第43話 「あーん! あーん! あーん!」

「ちゅ、ちゅ、中2まで一緒にお風呂に入ってた!? 中2ってことは2年前!? ついこないだじゃん!?」


 春香がガクガクブルブル震えだした。


「いえ、中学2年の終わりくらいまでだったので、1年ちょっと前くらいですね」


「こ、こここ、こーへいっ!?」


 春香がついには泣きそうな顔で俺を見た。


「いやあの、な? 千夏とは家族ぐるみの付き合いがあったからさ? 昔からの付き合いの延長というか? 一緒にご飯食べたりお風呂入ったり一緒に寝たりとかは、小さいころからの延長でごくごく自然にしてたっていうか……」


「ううっ、ほんとだったし……こーへいのばかぁ……」

 春香が涙目で見つめてくる。


「ほら、そんな昔話より今はお弁当を食べましょうよ。お昼休みが終わっちゃうわよ。はい、航平、あーん」


「ううっ、うううっ! あーん! あーん! わたしもあーんする!」


「分かった、分かったからちょっと落ち着け春香――」


「あーん! あーん! あーん!」


「わかった、わかったから、な、な?」


 千夏にいいようにもてあそばれる春香をなだめすかしながら、結局俺は2人分の唐揚げ弁当を完食することになった。


「はい、航平、あーん」

「うん」


 ぱくっ。


「こーへい、こーへい、わたしのもあーん!」

「う、うん。分かってるからちょっと待って、まだ飲みこんでないから――」


 むぐっ。

 口の中に無理やり唐揚げを追加で押し込まれた……。


「ねぇねぇこーへい、美味しい!?」


「もご、もぐ、もご……ごくん。うんもちろん。すごく美味しかったよ。でも口の中が空っぽになってから次のが食べたいかな……?」


「良かったぁ。じゃあわたしの分の唐揚げもあげるね」


「いやさすがにそれはちょっと……」


 俺には既に、春香と千夏が用意してくれた2人分の唐揚げ弁当があるわけで……。


「あら、食べないのでしたら、春香のお弁当はわたしが食べてさしあげますよ」

「ちょっと千夏、なに勝手に食べてるし! それならこっちだって!」


「春香、人のお弁当を勝手に食べるなんてお行儀が悪いんじゃないですか?」

「千夏のほうが先に食べたんだし!」


「だって春香の分は航平にあげたんでしょう? でも航平はお腹がいっぱいだって言うから、だからわたしが代わりに食べてあげたんですけど?」


「ううっ! ああ言えばこう言うし! ムキーっ!?」


「千夏は昔から口が達者なんだよ。言い合いじゃまず勝てないから変に対抗しない方がいいと思うぞ」


 俺は春香に、千夏の幼馴染として散々言いくるめられてきた経験則を教えてあげたんだけど、


「こーへいはちょっと黙ってて!」「航平は少し黙っててくれる」


「あ、はい、すみません……」

 お、怒られてしまった……なぜ……。


 その後、2人が仲良く(?)会話を弾ませている隣で、俺は黙々モグモグと2人分の唐揚げ弁当を完食することに勤しんでいた。


 なぜ黙々かというと、春香と千夏から交互にひたすら「あーん」され続けていたからだ。

 口を休める暇なんて俺にはなかったのだった……。


「ご、ごちそうさま……どっちのお弁当もすごく美味しかったよ……ありがとう……げふ……」


 完食した俺はどうしようもないほどにお腹がパンパンだった。


「こーへい、明日も唐揚げ弁当を用意するから!」「航平、明日も唐揚げ弁当を作ってくるわね、幼馴染として」


「いやあの、唐揚げはしばらくいいかな……今日で十分食べれたから……あと、せめて1日ずつ日をずらして作ってきてくれると、嬉しいかな……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る