第47話 一緒にお風呂

 バスタブに入ってきた千夏はそのまま俺の足の間にちょこんと座る。


 俺と千夏が一緒にお風呂に入るときの昔からのポジションだ。


 俺はさりげなく両手で股間を隠した。


「うーん、ほんと久しぶりだね。懐かしいな。昔はいつもこうやって航平と一緒にお風呂に入ってたよね」


「ああ、うん、まぁ、そうなんだけどな……?」


「でもちょっと狭いかも?」

「そりゃお互いに成長したからな」


 高校生が2人で入るには、一般家庭の平均と思われるうちのバスタブはかなり手狭だ。


 なので俺の足は千夏の身体と、素肌と素肌で完全に密着してしまっていた。

 千夏の柔らかくてさらさらの肌が、俺の内股とかふくらはぎにしっかりと触れてしまっている。


 この1年で俺は10センチ近く背が伸びたし、千夏もいろいろと女の子らしく成長した。

 まぁ具体的にどことは言わなくていいだろ?

 いろいろはいろいろなんだよ。


 俺たちが大きくなったせいで相対的にバスタブは小さくなってしまい。

 だから俺と千夏はバスタブのなかで密着してしまったというわけだ。


「ねぇ航平。さっきからなんでずっと横を向いて壁を見てるの? こっち見なよ?」

「いやまぁ……」


「あ、もしかして照れてるの? お風呂なんて数えきれないほど2人で入ったでしょ? 照れるとか今さらじゃない?」


 千夏が俺のほっぺを指でつんつんと可愛くつついてくる。


「そりゃ照れるだろ? 何度も言うけど俺たちもう高校生なんだからさ」


 言いながらも俺は壁とお見合いするのをやめて、千夏のほうに向きなおった。

 ずっと横を向いてたせいで首が少し痛かったから……。


 そうして俺の足の間にいる千夏を見ると、腕を組むようにして胸を手で隠していた。

 まぁ当たり前だよね、うん。


 少しだけ残念だった、少しだけね。

 俺も男の子だからね、ちょっとは期待をしちゃうよね、うん。


「ま、そう言う私も照れてるんだけど」

「だよな、顔が赤いもんな」


 千夏の透きとおるような白い肌は、照れと恥じらいで真っ赤に染まっていた。

 お湯につかって血行が良くなったから――ってだけじゃないのは明らかだ。


 でも良かった、千夏がちゃんと恥じらいの心を持った乙女で。

 女の子は恥じらいを忘れた瞬間におばさんになるって、なにかのドラマで言ってたから。


「でも航平ほどじゃないけどね。私が1だとしたら、航平は10くらい赤いよ?」

「へいへい、どうせ俺はヘタレですよ」


「そんなこと言ってないってば。むしろ褒めてる褒めてる」


「ほんとかよ?」

「ほんとほんと」


 でも。

 こんな風に千夏と普通に話すのって、ほんとに久しぶりな気がするな。


 告白して振られてからは千夏と会うことを限界まで避けてたし。

 顔を合わせてもどうしてもギクシャクしてしまっていた。


 そんな風になんとなく疎遠になりつつあった幼馴染だったんだけど。


 高校生にもなって一緒にお風呂に入るっていうびっくり仰天なシチュエーションのせいで、それまでの微妙な空気が一気にぜんぶ吹っ飛んじゃったっていうか?


 昔から「裸の付き合い」っていうだけはあるな、とちょっと思った俺だった。

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