちに向き合うって春香と約束して。
それで漫然と受け身で流されるんじゃなくて、春香のことをしっかり見て、それで自分の気持ちがどこを向いてるのかちゃんと理解した上で、自分で考えて春香の想いに答えを出す。
そんな風に思ってはいるけれど、それで劇的に俺自身が変わったかと問われたら正直自信はない。
だけど千夏は断言する。
「航平は変わったよ。ちゃんといろんなことを考えるようになった。すごく大人になった。最近の航平はさ、けっこう素敵だよ?」
「え、いや、その……えっ?」
なに今のセリフ。
俺が素敵だって、千夏がそう言ったのか?
それってつまり――、
「今の航平となら付き合ってもいいかなって思う」
「は? え? ええっ? えええええええっっ!?」
千夏が、俺と付き合っていい、だって!?
そう言ったのか!?
ま、ままままさかなぁ……!?
「ねぇ。航平は誰とも付き合ってないんだよね?」
「いや、えっと、そうだけど。そうなんだけど、俺は――」
春香のことがなんとなく好きっていうか――、そう言いかけた俺の言葉に被せるように、
「春香とはまだ付き合ってないんだよね?」
千夏がはっきりと確認するように言った。
「まぁ、うん……友達以上だけど恋人未満、だと思う……かな」
対して俺の言葉はあいまいだ。
だったまだ結論なんて出してなかったんだから。
「じゃあ私と航平が付き合っても、なんの問題もないってことだよね?」
「そうなる、けど……いやでも……」
「航平が言いたいことはなんとなく分かるよ。だってあの夜、航平が自分で言ってたもんね」
「あの夜? どの夜だ?」
俺がイマイチよくわからないって顔をすると、
「航平が深夜にこっそりと家を抜け出して、春香に会いに行って告白されて、最後キスした夜のこと。航平は私以外の誰かを好きになるって気持ちが、まだよくわかってないんだよね?」
千夏はいきなりそんなことを言ってきたんだ――!
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