第51話 たどりついた答え
翌日の放課後。
「こーへい、一緒にかーえろ♪」
いつものようにニッコリ笑顔で誘ってきた春香に、
「ごめん春香。今日はちょっと用事があるから先に帰っててくれないかな?」
俺は両手を合わせてごめんなさいをしながら答えた。
「ありゃ、残念……。あ、でも学校の用事なら終わるまで待ってようか? 宿題とかスマホで時間つぶすよ?」
「えっ? あ、いや、その、ううん、いいよ。先に帰ってて。どれくらいで終わるかわかんないからさ?」
「ふぅん……うん、わかった。じゃあね、また明日ー」
俺は春香に「ちょっと用があるから」と言って先に帰ってもらうと、屋上に向かった。
◆
俺が屋上に行くとそこには既に千夏の姿があった。
「どうしたの航平? 急に屋上に呼び出すなんて」
特に何があるわけでもない殺風景な屋上には俺たちの他には誰もいない。
だからこそ、ここを選んだんだわけだけど。
「千夏に伝えたいことがあってさ」
開口一番、俺はそう言った。
「あら改まってなに? っていうか普通に家でよくない? お隣さんなんだし」
千夏が小さく首をかしげる。
「家はちょっとな……家族の目もあるし……」
「もしかして昨日の告白の答えかしら?」
「……それなんだけどさ。はっきり言うよ、俺は春香が好きなんだ」
意を決して俺は言った。
昨日の夜一晩かけて自分の心と向き合って得た、これが今の俺のウソ偽りのない結論だった。
「そっか……でも航平って、ついこの間まで私のことを好きだって言ってたはずだよね?」
千夏の言葉はもっともだ。
これじゃあ女の子なら誰でもいい、みたいに見えるだろう。
けど違うんだ。
「ずっと好きだった千夏にフラれて人生どん底だった俺をさ、春香が救ってくれたんだよ。春香があの時俺にかまってくれなかったら、俺はこんなすぐには立ち直れなかったと思う。だから俺は春香に感謝してるんだ。それで――」
「お礼で付き合ってあげるってこと? それはちょっと春香に酷いんじゃないかな?」
「ごめん、言いかたが悪かったな。俺はさ、春香と一緒に過ごしてるうちに変わらないといけないって思うようになったんだ」
そう。
俺は春香がいたから変わろうと思うことができたんだ。
千夏のことを言われてカッとなって春香を傷づけてしまった時に、そしてその後ごめんなさいをした時に。
俺はあの時、これまでの自分がなにも考えずに生きてきた子供だって思い知ったんだ。
そしてそのせいで俺は春香という優しい女の子を傷つけてしまった。
辛いことがあったら、何もしてこなかった自分を棚に上げて暗い顔をして現実逃避をして。
イラっとしたら感情をコントロールできずに理不尽にキレてしまって。
俺はあの時そんな自分でいいのかって初めて思ったんだ。
「春香を傷つけてしまった時、俺は自分を変えなきゃって、もっと大人にならなきゃって初めて思ったんだよ。逃げずに自分の人生をちゃんと自分で見定めて進んでいこうって、そう思ったんだ」
「そっか、航平が変わったのは春香のおかげだったんだね」
千夏が納得って感じの顔をする。
「俺の告白を断った時にさ。千夏が俺のことをパッとしないって言っただろ?」
「うん、言ったよ」
「それも今ならなんとなく納得できるんだ。俺はずっとなんとなく流されるように生きてきた。物心ついたときには千夏と幼馴染の関係にあって、なんとなく千夏と付き合うんだろうって勝手に思ってた」
今さらながら馬鹿だと思うよ。
当時の俺はどうしようもないくらいにお子様だったんだから――。
「勝手に敷いたと思っていたレールの上を、俺は何も考えずにただ歩いてたんだ。でももう今は違う」
「そうね。最近の航平は変わった、すごく変わった。だから私も航平を異性として見るようになったんだし」
「その気持ちは嬉しいよ。俺もずっと千夏のことが好きだったから」
でも──だけど。
「今の俺は春香と一緒にいたいんだ。あの時、春香が俺に寄り添って背中を押してくれたように、俺も春香の隣であの時もらった優しさを、今度は俺が大好きな女の子に返してあげたいんだ」
「……」
「あの時、やさぐれてた俺の心に光が差し込んだんだ――あたたかくて優しい、背中をそっと押してくれる春香っていう光がさ。だから今度は俺が、春香が困ったときにそっと照らしてあげたいんだよ」
俺は心の中のあれやこれやを全部、吐き出すように千夏に伝えた。
千夏への想いに完全に区切りをつけるために。
「航平って意外と詩人だったのね。もしかして大学は文学部志望かしら?」
「茶化すなよな……俺は恥ずかしいのをすっごく我慢して言ったんだぞ?」
だってこんなのどう見ても俺のキャラじゃないからな。
「ごめんなさい、ちょっとムカついちゃって」
「なんでだよ!? めっちゃいいセリフだっただろ!?」
今のどこにムカつかれる要素があったよ?
それとも俺のポエムっぽいセリフがそんなにムカついたってこと!?
ひどくない!?
すると千夏は、
「ふぅ……っ」
と、小さく息を吐いた。
そしてなぜか密着するようにくっつくいてくる。
「な、なんだよ?」
急にひっつかれてドキッとした俺の問いかけに、だけど千夏は答えることなく、
「ちゅ――っ」
俺の頭を強引に抱きかかえるといきなりキスをしてきたんだ――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます