第45話 お風呂
「つ、疲れた……精神的にすごく疲れた……はぁ……」
俺は今日という怒涛の一日の疲れを、お風呂につかってまったりと癒していた。
原因はもちろん千夏だ。
「朝から急に千夏がぐいぐいきだして、春香と張り合うんだもんな……っていうか千夏は何が目的だったんだ?」
俺のことなんて異性としては興味ないはずじゃなかったのか?
なのに登下校では抱きしめるように腕を絡めてきて、お昼は手作りのお弁当を作って、あーんまでしてきて。
あれじゃまるで俺のことが好き――みたいな態度だったじゃないか。
っていうか好意だったよな、どう見ても。
千夏は、好きでもない男に抱きついたりするような女の子じゃないわけで。
「でも今さら何なんだよ、意味が分かんねーよ……」
とか言いつつも、実のところ満更でもない自分がいて。
だってついこないだまで、俺はずっと千夏のことが好きだったんだから。
振られたのもほんの1か月前のことで、積年の想いと決別して気持ちを切り替えるには1か月はあまりにも短すぎるわけで――。
「でも、ほんと今さらなんだよな……」
もしこれが入学したての頃だったのなら俺は悩むことはなかっただろう。
千夏が好意をもってくれたのなら俺たちは晴れて両思い。
だから悩む余地なんて少しもなかった。
「でも今の俺には春香がいるんだ――」
もちろん春香とはまだ付き合ってるわけじゃない。
そりゃあその、春香に対して好意を持ってるのは間違いないけど、付き合ってはいないんだ。
だけどそれはもっと時間をかけて、ちゃんと自分の心に向き合ってから、春香との関係に結論を出そうと思ってたからであって。
決して千夏が1番で春香が2番だったわけじゃないんだ。
少なくとも俺はこの1か月の間に、蓮池春香という女の子に大きな好意を抱くようになっていた。
千夏に振られてやさぐられていた俺を、持ち前の明るさと積極性で立ち直らせてくれた女の子。
仲良くなっていくうちに、どんどんと春香の魅力に引きこまれていく自分がいて。
ずっと好きだったけど振られてしまった千夏と。
知り合ったばかりだけどどんどん好きになっていった春香。
どちらが好きかって聞かれた時に、俺はもう即答できないくらいに春香のことを好きになってしまってたんだ。
「なのに今さら急に千夏に好意を向けられても困るって言うか、困惑するって言うか……」
そもそもなんで千夏は急に俺にアタックしはじめたんだ?
千夏の気持ちが変わった理由を、知りたいよな……。
「ま、こればっかりは本人に聞くしかないか……」
俺はいったんこの件については考えるのをやめた。
「しっかし2人がお弁当を作ってきてくれて、しかも中身まで被った時はほんとどうしようかと思ったな……」
お昼に2人前をガッツリ食べたせいで、晩ご飯はほとんど食べられなかった。
「でも2人とも料理上手だったから、美味しく食べられたのは良かったかな……」
さすがに最後はちょっと苦しかったけど。
俺はだらしなく湯船につかったまま、完全に弛緩したリラックスモードでとりとめのない独り言をつぶやいていく。
お風呂は一番無防備にいられる場所だよなぁ……お風呂大好き民族の日本人に生まれて良かった……なんてことを俺が考えていたときだった。
「航平、入るね」
お風呂場のドアのすぐ外からそんな声が聞こえてきて――ガラッとドアが開いたのは。
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