第16話 「もぅ……こーへいのえっち」

 しまむらを出た俺は、


「春香はこのあとどうするんだ?」


 春香にこの後の予定を聞いてみた。

 春香が暇してるんなら、せっかくだしこのままどっかで遊ぶのもありかなって思ったんだ。


「こーへいは特に予定はないの?」

「適当にぶらついてただけだから、ぶっちゃけ暇だな」


「じゃあ一緒に丘公園までいかない? 天気がいいからちょっと風でも感じに行こうかなって思ってたんだよね」


 春香が前髪を軽くかき上げながら言った。

 多分ドラマかアニメかなにかの登場人物のセリフと仕草っぽいんだけど、テレビはもっぱらスポーツ専門な俺には、ちょっとよくわからなかった。


「それいいな。あそこは見晴らしもいいし、芝生も綺麗だもんな」


 ちなみに丘公園ってのは、ここから歩いて20分くらいのところにある、文字通り丘の上の公園だ。

 遊具とかはなくて、公園って言うけどどっちかって言うと広場なのかな?


 風通しが良すぎるために、ぶっちゃけ冬は寒いだけの場所なんだけど、今日みたいな初夏も近い晴れた日の午後なら、さぞかし気持ちのいい風が吹いていることだろう。


 というわけで。

 俺と春香は、町はずれの丘公園までいくことにした。


 和気あいあいと楽しくおしゃべりしているうちについてしまって、今は芝生の上で横並びに二人座っている。


「うーん、いい天気ー」

 春香がノビーっとしつつそのまま芝生に寝ころんだ。


 一緒に隣り合って寝転ぶのはちょっと恥ずかしかったので、俺は手を後ろについて少し体を倒しながら遠く空を見上げることにする。


 白い雲が風に流されながら、次々と形を変えては流れていった。


 温かい日差しと心地よい風に吹かれる、休日の昼下がり。

 今日も日本は平和だなぁ……。


 気持ちのいい初夏の風にほほを撫でられながら、のんびり二人で空を見上げていると、


「ていやっ」

 春香が突然、身体を支えていた俺の左腕をむぎゅっと引っ張った。


「おわっ!?」


 両腕をつっかえ棒のようにして、ぼーっと千切れ流れる雲を見上げていた俺は、その支えの1/2を失ってしまって、為すすべもなく芝生の上に転がってしまう。


 すると、なんということだろうか!


「う――!?」

 目の前の超至近距離に、春香がいた。


 俺の腕を引っ張った時に、力が足りなくて引っ張り切れなかった春香。

 逆に春香が俺の腕に引っ張られるようなかたちで、俺の方へと転がってしまってたんだ。


 しかも、春香は両手で俺の左腕を抱きかかえてしまっていた。


 俺は俺でバランスを崩したときに何かに捕まろうとして、右手が春香のお尻のあたりをガッツリと鷲づかみにしてしまっていて。


 芝生の上で、2人で額を突き合わせるような近い距離で、なかば抱き合うように倒れ込んでしまった俺と春香……!


 春香の大きくてふよふよと柔らかいものが、俺の二の腕にしっかと押し付けられていて――、


「うにゃ、はわ、ふえええぇぇぇぇっ!?」


 春香が顔を真っ赤にし――多分俺の顔も真っ赤になっていて――そうして超至近距離で見つめ合うこと数秒。


「ご、ごごご、ごめんなさい!」


 謝りながら、あたふたと俺から離れようとする春香。


 だけどお互いに変にホールドしあっていたために、逆に身体を押し付けるようになってしまって。


 ちょっと大胆に開いた春香の胸元の隙間から、谷間やらピンク色の可愛い下着やらがチラチラ見えてしまって、うっ、思わず視線が吸い込まれる……。


「もぅ……こーへいのえっち」

 ぽつりと春香が言った。


 だよね!?

 そりゃお互い額がつくくらいの距離で顔を突き合わせてるんだから、俺がどこを見てたかなんてすぐに気が付くよね!?


 その後、深呼吸してからお互いゆっくりと手を離し、そうして無事に分離した俺と春香は、


「う、うんっ……平気だし……」

「こ、こほん……」


 火照った顔を冷やすように、しばし無言のまま新緑の風に吹かれていたのだった。

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